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初老こどおじ、爆誕

去年の1月末、長年行方知れずで車中泊生活をしていたパパちゃんはコロナ陽性になった。

で、なぜか陽性の診断を受けて病院を出たあとから連絡がとれなくなった。


パパちゃんと交流があるのは祖父母とわたしの3人だけ。祖父母は診察を受ける前にパパちゃんと接していたので濃厚接触者確定。家から出られず探しようもない。

というわけでわたしが深夜に近くの警察署まで出向いて相談、捜索願を出した。父方の苗字に戻した翌日のことだった。

警察署にて。
心を鎮めるためにひとまずパリピのふりをしてみる。

「娘さん、申し訳ないけど今夜は寝ないで待機していてください。最悪の状況も覚悟しておいてください。」
担当してくれた目つきの鋭い警官に言われた。


当時は転職活動をしていて、翌日に第一希望の面接を控えていた。

空が白んできた頃、コンビニの駐車場で息も絶え絶えになっているパパちゃんを見つけてもらった。
どうやら病院からの帰り道で症状が悪化して、少し停まって休もうとしたらそのまま身動きが取れなくなってしまったらしい。

現場に駆けつけてくれた救急隊員にパパちゃんの入院先を探してもらうように電話口で頼み込んで、祖父母やパパちゃんの胡散臭い勤務先に無事の連絡をして、迷惑をかけたコンビニに謝罪して、車のレッカー手配をして。

面接はボロボロだった。実力も運も覚悟も足りなかったんだと思う。

あれから約1年。

どうにか一命を取り留めて退院した日からパパちゃんは自分の実家、つまりわたしの祖父母の家に転がり込んで居候をしている。

何があったのか金銭的な余裕が一切ないようで、家にお金を入れるどころか祖父に毎月の社会保険料を立て替えてもらいながら暮らしている。
複数箇所に面白みのない刺青を入れているようなひとだし、背後にはどす黒いものがあるんだろう。

80代の祖父母は住む場所がない我が子に出ていけと言うこともできず、甘んじて受け入れている。長年ふたりで生活してきたリズムがいっぺんに狂い、精神的なストレスを多分に抱えながら、50代後半に差しかかった息子の面倒を見ている。

ものすごく腹が立つ。腹が立ってしょうがない。

どうしてぬくぬくと年老いた両親に甘えられるんだよ。あんたの娘はもう帰る実家すらないのに。

「母ちゃんこれちょっと味付け薄いわ」じゃねえんだよ。タダメシ貰えるだけありがたく思え。

ずっと寝てないで家事くらい当たり前の顔して手伝え。自分の洗濯物くらい自分で始末しろ。

何より、大好きなじいちゃんばあちゃんに迷惑をかけるな。

パパちゃんと同じ空間にいると怒りの感情が溢れそうになるし、ストレス過多の祖父母に今以上の負担をかけたくなくて、唯一の心の拠り所である祖父母の家に行くことを遠慮するようになってしまった。




高齢の祖父母には余生を穏やかに過ごしてほしい。

ならばわたしがお金を貯めていつかパパちゃんを引き取るべきなのか。未来を潰して地獄を背負うような格好で。何もかも諦めて。

こんなことをこの1年ぼんやりと考えている。答えは一向に出ない。


大好きだった父はもうどこにもいない。
いるのは人生舐めプ初老こどおじ(墨入り)だけ。



パパちゃんもまた、わたしが死に場所を探す理由のひとつ。


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