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EP.XXXX 「Z-A」

6月も下旬、これから7月に入る
軽井沢は避暑地としては特段有名だが、別に避暑地だからといって
必ず夏は涼しいかというとそうでもない
むしろ、普段から軽井沢に住む人達にとっては気温差で暑いと感じるときもあるぐらいだ。

カラン……
ドアベルが鳴る。
旧軽井沢銀座は奥、商店街の外れにある別荘街。
そこに建つのはカフェ・プリムローズだ。
高校生にしてオーナーを務める百瀬百々の店にベルを鳴らし来店したのは
長野出身にして今や世界と渡り合う音楽アーティストZ-Aの二人だった。

「よう!元気してっかー!」
と、Z-Aのメインコンポーザーである瀬戸明日葉が勢いよくカウンターテーブルに並ぶ椅子に腰を掛けた。
続くように、Z-Aのメインボーカル風祭朱美が座る。
「すみませんね、お時間取ってもらって」
「いえ、お二人の方こそお忙しいのに」
カウンター越しにカフェのオーナー、百々がメニュー表を並べる。

「あぁ~ひとまずだな、東京でのライブ、アタシぁ映像で見ただけだが、良かったぞ」
「やっぱ若え奴らは画面映えが違うよなー、マイク持ってるだけで様になるっつーか、ずるいよなー」
「明日葉」
何かを言いたそうに、朱美が明日葉を制止した。
「ごめんなさいね、この間は折角告知の時間を取っていただいたのに」

そう、この話こそが本題。
先日に開催されたプリムローズの遠征公演でZ-Aのライブイベントを告知した際、少々トラブルがあったのだ。
その話を聞き、出番か、とカフェのメンバーである八乙女菫がピアノ椅子から立ちカウンターへ立ち寄った。

「いえ、むしろ途中でもわかってよかったと思います」
「ところで、結局何だったんですか?」
菫が問い詰めると、明日葉とてもバツが悪そうだった。
「あー、いやなんつーかな……アタシ等はクリスマスライブのつもりで12月の会場を押さえてて、箱とも握ってた筈なんだが……」
「いや、まぁ結局のところ、中止ってわけじゃねえんだよ、やるにはやるんだがよ」
プリムローズのメンバーが見てきた中で過去一番に歯切れの悪い明日葉の回答だった。

「いや──」
明日葉は朱美に助けろと言わんばかりの視線を送るが、朱美はわざと目の前のアップルパイを食すことに集中した。
「い……今は言えねえ!」
「ともかくだ!今日はMCグダったのを謝りに来た!12月17日は中止じゃねえ!ただ……」
「ちょっとお前らにあのライブ、出てもらうかもしれねえ」
「はい……?」
菫は全く話が読めないところからまさか自分たちが出るという話が出てくると思わずキョトンとした。

「あー!もう!”向こう”の要望なんだよ!それ以上は言えねえ!」
「秋口ぐらいになったらちゃんと話してやるから!それまで気にすんな!予定だけ空けておけ!」
「それ合わせでまた曲作ってやるから、兎に角だ、もうこれ以上詮索すんな!」
「自分で言ったくせに?」
脇で聞いていた朝比奈日葵も流石に悪態をつくしかなかった。

「大人の世界にゃそういうこともあんだよ!」
「モモ!スコッチダブルのハイボール!」
「う、うちアルコールおいてないんですよぉ……」
「だぁー!それぐらい置いとけよ!」
「明日葉、アルハラです」
「まだ飲んでねぇし飲ませてねえって!」
そんなどうでもいい会話にこの一件はしばらくプリムローズのメンバーからは忘れられていくのであった。

それが重大な事件のきっかけになるとも知らずに。

swing,sing XXXX 1st Party
SECRET BLOSSOM
2023.12.17 (sun)
ROPPONGI SEL OCTAGON TOKYO
Coming soon…

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