無題

 東京ドームの花道には460人の女子高生。その匿名の集団の中を射るような目をしたアイドルたちが駆け抜け、乃木坂46として『制服のマネキン』を歌う。5年間でセンター生駒の表情には笑顔が増えていった。曲に対しての解釈や自身の心が変わっていった証だろう。
 白石、西野、飛鳥、センターが変わるたびに、あの頃の乃木坂46が思い起こされる。そして、すべてのはじまりである曲『ぐるぐるカーテン』へ。フロントの生駒、生田、星野が微笑み合い、エターナルな輝きを放った。そのバトンは、2期生の堀がセンターを務める『バレッタ』、3期生曲の『三番目の風』へとつながっていく。
 1年経っても初期衝動を感じさせるパフォーマンスを見せた3期生は、いつも以上の大音量で「ヘイ!」の声を響かせ、未来の扉をこじ開けた。初日のMCでは迷い込んだような小動物のようだった大園だが、歌いだすと陽のオーラを開放し、すでに完成されたように見える乃木坂46の空間に新鮮な風を吹き込んでくれた。
 3年前にはカップリング曲の人気投票で1位になった『他の星から』では、西野が万理華に寄り添う。隣駅の飯田橋から宇宙へ。『あらかじめ語られるロマンス』では東京ドームがプラネタリウムになった。『ダンケシェーン』では、山下と向井が全力を超えたダンスを見せる。全国ツアー地方公演ではおなじみのダンスだが、2人は臆することなく点を線にした。
 VTR明け、アンダーメンバーの名前が現センターの樋口から呼ばれていく、最後のステージになる中元、自分との戦いが続く北野、さらには衛藤や飛鳥といったアイドルとしての青春期をアンダーですごしたメンバーも登場する。最後に現れた万理華が神々しいまでの光を放ちながら『ここにいる理由』を披露した。
『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』では憑依型センターの井上が優しく強い表情を見せる。『君は僕と会わない方がよかったのかな』では井上と優里に挟まれながら、センターの中元が花道を笑顔で歩いていく。ピンクのペンライトで染まった客席は卒業を祝う桜のよう。『生まれたままで』では、2日目に万理華が「みんな、乃木坂が好きかー!」「私も大好きだー!!」と絶叫。すべての生を肯定するようなパフォーマンスは観る者の心を震わせた。
 サブステージに降臨したのは西野七瀬。彼女が跳ねると画面に波紋が生まれ、花が咲き乱れ、東京ドームは幻想的な雰囲気に包まれた。『命は美しい』では、橋本ポジションに入った井上の強い覚悟を感じさせるダンスに目を奪われた。
『逃げ水』では大園と与田がセンターステージで舞い踊り、白い風船がいくつも浮上。『インフルエンサー』では炎を操る白石が情熱をこめて歌い踊る。そして、生田のピアノ演奏に合わせて、メンバーたちが『君の名は希望』を生声で届けてくれた。
 17枚目までのセンター経験者がそれぞれの想いを語り(2日目)、最新曲『いつかできるから今日できる』を歌うと、メンバーはステージセットの坂道を上る。その頂上からキャプテン桜井が「ここからがスタート」と新たな決意を表明した。
 ドラマはWアンコールで起きた。客席からの鳴り止まない声に応え、流れた曲は『きっかけ』。センターで登場した万理華に飛鳥や桜井が駆け寄る。3期生が作るアーチをくぐった中元は、中3組(生田、ちはる)と花道を歩く。今やミュージカル女優となった生田が子供のように泣きじゃくる。
気づくと手をつないでいた中元と万理華が2人で花道を駆けると、その後をメンバーたちが追いかける。卒業する2人が乃木坂を明るい未来へ導くようなシーンだ。中元と万理華の近くにいた生駒が全員を呼びこむ。泣きたくなかった万理華の瞳から涙が溢れ出す。
 最後は清々しい笑顔でファンに感謝を告げた中元と万理華。自分の弱さを知っているから、誰かに優しくなれる。この数分間に、僕たちが好きな乃木坂46がすべて詰まっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?