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マイクロソフトの時価総額3兆ドル突破が嬉しいので中から見てたらどんな感じだったかを書いてみた

 私はマイクロソフトに2015年に入社して、日本のリージョンでエヴァンジェリストをしたのちソフトウェアエンジニアになって、今アメリカの Redmond で Azure の開発者として勤務している。中の人としてはとても嬉しいニュースで感慨深い事なのでブログを書いてみたい。尚、ここに書いていることは単なる私の体験で、私の意見であり、所属会社の見解ではないことを断っておく。

マイクロソフト前夜

 私は子供のころから、マイクロソフトのコンピュータは全然使ってなくて、マイクロソフトに入る前も、大学では みんなが MS-DOS を触っているところ、Solaris を触ってたし、入社前も Dockerとか Linux を触ってたしマイクロソフトに全然興味がなかった。ただ友人のみーさんに「牛尾君はマイクロソフトに向いてるんちゃう?」と言われて入社したのだが、どちらかというと動機はクラウドの技術に触れたいということと、せっかく勉強した英語使いたいというのが本音だった。
 日本のポジションを応募したのだが、当時のリーダーの伊藤かつらさんがインターナショナルのポジション空いたから受けてみない?と言ってくれて受けたら受かった。自分としてはより英語が使えるのでスーパー嬉しかった。

2015年当時のマイクロソフト

 最近はマイクロソフトはメジャー感があるかもしれないが、2015年の当時、つまりサティア・ナデラが就任して1年目ぐらいの頃は全然そんな感じじゃなかった。私の仕事は DevOps のエヴァンジェリストだったのだが、Windows の事は正直な話なんも知らんかった。私と同じころに Java で著名なてらだよしおさんと、久森さんも同じぐらいのタイミングで、3人で、なんかわしら全然 Windows 知らんし浮いてるよなぁみたいなノリだった。

寺田さんとの最高の思い出の一つ

 当時のエヴァンジェリストのチームは、めっちゃくちゃ個性派ぞろいで、そもそもAzureを引っ張っていた砂金さんもスーパー個性的やし、皆さんご存じの神のような澤さんとか、西脇さんとか、ジーニアスさん、くらもとさん、一緒のチームだった下の写真のみんなも自分と同様、普通の社会人としては機能しないやばい人でかつ、才能ある人ばかりで正直今思い出してもめっちゃおもろかった。

エバンジェリストの皆様。おもろかったなぁ。

 さて、エヴァンジェリストのチームはそんな正統派じゃない面白いタレントがそろっているということはどういうことかというと、市場はめっちゃ難しい状態だったわけです。我々は開発者の人をエンゲージする仕事だったので、開発者の人に振り向いてもらわないといけないわけです。

 ところが、開発者コミュニティに行くと、クラウドの比較というのは、AWS と GCP の事で、マイクロソフトの Azure はそもそも比較対象でもない感じでした。GCPより Azure の方が早いのですが、当時振り返ると、マイクロソフトのクラウドは Windows しか使われてないと勘違いされていたり、そもそもマイクロソフトなんてカッコよくない。悪の帝国。自分は Linux でオープンソースだから関係ないみたいな感じでした。

 今でもよくてらださんと一緒にめっちゃくちゃアウェーなカンファレンスに突撃してプレゼンとかデモとかしたのを思い出します。アウェーでも皆さん本当に暖かく見守ってくれていました。でも、当時は正直オープンソース系のコミュニティではそんな感じでまったく人気がなかったです。 

サティアナデラの衝撃

 普通だとそんな状況だと面白くなさそうなものですが、難しい状況なのに、めっちゃ面白かったです。3年ぐらいしか仕事が続かない私がもう9年目ですから。先日、OpenAI のサム・アルトマンの解任騒動の時に男を上げてかっこいいなぁと思ったサティアですが、当時から「ほんまこの人最高」と思っていました。とはいっても「カリスマ性」とか「人を率いる力」とかそういう系ではなくて本人は「オラオラ系」ではないのですが、確実に人の心をつかむような戦略をものおじすることなく、迷いなくやっていました。

 私は後から知ったのですが、人を大切にするようなダイバーシティ&インクルージョンそして、会社のヴィジョンを現在の 

Our mission is to empower every person and every organization on the planet to achieve more.

