秋分

『秋分』　作：細谷
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進藤(シンドウ)
→男子大学生。都内の国立大に通う一年生。三田とは中学生からの仲。
人当たりがよく、器用で人に好かれやすいが、破滅願望を抱えておりどこか排他的。
一人暮らしは初めてだが、そこそこ器用に生活している。

三田(サンダ)
→男子大学生。首都圏の私立大に通う一年生。進藤とは中学生からの仲。
人見知りなので、進藤以外はすれ違ったら挨拶をする程度の友達しかいない。
実家でそこそこのんびり暮らしている。

進藤（シンドウ）（男）：
三田（サンダ）（男）：

進藤　　もしもし。

三田　　もしもし。

進藤　　聞こえる？

三田　　ん、聞こえる。
　　　　珍し。
　　　　お前から電話かけてくるなんて。

進藤　　そうか？

三田　　進藤、電話苦手じゃん。

進藤　　三田がめちゃくちゃ着信残してるから
　　　　何か事件でもあったのかと思って。

三田　　はい。事件です。

進藤　　嘘つけ。暇なだけでしょ。

三田　　すげーヒマって事件。

進藤　　それって事件なのか？

三田　　すっかり春ですな。

進藤　　雑談下手すぎない？

三田　　花粉は大丈夫か？

進藤　　俺は秋の方が酷いかな。

三田　　秋に花粉なんか飛ぶの？

進藤　　飛ぶよ。
　　　　ブタクサとか、ヨモギとか。

三田　　へぇ。知らなかった。

進藤　　また一つ賢くなったね。
　　　　感謝して。

三田　　恩着せがましいな……。

進藤　　んで？

三田　　あ？

進藤　　本題は？

三田　　……何、元気にしてんの。

進藤　　してるしてる。

三田　　飯食ってる？

進藤　　食ってる食ってる。

三田　　ちゃんと寝てる？

進藤　　寝てる寝てる。

三田　　お前さぁ……。

進藤　　三田、母さんみたい。

三田　　お前のカーチャンもっと上品だろ。

進藤　　いや？多分普通。
　　　　これより質問攻めされるし。

三田　　へえ。意外。

進藤　　心配なんじゃないかな。
　　　　俺、自分の事あんまり話さないし。

三田　　どうせお前のことだから、自分から電話とかもしないんだろ。

進藤　　お、さすが三田。
　　　　よく分かってるね。

三田　　馬鹿。

進藤　　電話、好きじゃないんだよ。
　　　　三田は分かってると思うけど。

三田　　悪いな。

進藤　　ん？

三田　　電話かけまくって。

進藤　　いいよ、別に。
　　　　三田も俺の事心配なんでしょ。

三田　　さあな。

進藤　　照れちゃって。

三田　　うっせ。
　　　　……なあ。お前、今ひとり？

進藤　　ん。ひとり。

三田　　どこに居んの？

進藤　　今家着いた。

三田　　見られて恥ずかしいモン無い？

進藤　　無いよ。
　　　　俺は三田と違って清く正しく美しく生きてるからね。

三田　　あっそ。
　　　　なあ。画面にビデオカメラ？みたいなマークあるだろ。

進藤　　うん。

三田　　押してみ。

進藤　　……あ、三田だ。

三田　　よう。

進藤　　動いてる。

三田　　そりゃそうだ。

進藤　　俺も動いてんの？

三田　　そりゃもう。

進藤　　何？これがビデオ通話？

三田　　そ。

進藤　　へー。
　　　　初めてだわ。

三田　　彼女とかってビデオ通話したがらない？

進藤　　したがってた。
　　　　でも分からないからごめんねしてた。

三田　　ごめんねすんなよ。
　　　　調べりゃいいだろ。

進藤　　それも言われた。
　　　　だから、家汚いからって嘘ついた。

三田　　よく言うよ。
　　　　部屋に物置くの嫌いなくせに。

進藤　　はは。

三田　　めんどくさかったのが本音だろ。

進藤　　あ、三田。洗濯物干しっぱなし。

三田　　話そらすなって。

進藤　　しまえって。

三田　　あれは明日着るからいいんだよ。

進藤　　だらしない。

三田　　干しっぱなしだからシワにならないし。

進藤　　せめて夏物はしまえって。

三田　　お前も真似していいぞ。

進藤　　やだぁ。

三田　　この機能美が分からんかね。

