失くした未来

「ごめんなさい」

2006年1月19日のことである。なに、大したことでは無い。好きな女の子に告白して断られただけのことだ。ごくありふれた失恋の一幕に過ぎない。
だが、客観的には大したことではないとしても、自分にとってはとても大きい出来事であったのは間違いない。なにせ、それから15年もそれを引き摺り続けるのだから。日にちを忘れないくらい。

その日からずっと、僕は叶えられなかった未来にこそ価値があるものと考え、今を紛い物と思いながら生きてきた。天秤が揺らぐことは決してなかった。
行きたい大学に合格したときも、恋人と初めて手を繋いだときも、仕事で幾許かの達成感を得た時も、心のどこかで、あの日失くした未来の先をずっと描きながら生きてきた。

いま、阿武隈急行線の電車に揺られながらこの文章を書いている。あの日から15年と数日経ってようやく気付いたことがある。

それは、あの日以降に重ねた時間こそが自分の人生を彩ってきたということだ。
朝焼けのなか共に笑った友達や、喧々諤々としながらも同じ目標に向けて戦った仲間たち、新しい家族、大切なものがたくさん増えた。
けれど、もし、あのとき違う結果になっていたら、この大切な人たちに出会えることはなかったはず。身に余るくらい沢山の価値のある時間を過ごしてきた。
天秤はとっくの昔に逆転していたのだ。自分がただそれに気付かなかっただけなのだろう。

阿武隈急行線は槻木で東北線と分かれて、終点の福島で合流する。
人生も結局は同じところに行き着くとも聞くが、少なくとも進んできた経路しか僕らは知ることは出来ないし、その道を愛することができればそれでいいと思う。

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