僕たちが「こうありたかった青春」

最近結成されたグループをぼんやり眺めて、『EX大衆』2020年2月号の「青春高校3年c組」特集に書いたコラムを思い出したので…。以下。

 00年代後半にAKB48をブレイクさせると、48グループを全国各地に発展させ、乃木坂46をはじめとした坂道シリーズを軌道に乗せた秋元康。17年以降も、吉本坂46、ラストアイドル、劇団4ドル50セント、ザ・コインロッカーズ、青春高校3年C組と、精力的にグループをプロデュースしている。
 美空ひばり生前最後のシングル『川の流れのように』(89年)を手掛けたことで作詞家としては“上がり”のはずの秋元だが、近年も「昼過ぎから、多いときは1日7~8本の打ち合わせをし、深夜から明け方まで作詞や脚本の創作作業を行う」「作詞のノルマは1日3本」(『GQ Japan』17年8月号)という多忙さだ。
 秋元は、なぜ動き続けているのだろうか。
 19年7月に公開された乃木坂46のドキュメンタリー映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』の主題歌『僕のこと、知ってる?』(24thシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』収録)は、近年の秋元が書いた歌詞の中でも出色の出来だ。
「ねえ誰か教えて」「何者なんだろう」という歌詞は一見すると平易な表現に思えるが、国民的アイドルとなった乃木坂46に歌わせることで、曲自体が「私たちは何者なのか」と立ち止まって自分に問いかけるドキュメンタリーになっている。
 さらに『僕のこと、知ってる?』を読み込んでいくと、秋元が自分自身に問いかけているようにも考察できる。サビの「ホントの僕は(今もきっと)いつかの僕を(探したいんだ)」という歌詞は秋元自身の心境を象徴しているのではないだろうか。
 小学3年生から家庭教師がついていたという秋元は、5年生になると「開成から東大文Ⅰに行って大蔵省に入り、最終的には天下りをしたい」と言うようになっていた。しかし、開成中学に落ちて「人生は思うようにならない」と学ぶと、「勉強のできるグループと不良グループのちょうど中間に自分のスタンスを置く」冷めた中学、高校時代を送る (『文藝ポスト』03年1月)。
 では、外の世界に熱くなれるモノがあるかといえば、そんな時代でもなかった。1988年8月8日のアントニオ猪木VS藤波辰巳で、古舘伊知郎が「我々は、思えば全共闘もビートルズもお兄さんのお下がりでありました。安田講堂もよど号ハイジャックも浅間山荘も三島由紀夫の割腹もよくわからなかった」と実況したように、この頃の日本は「祭りの後」だったのだ。
 秋元が唯一夢中になれたのが深夜ラジオだった。高校2年生の夏、秋元は「僕ならもっと面白い番組が作れる」とニッポン放送の深夜ラジオに『平家物語』のパロディを送ってみると、亀渕昭信から「局に遊びにおいでよ」と連絡があり、気がつけば学生のまま放送作家になっていた。
 秋元には「青春」がスッポリと抜け落ちている。「ぼくの時間は、あの17歳から止まったままなんです」「自分は、本当は何をやりたかったんだろう。あのとき、ラジオのスイッチを入れなければ、どんな人生になっていたんだろうと、思うこともありますよ」(『GQ Japan』15年10月号)
 作詞家としての初期ヒット作は『オールナイトニッポン』で放送作家を担当していた長渕剛の『GOOD-BYE青春』(83年)だったが、秋元には決別するような「青春」もなかったのだ。
 85年のおニャン子クラブ以降、秋元はタイムリープするかのように失われた「青春」を何度もやり直そうとする。「自転車を全力で立ち漕ぎして」「いつものバスが角を曲がれば」「水道の蛇口に顔を近づけて」「教室の窓から水のないプールを眺めてた」。世代が離れたAKB48や乃木坂46と併走しながら自分が書いた「青春」を追体験するのだった。
 秋元は「その世代の『迷いや戸惑い、思い込み』といったものが僕の頭の中にあって、それが詞として出てくるのかもしれない」(『日経エンタテインメント!』16年10月号)と自身が「青春」の理解者であることに疑いを持っていない。
 前述した17年以降に秋元がプロデュースしたグループの中でも、吉本坂46、劇団4ドル50セント、青春高校3年C組は男女混成グループである。普通のアイドルグループではなく、それぞれ「芸人」「劇団」「バラエティ番組」というエクスキューズがあることで可能になった編成だが、とくに青春高校は16歳から21歳という青春ド真ん中の男女が集まっており、「何か」が起こりそうな環境になっている。これも秋元の「青春タイムリープ」のひとつなのだろう。
 そんな「何か」が起こりそうな環境にいる青春高校の女子アイドル部に書いた『青春のスピード』には、「僕らの青春の日々は 何も起きることなく スピード上げる」という一節がある。秋元にとって「何か」が起こりそうで、「何も」起きないのが青春なのかもしれない。
 女子アイドル部のメジャーデビューシングル『君のことをまだ何にも知らない』は、電車の中で「連結器の辺りから」君を見つめる片道10分間の恋心を歌っている。「君のことをまだ何にも知らない」片想いこそ、秋元の真骨頂といえよう。
 秋元は「青春のことをまだ何にも知らない」からこそ想像の翼を広げて、僕たちが「こうありたかった青春」の世界を描くことができる。その舞台として「誰もがなんとなく想像する“理想のクラス”を作り上げていく青春バラエティ」である青春高校3年C組は最適解なのかもしれない。
 青春の答えが見つかるまで、これからも秋元は動き続けることだろう。


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