愛しいひと3

この前の日曜日。美容室終わりの彼女と原宿で晩飯(ばんはん)を食べることになったYJ。果たしてお洒落な街の圧力に動悸・息切れせず敢然とこの街を闊歩出来るのかッ!?





原宿に行くとなると、やっぱり普段着ているだるだるのTシャーツと汚れつちまつたGパンツーでは駄目だろうな。と出掛ける前、家の箪笥を物色していて思ふ。
昔購入した、ちょいと値の貼るベージュのジャケットなんかを羽織ろうか。髪も久々にワックスを使いちゃんとセットしちゃってさ。最近はすっかりリュックサックだったんだけんどんも、ちゃんとした鞄を携帯した。
原宿に相応しいかどうかはわからないけど今現在我が家にある衣類の中では洒脱なものを纏う。そしてドキドキしながら明治神宮前駅に到着。
まさかとは思うが、知らない方もおられるかもしれないので一応説明しておくと、この表参道界隈の土地は、お洒落じゃない者が近付くと心身共に溶けて亡くなる・その魂は未来永劫地縛されると噂されており、尋常な精神では歩行すら出来ぬ呪われた魔性の地なのである。恐ろしいことです。

ホームに降り立つ。大丈夫。改札を出る。まだ大丈夫。駅の中を出口に向かい歩を進める。前方からお洒落なのにお洒落なのを鼻にかけない感じの真のお洒落人みたいな人達、つまり人外の者達が歩いてきた。しかしそこは年の功。胆が冷えに冷えているのにポーカーフェイス。YJお得意のPF。難無く通りすぎようとしたその時、身体の裡がぶるぶると振動して何事か?と驚いていると、指先が溶けはじめていた。人外の者達が照射するお洒落オーラに因ってこちらの身体が溶解しはじめたのである。えらいこっちゃえらいこっちゃ。はやく彼女に合流しなければ溶けて亡くなる。最期に好きと伝えたい急がねば。
地上に出て大きな交差点にでると四方をお洒落人・お洒落建築物に囲まれお洒落地獄。やばい魂が未来永劫地縛される。
中にはYJ同様に、この魔境に果敢に挑み骸となった者、溶けかけている者、それを認めずに腐りかけている者など散見するが、ほとんどはお洒落人であり気付けばYJの下半身の肉と皮はそげ落ち骨のみとなっていた。

彼女に「ラフォーレ近くにおます!」とLINEをすると「丁度その辺にいるよー!」と即座に返信。
キョロキョロすると、地獄の中にポゥと灯る優しい光。吸い寄せられるように近づいていくと果たして彼女であった。

カットはせず、髪の色のみ替えたという。以前より少し暗めの髪色になっているのに光輝いているとはこれ如何に。摩訶不思議なことがあるものですね。
合流すると彼女は「何だか普段と雰囲気が違いますねえ」と言ってきた。まあジャケットなんかでdressしているからね今日は。すると彼女はこう続けた「とても素敵です。格好良いです!」と。
すると何ということであろうか、溶けかけていた身体は全快。精神も分厚くなり、いるだけで呼吸困難・生命活動が停止する宇宙のような空間が、まるで我が家のようにリラックス出来る空間に様変わりしたのである。
道行く人外の者達も非常に気安い往年のクラスメイトのような感じになり、人類みな兄弟。人類どころか草や木、鳥や虫や動物、僕らはみんな宇宙船地球号の乗組員なんだよね!仲良くしようね!嗚呼、世界はなんて美しいのだらう!!みたいな気持ちになってくる。

僕はさ、彼女にだけ認めてもらっていれば他からの評価なんてのはどうでもいいんだよね。と心底気づかされた。
なので、おそれていた原宿の洒落たイキフンも大したものではなかった。



こんなことを言うと、いや所詮原宿なんて子供の街よ。それより洒脱度の高い麻布や銀座などに行ったらお前はどうなってしまうのだ?そんな気持ちじゃダミだダミだ人生立ち行かないぞ。そもそもな…と御高説を垂れる御仁が出てきそうだけれど、なんちゃない。
この精神状態ならばどこに行こうが、どんな洒落た街でも怖くない。どんな洒落た店でも気圧されない。ニューヨーカーにだってニッコリ笑ってシェイクハンド。パリっ子にだって気さくに陽気にボンジュール!ってなもんだ。
彼女が「素敵ですよ」と言ってくれるなら、俺はどこまでも素敵になれるのだ。

それに。

人はみな大なり小なり鏡のような性分を持ち合わせているけれど、僕は本当に鏡の性分で、僕のことが素敵に見えるなら、それは彼女が素敵な人だという証拠なのだ。





ま、そんなこんなで、カレー屋さんへ。
本当しょっちゅうカレーを食べてるカップルですな。外食はカレー。外食といえばカレー。最高。カレー最高。スープカレーを食した。彼女は角煮のスープカレーを。僕はサイゴン風スープカレーなんどといって、フォーのスープみたいなスープカレーを食す。風変わりな味で、大変に美味だった。