About Microsoft

 地球上のすべての人々や、企業をエンパワーするというものに変えました。なぜなら、前のミッションすべての机にPCをは達成してしまったからです。ヴィジョンを達成しちゃうなんてかっこよすぎませんか?

 そして、周りの人がみんなWindows 系の技術者だったのに、私たちみたいなオープンソース系の人をその後もどんどん雇って、そしてすぐに、サティアは、Microsoft♡Linux というメッセージを世界に打ち出しました。これを見た時に久森さんとか、寺田さんとおおおお!と熱くなったのを思い出します。

といいますのも、マイクロソフトはビルゲイツの頃から、フリーソフトウェアに反対的な立場だったし

スティーヴ・バルマー氏も Linux はガンと言ったこともあった。変革は、バルマー氏の頃から始まっているので実はバルマー氏も賢く優れた人だと思うが、サティア時代になって明確にCEO自ら Microsoft ♡ Linux のメッセージを打ち出した。 

実際に私たちは Mac を使っていたし、Windows をお客さんに進めるようにとすら言われなかった。それよりも、オープンソースをがっつりやってくれと言われたので当時とても驚いた。

 私は実際にスペインの DockerCon に参加したり、Kubernetes の extensionを書いたり、HashiCorp のプロダクトを触ったり、コントリビュートしたりしていた。マイクロソフトにはその宣言通り、どんどんオープンソース系の人が入って来た。また多くのマイクロソフトのプロダクトも GitHub でオープンソースになっていきました。ちなみに、私のチームの Azure Functions のランタイムのソースコードも公開されています。

Spain の Docker con での一幕

 当時の自分がかかわった一番の思い出は、日本のマイクロソフトのde:code という最大のイベントで、クリエーションラインさんといっしょにChef, Mesos, Jenkins, HashiCorp そして、マイクロソフトの DevOps の世界的著名人のサムグッケンハイマーを一堂に呼んでキーノートをやったこと。個人的には自分のヒーローの ミッシェル橋本にあえて話も出来たの最高の役得でした。

当時はマイクロソフトがこれやって衝撃的だった


まさに役得。


DevOps のオープンソースの勢いあった人々を集めて、マイクロソフトがそれを主催するとか多分数年前だと考えもできなかっただろう。この仕事は今でも面白かった思い出だし、エヴァンジェリスト時代の自分の一番いい仕事だったと思っている。上記のすべてのサービスを組み合わせて1000個のコンテナーをプロビジョンするデモとかやって楽しかった。マーケティングで組んでいたたえこさんはマジ優秀だった。ほんまいい思い出。

マイクロソフトの中の著名人


 マイクロソフトや、Windows にまるで興味がなかった自分がびっくりしたことの一つは、Eric Gamma がマイクロソフトにいたこと。彼は Gang of four と呼ばれるデザインパターンの生みの親で、しかも彼が今もバリバリの開発者として、今世界中のみんなが使っている Visual Studio Code を作っていること。コンピューターの歴史に名を刻む人が自分の同僚とか熱すぎるし、この Visual Studio Code が使いやすいので、マイクロソフト系の技術者の人々以外もガンガンに使うようになっていった。

 サティアの宣言は、表面的なものではなく、本当にそういうことが実行されて、マイクロソフトのクラウドの Azure もオープンソースで著名なサービスがどんどん Azure の上で動くようになっていった。そして、ついには WSL (Windows Subsystem of Linux) という Windows で Linux そのものが動くサービスまでできてしまい、自分的には Mac を気に入ってる以外の理由で無理に開発環境で使う理由がなくなってしまった。さらに Kubernetes の作者の一人の Brendan Burns までマイクロソフトにやってきて顎がはずれそうになってしまった。

