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高松宮記念 新馬先生はこう見る 〜進歩〜

プロローグ

義理の兄が教えてくれたのが、
我が家の愛娘にそっくりな競走馬がいるらしい。
旦那と義兄は、その馬が走る度に、揃って応援している。

応援されている馬と娘当人は我関せずと、
大の大人がはしゃいでいるのを見て
なんだか興奮気味だった。

テレビ画面に一喜一憂する2人を見る。
こっちは大変な子の育児をしているのに、
男って、どうしてもこうも悠長なの。

娘が他の子と何か違うと薄々気付いていた。
いわゆる発達障害の何かかもしれないと思って、
googleから「発達障害 遺伝」と調べていた。
私は、産んだ母として、自分が悪いのではないかと、
今でも自責の念に囚われている。

4年前、近隣2つの幼稚園面接で、
「不合格」
という通知を受けたとき、私の中で何かが音を立てて崩れた。
なぜ、こんな幼い子にそんな無惨な知らせを伝えることができるのだろう。

そこから、私は常に不安に追われている。
漠然とした不安が私を覆いつくして、暗闇にいるような気持ちの時、
旦那は、そんな時、察したのか察していないのか分からないけれど、
なんも脈絡もなく、決まってこう言う。
「大丈夫だよ。なんとかなるから。」

本当はその一言にとても心が少しだけ解れるのだけれど、
私は旦那に聞く。
「どうしてそんな風に言えるの。」

彼は大抵こう答える
「根拠はないけどさ、
そう思わないと上手くいくもんもいかなくなっちゃうから。」
根拠はないのかい。

旦那に競馬を教えた当人である
義兄は臨床心理士で、娘の異変に気付いて以来、
何度も相談に乗ってもらった。
初めて会ったときは、
捉えどころのない人だなと思っていたけど、
いつだか、私にこう言ってくれた。
「大丈夫だと思うよ。あの子は。」
兄弟なんだなと、その時、初めて実感した。

確かにそうだった、結局うちの娘は
3度目の面接で入園することができた、幼稚園で手厚く育ててもらった。
3年間の中でも、紆余曲折はあったけれど、卒園の日を迎えた日、
横を見たら、旦那が号泣していた。
誰よりも泣いている戦友を見たとき、これでよかったのだと、
この娘を産んで初めて思えた。

小学校は、義兄の助言をもとに
特別支援学級に通うことを決断した。
出す書類の量に閉口したけど、
そんな苦労をよそに、彼女は、毎日、楽しそうに登校している。
思えば、私自身、学校に「行きたくない」と毎日言っていた。
同じ時間に起きて、同じ場所に行くことがどうにも窮屈な気がしたのだ。
娘は、慣れない環境で、日々切磋琢磨しながら、
自分としか見えない世界で戦っている。
確かに担任から、毎日なにかと問題を起こして電話は来るけれど、
学校に行きたいと思うだけ、彼女は立派だと思う。

特別支援級に通って、もう一つの収穫は、
同じ悩みを持つ家庭と、悩みを共有できるようになった。
旦那も、私が人と交流するようになって、喜んでいるように見える。

今週末、
義兄が大事な話があるから遊びにくることになった。
娘は、久々に来る親友の来訪をえらく喜ぶ。
最近の中で1番喜んでるように見えたから
「彼氏かよ。」
と、毒づく。私にもそれくらい笑ってくれ。

最寄り駅で彼を待つ間、
1年前の卒園式の帰りに娘と旦那が話していたことが
なぜだか急に蘇る。
季節外れの雪が降り、寒い中でバス停でぶるぶる震えながら
交わした会話を。
旦那が娘に
「エールちゃん、今週走るんだって」
義兄は
「エールちゃんも頑張るから、小学校でも頑張るんだぞ。」
と言ったら、娘は笑っていた。

私はその時、初めて、
メイケイエールという馬の名を認識した。

思えば、競馬を見る余裕なんかなかったなぁ。
「エールちゃん、その後元気にしているのだろうか。」
と、ぽつっと呟く。

「エールちゃん、今週走るよ。」
娘は、急に笑って答えた。
なんでそんな情報知っているのだ。
その時、義兄が到着したようで、改札の外から
大きく手を振っている人の姿が見えた。

今週走るのか、去年と同じだ。
義兄に今日は競馬でも教えてもらおうかな。

調教診断

調教評価第1位

14 トウシンマカオ

1週前、ゴーを出したら飛ぶような動き

最終、1週前共にCW6Fで追い切り。
直前まで我慢して、乗り手が促すと、飛ぶような動き。とにかく、加速が素晴らしく。充実一途。意図を持って、我慢してGOをしている。

調教評価第2位

6 ナランフレグ

最終3頭併せで突き放す好内容

最終追い切りの3頭併せ、ラーグルフなどと併せて、食い下がる同馬を突き放す好内容。
最終日だけの内容なら、この馬が1番よく見えた。キレ味もだが、叩いて良化するタイプ。
前走からの伸び代という点で高評価。