家でスープカレー作れたらいいよねえという会話をした。僕なんかは、スープカレーはインド風おでんと認識しているのだけれど「スープカレーってちゃんとカレーじゃん。家で作ったらカレー味のスープになっちゃいそうだよね」と言った彼女のひとことはとても深い。深すぎたかもしれません。



こののち珈琲を奢ってもらい少し歩いて電車に乗る。以前渋谷で晩飯を食べた時に歩いたルートと一緒なのだけど、前回はまだお付き合いしてなかったなあ等と思い幸福な気持ちになった。


電車に乗り、彼女の最寄り駅まで送ってホームでさようならして帰ろうとしたら彼女は階段をあがっていかず「あのね…」と言いはじめた。
これは、真面目な話がはじまる時の感じで、なになに?とコチラも真面目に聞く。


内容は以下のようなものだった。


私はスケジュール的に会える時には全部会いたくなってしまうのだけど、それだとお互いに生活がままならなくなってしまう。その点、純は結構バランスがいいというか、今日は帰る、電話はここまで、とバシッと決めるのでどう折り合いをつけているのか一手御教授願いたい。


なるほど。彼女の言い分は分かった。


僕のどこをもってバランスが良いとしているのか謎だけど、無論、僕は会える時には可能な限り全部会いたい。
でも例えば今日は日曜日で彼女は明日から仕事なので普通に帰った方が良いだろうと思い、帰ろうとしているだけである。
強いていうなら彼女のスケジュールに合わせて動いているので、彼女が会いたいと言えば会うし会わないと言えば会わない。単純に現在は僕が彼女に合わせられるから合わしているだけで、それが無理になったら普通に無理と言うし、少し独りの時間が欲しいなあと思ったらちゃんと言うし、だから自分の好きなようにしていいんだよ。と僕は言った。

すると彼女は「そっかあ。うん。そうだね。じゃあ今日は帰らないで?泊まっていって。ね」と真面目な声で言って、微笑んだ。


おお…。


ええ、うん。はい、そうですねー、ええそのー、まあーハイ。ハイ可愛いかったー。ええ。控えめに言って天使。そら可愛いかったですねハアハア。うん。可愛いかったでーすハイ。
僕は駅のホームだということも忘れて、ムツゴロウさんの顔面を舐めまくる犬も一目散に逃げ出すくらいに彼女の顔面をベロベロ舐め回したかった。でもそんなことを公の場でしたら嫌われるし、公の場でなくともそんなことをしたら嫌われるので我慢した。


こんなことを言ったら、知らんがな、説得力あらへんねん等の関西弁であしらわれてしまいそうですが、僕も彼女も元来独りの時間を大切にするタイプというか独りの時間を楽しいと思えるタイプで、それでも互いにずっと一緒にいたいと思ってしまうのだ。キャ。これはキャです。





そして明朝、珍しくジャケットとか着て年相応の社会人としても通用する服装をしていたのが幸いして、彼女と一緒に家を出て電車に乗りこむことで、出社デートの感じ。自分で言っといて出社デートってなんぞ?とにかく、同棲してるカップルが途中まで会社一緒に行く感じを味わえた。僕らを見かけた人は、まさかこの男が今から家に帰ってNetflixで今さら全裸監督を見て感動して泣くとは思ってもいないだろうな。






そういえば。

夜、ベッドに入って何となくだらだら喋っている時に唐突に、好きだなー!と叫んで力の限り彼女を抱きしめて骨の軋む音を聞きながら「潰す」とか「殺す」等と囁いて彼女が恐れ戦くという遊びがあるんだけど、彼女は「急にテンション上がるの怖い」と笑っている。
それがこの夜、なんとはなしにお喋りしていて眠くなってきた頃、彼女が急に「あー!好きだなー!!」と大きな声で言い、ぎゅううと僕にしがみついてきた。どした?どした?と戸惑ってもこちらの声は無視されて「好きだなー」とますますしがみついて離さない。
僕は思った。なるほどな。はいはい。この感じな。うん。確かに急にテンション上がるの怖いなあと思った。愛しさが渦巻いちゃうわコチラ側に。それが怖いわ。




さあ、やはり過密に会いすぎたのか、知らず知らずの内に心の満足度とは離れ肉体的には疲労が蓄積していたのか、彼女が体調を崩してしまった。かねてよりの持病みたいなものなのらしいけど、高熱が出てしまったとのこと。
一応PCR検査も受け陰性だったとのことだけど、いやいやたとえコロナじゃなかったとしても免疫力は落ちている訳で、その状態で外に遊びに行ったらそれこそコロナにかかってしまうかもしれないわけで、遊びにいくわけにはいかない。
今週末も遊ぶ予定だったんだけど看病。看病デートだッ!
弱った彼女を写真に収めまくってスマホの容量をパツンパツンにしてやるんだ俺。ハハハッ。ハハハハハ。

こんな仕合わせに日々を紡げて信じられなかったんだけど、最近はこの仕合わせは現実なんだ!と信じはじめている僕がいますね。

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やったぜッッ
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吉本純の雑記帳です。
コメント (1)
いつも楽しく拝見しております。
結婚7年目になりますが、
「愛しいひと」を読みながら、私達夫婦のようだなと感じて、とても驚いています。
これからも応援しています。
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