進藤　　機能美……。

三田　　なんだよ。

進藤　　俺と三田とじゃ、美の基準が違うんだなって思った。

三田　　そらそうだ。
　　　　あ、でもお前の元カノは可愛いと思ったぞ。

進藤　　いつの元カノだ？

三田　　一昨年に別れた子。

進藤　　あー。あの子か。
　　　　スカート短い子でしょ？

三田　　そう。
　　　　やたらと脚キレーな子。

進藤　　隣の組の。

三田　　そうそう。

進藤　　別に普通じゃない？

三田　　はぁ？？？

進藤　　なに？

三田　　お前もっぺん言ってみろ。

進藤　　え、だから、別に普通じゃない？って。

三田　　いやいや……アレ完全に上位グループの顔だったろ。

進藤　　うーん。そうかなあ。
　　　　別に可愛いと思ったから付き合ったわけじゃないし。

三田　　じゃあ何で？

進藤　　たまたまそこに居たから。

三田　　犯行動機？

進藤　　犯罪者扱い？

三田　　言ってること犯罪者と同じなんだけど。

進藤　　俺、何も悪いことしてないよ。

三田　　ホントか？

進藤　　嘘。
　　　　別れる時、凄い泣かせた。

三田　　それはいつもだろ。

進藤　　付き合ってる時も泣かせた。

三田　　それは良くないな。

進藤　　『こんな寂しいなら付き合わない方が良かった』
　　　　って、泣いてた。

三田　　付き合ってるのに寂しいのか。

進藤　　そうみたい。
　　　　だから別れた。

三田　　でもすげー泣かれた？

進藤　　うん。

三田　　女心と秋の空ってやつ？

進藤　　別れたの春だけどね。

三田　　女心って難しいな。

進藤　　女心っていうか……俺がダメなんだろうなぁ。

三田　　なんで？

進藤　　なんか、そんな気がする。

三田　　そっか。

進藤　　……三田。凹みすぎ。

三田　　え？
　　　　……ああ、そうか。
　　　　俺の顔見えてんだもんな。

進藤　　なんで三田が凹むの。

三田　　お前が凹んでるからだろ。

進藤　　……そっか。
　　　　俺のことも見えてんだもんね。

三田　　そういうこと。

進藤　　にしても、便利だね。

三田　　ビデオ通話？

進藤　　うん。
　　　　ごめんねしないで付き合ってあげればよかったなぁ。

三田　　そもそも、電話自体が苦手だろお前。

進藤　　ビデオ通話ならマシかも。
　　　　顔が見えるから変に探らないで済むし。
　　　　なにより会うより負担が少ない。

三田　　負担か。

進藤　　いやー……。
　　　　俺、向いてないんだな。

三田　　何が？

進藤　　なんというか、人と向き合うことがさ。

三田　　……人には向き不向きがあるだろ。

進藤　　はは。否定しないのかよ。

三田　　否定しても、お前はそれじゃ楽にならないだろ。

進藤　　……三田は、俺の事よく分かってるね。

三田　　友達だから。

進藤　　……なぁ、三田。
　　　　これがあるなら帰らなくても平気だね。

三田　　進藤。

進藤　　うん。分かってるよ。

三田　　たまには帰ってこい。

進藤　　わかってる。お盆にはね。

三田　　用事がなくても帰ってこい。

進藤　　うん。

三田　　元気じゃなくてもいいから電話してこい。

進藤　　うん。

三田　　死ぬな。

進藤　　はは。

三田　　笑うな。

進藤　　ごめんごめん。

三田　　お前はいっつも肝心なところでヘラヘラするよな。

進藤　　それは三田のせいだろ。

三田　　俺の？

進藤　　三田の話はさ、いつも急展開すぎるんだよ。
　　　　ま、面白いから良いんだけどさ。

三田　　そっかぁ。
　　　　それなら、俺のせいでいいや。

進藤　　え？

三田　　面白いのも、つまんないのも。
　　　　俺のせいだから。

進藤　　…………うん。

三田　　それでいいから。

進藤　　……三田！

三田　　あ、え？

進藤　　……おしっこ！

三田　　子どもか！

進藤　　一回切るね。かけ直す。

三田　　ん。分かった。

進藤　　じゃあね。

三田　　進藤。
　　　　かけ直さなくてもいいから。

進藤　　え？

三田　　じゃ。

進藤　　……あはは。
　　　　三田らしいなぁ。