 そして皆さんもご存じの通りの極めつけはオープンソースの権化たるGitHub を買収してしまった。他にも Linked-In とかも買収したが、サティアはこちらの都合を押し付けることなく、GitHub は GitHub のまま現在まで活躍しているし、その良さを壊すことなく、GitHub Action など買収があったからこそのサービスもヒットして双方にとっての最高の結果を見せている。  

 そこまで計算に入ってたのかは定かではないが、この買収が結果としてのちの GitHub Copilot の精度を圧倒的にするのに物凄く貢献しているのではないだろうか? (事実はしりません)

 これも、買収して、マイクロソフト色に染めるということをせず、自分たちだけ良ければいいという選択をしないところが中の人として見ていて嬉しいところで、これは多分サティアのリーダーシップによる賜物だと思う。
この辺は次の本を読むとよくわかると思う。
  彼は全然押しつけがましくなくて、エンパシーあふれるリーダーで、ものすごく人を大切にする。

  彼はこんな感じで社員ですらホンマにできるんかいな?と思うようなことを会社の戦略として次々に実現していった。AIの前に既に彼以前では考えられなかったような変化を本当にマイクロソフトにもたらした。
 現在ホットな AI に関しても、皆さんのイメージとは違うがマイクロソフトはずっと前からやっている。自分でやって、投資したりいろいろやって、それがやっと最近花開いた感じだ。その後の OpenAI とのいろいろなことや、Copilot の攻勢とその実行は皆さんもご存じの事だろう。ちなみに、2016年の時点でもうこんな感じだった。

 だから、自分たちにとっては全然突然ではない感じだ。サティアとは一度しか話したことはないけど、本当にかっこいいリーダーだ。マイクロソフトにいる8年間で毎年のようにいろんなことがドラスティックに変わっていく。ここに書いたみたいに、本当にでかい企業なのだろうか?と思うほどだ。そして、死ぬほど働きやすいし、仕事もめっちゃくちゃ楽しい。私が入った時にはすでに快適だったが、それ以前には下記のようなダイアグラムが書かれていたぐらいだし、以前はきっとそこまでではなかったのだろう。

周りの人もええ人ばかりやし、人生で「この仕事一生続けてもええわ」と思ったのはここが初めてだ。

先日のサムアルトマン氏解任事件で、私も中の人として、あの週末は、マイクロソフトの中の人として会社が沈むか否か、そして、世界中の人が多分AIの発展が遅れるか否かの瞬間を目撃していて、それを元の鞘に戻したのはサティアのあの行動によるものが大きいと思う。正直コンピュータの歴史を目の前で見ている気分だった。あれをできるリーダーはマジでかっこいい。

Linux はガン。Microsoft は悪の帝国からここまで変わった。ほんま彼の功績はすごすぎる。

サティアニキありがとう!

 もちろん彼一人の功績じゃなくて、マイクロソフトの沢山の人が頑張った結果だと思うが、それでも彼がリーダーになってくれて本当によかったと思う。彼がリーダーになって、口にしたことを次々実現していって、それでかつ、私のようなエンジニアも最高に楽しく仕事ができる環境をつくってくれてありがとうと思う。

 CREAさんにインタビューされたときにサティアの事とか、社内の事とかお話しているのでよかったらどうぞ。

私の働いている環境がどんな感じか興味ある人は、もしよかったら私の本を読んでみてください。昨年出版したのですが、ありがたいことに10刷りで紙だけで5万部突破して電子も含めると7万8千部ぐらい買っていただいているそうです。

マイクロソフトの歴史ということではスティーヴジョブズのクレイジーなところとビルゲイツのかっこいいところが見たい人はこの映画めっちゃおもろいよ!


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