「母の残像」不信が根底に流れる家族の絆を描く傑作
概要
家族の喪失、死別、という誰にも訪れる経験をどのように乗り越えていくかを瑞々しい感性で描き出す
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女性戦場カメラマンとして生きていた女の死から物語が始まる。
戦場カメラマンの多くはいわゆる「アドレナリンジャンキー」だ。
紛争地帯から平穏な日常の生活に戻っても全く刺激がなく溢れ出る興奮を求めてまた戦地へ舞い戻る。
それを「使命」と言う言葉に挿げ替えて己を正当化している事に気がついていない女性戦場カメラマン。
家族を愛さなければいけない、と言う呪縛に絡めとられた女の不幸を淡々と描いている。
自分が散々好き勝手生きてるだけなのに自分が善人だと勘違いしすぎているが故に苦しむアホさ…愛し愛される事を当たり前だと思い過ぎていると努力をして愛し許す事の素晴らしさにたどり着く前に己の罪悪感に絡めとられてしまう。
それを、夫と2人の息子の各々の人生を通じて描き出している。
この父親はなぜか母親の死の理由を必死に隠そうとする。
そこから透けて見えるのは母親の死の解釈を子供に委ねる事が出来ない親の情けなさだ。
母親の死に対してどう解釈しようが「子供の自由」だと言う事より、どう思うかを介入してその自由を妨げようとする親の違和感。
これを読んで字の如く「過保護」というのだと思う。
全編に渡って貫かれているのは家族間の不信だ。
愛しているのに全く信じない。
そんな姿を見続けるのはなかなか辛い。
そして不安定そうな弟が実は全てを見て全てを感じていたらのに比べ、父親になったばかりの気丈に振る舞っていた兄のほうがよほど弱かったことが徐々にわかっていく…男3人の甘えあいの物語。
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