調教評価第3位

16 グレナディアガーズ

1週前、全身を使った抜群の動き

前走から一変の動き。とにかく1週前のストライドが大きく、全身を上手く使えている。
最終の坂路も抜群の時計、内容だった。
雨模様の中で、このストライドがどうでるか。
きっと良馬場の方がこの馬に向いていると思うので3位に。ただ、この上位3頭はよく見えた。

調教評価第4位

8 ロータスランド

1週前、岩男騎手でうなる動き

岩田康誠騎手が乗る調教が基本的によく見えてしまうせいかも見えるが、クビが少し高いけれどタイムや全身の動きは抜群、最終の坂路も最後流しながらかなり好調な様子が見てとれる。
1週前の単走である程度仕上がっている。脚の回転が小気味いいタイプなので雨や重い馬場への適正としてこの馬を高く評価したい。

調教評価第5位

12 アグリ

1週前の坂路で猛烈時計

短距離の安田厩舎らしく、坂路2本での仕上げ。綺麗なフォームで、猛烈時計を見ると、とても良いスプリンターだと感じさせる。
力強さもあるので、良馬場を希望するタイプだが、先行して逃げ粘る可能性あり。
何より、動きがスムーズで綺麗だと思う一頭。

メイケイエールについて

1番上、ストライドが伸びている。

メイケイエールにも言及したい。
スプリンターズSは1週前坂路でガス抜きをする形も失速。
今週は、いつも通りCW4F単走と元に戻した。
1週前の動きを見た時、クビが上手く使えていて、おや?と思ったが、いつもの荒々しさが足りないので心配したが、最終追いではコーナー周りで荒ぶるいつものメイケイエール。
1週前よりはクビが高く見えたが、1年前より調教をよりちゃんと走れるようになっている。
馬体も増え、力強さが増している。
とは言え私はこの馬をかなり贔屓目で見ているので、あくまで比較という点で評価するが、体の使い方は確実に良くなっている。

エピローグ

娘は、久々に会える義兄と、
近所のミスタードーナツに行くことを楽しみにしていた。

私は、本音だともう少し、
おしゃれなものを食べたかったけれど、
ポンデリングをやまぶどうスカッシュで流し込み、
2人の様子を見ていた。
確かに。
ミスドは、これはこれで美味しいんだよなぁ。

義兄は、転職の報告を我が家にしに来てくれた。
親友の姪っ子には直接伝えに来たのが来訪の目的。
彼の新しい職場は、少し遠方になる。
地方の少し大きめの病院に受かったのは旦那から聞いていた。

娘はきっと、その意味をまだ分かっていない。
遠くに行く、そのことは少し寂しいのに、
「おじさん、新しい仕事するんだ。ちょっと遠くだけど。」
と義兄がエンゼルフレンチを食べながら言っていた。
「兄ちゃん、頑張るんだ!」
と、彼女は少し年の離れた兄へエールを送る。
人の気持ちをおもんばかる。」
というのは自閉症が苦手とすること。
小学校1年の成長を、その一言で示した。
私には、そんなことやらないのに。
「彼氏の前だと、やるな、お前。」
と私はまた小さく毒づいた。
旦那は少し笑っていた、ように見えた。

人は成長する。
私も、旦那も。
義兄も。
そして、娘も。
もしかしたら、生きとし生ける生命体すべてが。
年を重ねるというのは、そういうことなのかもしれない。

私は男2人に聞いてみた。
「それで、最近のエールちゃんはどうなの?」
義兄は答えた。
「大きくなってるよ。たぶん成長もしている。」
「1年前、負けたレースに今週出るんだよ。」

普段賭け事をしない旦那が、
メイケイエールが走る時だけ、テレビに釘付けになっている理由が
少しだけ分かった気がする。

「ふーん。私も今回は賭けてみようかな。」
と言うと、
横の旦那が
「いいじゃん。やろうやろう、みんなで応援しよう!」
と前のめりで喜ぶ。
普段で、もっとはしゃいでくれ、でもなんか嬉しくなった。

「けど1年前は負けたんでしょ?今回は大丈夫なの?」

と私は尋ねる。

答えは知っていた。義兄、旦那、娘がそろって言う、その答え。

「大丈夫。大丈夫。」

やっぱり。
その一言に救われる。
というか血は繋がっているんだな。

来年はどうなるかわからない。けれど、思うのだ。
大丈夫。
なんとかなる。

2023年3月26日
高松宮記念
我が家の本命は

5 メイケイエール

義兄が、娘のご褒美にねだられて追加購入した
イチゴのチョコリング2つが、
本命の◎みたいに見えて、
なんだかいける気がしてきた。
頑張れ、メイケイエール。

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