夏至

『夏至』　作：細谷
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進藤(シンドウ)
→男子高生。首都圏の進学校に通う三年生。三田とは中学生からの仲。
人当たりがよく、器用で人に好かれやすいが、破滅願望を抱えておりどこか排他的。
都内の国立大への進学が決まっている。
バレーボール部元部長。

三田(サンダ)
→男子高生。首都圏の進学校に通う三年生。進藤とは中学生からの仲。
人見知りなので、進藤以外はすれ違ったら挨拶をする程度の友達しかいない。
同じ県内への大学進学が決まっている。
一年生の時に卓球部だったがすぐ退部した。そこからは帰宅部一筋。

進藤（シンドウ）（男）：
三田（サンダ）（男）：

進藤　　三田！悪い！

三田　　遅い。

進藤　　ごめん、待たせた。

三田　　ホントにな。

進藤　　ごめんて。

三田　　一時間。

進藤　　校内で待っててくれりゃ良かったのに。

三田　　ああ？お前、遅れたくせにそれ言う？

進藤　　悪い悪い。なんか奢るからさ。

三田　　詫びコンポタくれ。

進藤　　はいはい。
　　　　買ってくるからちょっと待って。

三田　　耳鼻科の前の自販機のやつが良い。

進藤　　どこのも変わんないだろ。

三田　　メーカーによって全然味違うから。
　　　　学校の自販機のヤツは薄い。

進藤　　耳鼻科か……。
　　　　せめてドラックストアのとこのじゃダメ？

三田　　ダメ。
　　　　あそこのはトマト臭い。

進藤　　何だそれ。
　　　　コンポタにトマト入ってないだろ。

三田　　俺の高貴な舌がそう言ってる。

進藤　　お前、舌ぶっ壊れてんじゃないか？

三田　　進藤の舌が鈍いんだよ。

進藤　　耳鼻科ってすげー遠回りじゃん。
　　　　坂道登らなきゃいけないし。

三田　　たまには運動しないとな。

進藤　　めずらし。
　　　　明日は雪か。それとも世界滅亡か。

三田　　失礼だな。

進藤　　てか、体育で体動かしてんじゃん。

三田　　三年のこの時期の体育なんてお遊びだろ。
　　　　体が刺激を求めておるのだ。

進藤　　万年帰宅部の癖に。

三田　　ちげーわ。
　　　　卓球部入ってた時あるわ。

進藤　　一か月くらいだろ？

三田　　ブッブー。一か月半。

進藤　　はぁ。

三田　　おい。何とか言えよ。

進藤　　逆になんて言ったら良いんだよ。

三田　　……お前、そんなにノリ悪いと向こうで友達出来ないぞ。

進藤　　コンポタ買うのにわざわざ遠回りするくらいにはノリいいけどな？

三田　　その返事がすでにノリ悪いわ。
　　　　ボッチ確定だな。

進藤　　お前こそ、大学生になるのにそんなんでいいの？

三田　　大丈夫大丈夫。おんなじ大学のヤツ何人かいるし。

進藤　　誰？

三田　　……えーと。隣のクラスの眼鏡くん。

進藤　　誰だよ。いっぱいいるよ眼鏡。

三田　　名前知らないんだよなぁ。
　　　　俺、お前くらいしか友達いないし。

進藤　　重い。

三田　　受け止めてくれ。

進藤　　寂しいやつ。

三田　　うっせ。

進藤　　まぁ、名前知ってたとしても、
　　　　そいつらと頻繁に会えるわけじゃ無いしな。
　　　　キャンパス広いんだし。

三田　　そうだな。
　　　　それに、俺、結構一人好きだし。全然問題なし。

進藤　　さすがプロぼっち。

三田　　まぁ、そもそも俺は地元から離れるわけじゃ無いしね。

進藤　　……そうか、それもそうだな。

三田　　……あれれ～？
　　　　進藤クン、もしかして寂しいのぉ？

進藤　　いや。会おうと思えば会えるから。

三田　　でもでもぉ。東京で一人暮らしでしょ～？
　　　　知らない土地で寂しくなっちゃうんじゃな～い？

進藤　　ははは。現代っ子なめんなよ。
　　　　もう同じ大学に行くやつでグループ作ったわ。

三田　　はや！あと何か月あると思ってんの！

進藤　　すでに関係性が出来上がってる中に入るのって、
　　　　結構大変だからさ。
　　　　先手打っといた方が良いんだよ。

三田　　へぇ。
　　　　さすがコミュ強（きょう）。
　　　　勉強になりますわ。

進藤　　友達いないのに？

三田　　うっせ。
　　　　でも、どうやって知り合ったの。

進藤　　SNSで『大学名』『何年入学』で検索。

三田　　はー。

進藤　　すると、蜂の巣をつついたように……。

三田　　言い方言い方。

進藤　　ウジ虫のように……。

三田　　言い方言い方！！

進藤　　ははは。

三田　　ったく。

進藤　　みんな、寂しいんだろうなぁ。

三田　　進藤？

進藤　　ん？

三田　　あのさ。お前さ。

進藤　　……何？

三田　　……ぎゃっ！！

進藤　　おおっ。すげー風。

三田　　きっつい。泣きそう。

進藤　　まだ日差しがあるとはいえ、今の風はキツイな。

三田　　進藤大変。耳ちぎれた。

進藤　　過去形？

三田　　ついでに鼻も。

進藤　　そりゃ重症だな。

三田　　まだ開いてっかなぁ。

進藤　　何が？

三田　　コンポタ買うついでに寄ってみる？

進藤　　もしかして、耳鼻科で診（み）てもらおうとしてる？

三田　　わざわざ遠回りするんだし。

進藤　　……三田が他の自販機で我慢してくれれば
　　　　遠回りしないで済むんだけど。

三田　　お。とか言ってたら。

進藤　　着いたな。

三田　　意外と近かったじゃん。

進藤　　馬鹿。ここからが長いんだよ。

三田　　はー。この坂、久しぶりに見たけど、長いなぁ。

進藤　　なあ。
　　　　ここから頂上まで、どっちが早く着けるか、競争しない？

三田　　ええ……？
　　　　走んの……？

進藤　　体なまってるんだろ？丁度いいじゃん。

三田　　俺はもともとなまってるから平気。
　　　　帰宅部舐めんな。

進藤　　なんで威張ってんの。

三田　　てか、俺勝ち目ないじゃん。やだ。

進藤　　俺もだいぶなまってるから大丈夫だよ。

三田　　嘘だぁ。
　　　　今日だって部活に顔出してきたんじゃねぇの？

進藤　　いや。マネージャーと話してきただけ。

三田　　マネージャーって、みあチャン？

進藤　　そうそう。

三田　　お前さ……。
　　　　彼女と話すんなら俺と待ち合わせすんなよ。
　　　　てか、彼女と帰れよ。

進藤　　いや。もう元カノだから。

三田　　……え？

進藤　　別れてきた。

三田　　はぁ！？別れたの？あの可愛いマネちゃんと。

進藤　　別れたよ。

三田　　はー。何で？

進藤　　都内の大学行くから会いづらくなるし。
　　　　向こうだってこれから大会やら何やらで忙しくなるだろ。

三田　　まあ、そうかもしんないけどさあ。
　　　　たかだか一時間くらいだろ？

進藤　　なんて言うか、可哀想でさ。

三田　　なんでよ。

進藤　　人の時間って、無限じゃないじゃん。

三田　　それがどうしたよ。

進藤　　俺のために時間を割（さ）かせてさ。

三田　　なんでよ。

進藤　　誰かと一緒にいるって、誰かの時間を奪うことだから。

三田　　普通じゃん。

進藤　　どうせ居なくなるのに、可哀想だろ。

三田　　……進藤。

進藤　　……何？

三田　　お前、俺といるときも、そう思ってんの？

進藤　　……あはは。

三田　　何笑ってんだよ。
　　　　……おい、なんか言えよ。

進藤　　なあ、三田。
　　　　……もしさ。
　　　　この坂の先が、崖になってたらどうする？

三田　　……は？

進藤　　上り坂だって思って走って登ってたら。
　　　　下り坂ですらなくて、崖になってんの。

三田　　死んじゃうかもな。

進藤　　そうだよなぁ。

三田　　どうしたのお前。

進藤　　怖いかな。

三田　　何が。

進藤　　死ぬの。

三田　　怖いんじゃないか？多分。

進藤　　多分か。

三田　　分かんねーよ。死んだ事ないもん。

進藤　　そっか、そうだよなぁ。

三田　　頭の良いお前でも、そういうこと考えたりするんだな。

進藤　　頭が良いだけだよ。それだけ。

三田　　頭は良いやつは良いやつで、大変なんだな。

進藤　　……ガキの頃さ。
　　　　そんなこと考えて、一時期坂登れなくなったんだよね。

三田　　……ふーん。

進藤　　馬鹿だよなぁ。
　　　　そんなこと、考えたってしょうがないのに。

三田　　今でもさ、怖かったりすんの？

進藤　　うーん。あはは。

三田　　……アホらし。

進藤　　ははは。ホントだよなぁ。

三田　　あのさ。

進藤　　ん？

三田　　お前、明日暇？

進藤　　暇だけど、どうした？

三田　　明日もコンポタ飲むぞ。

進藤　　……はは。

三田　　どんなにお前が駄々こねたって。
　　　　この坂の向こうのコンポタ、一緒に買いに行くからな。

進藤　　……うん。

三田　　……わかんなくて良いんだよ。
　　　　死んだらどうとか、そんなこと、一生。

進藤　　三田？

三田　　別に。なんでもない。

進藤　　……そっか。

三田　　良いから行くぞ。

進藤　　おー。
　　　　よーいドン、で、スタートな。

三田　　……ん。
　　　　…………よーい。