利他に徹した先輩

 最初の職場で大変お世話になった先輩がいます。先輩といっても年齢は25才ぐらい離れ、自分の父と同じぐらいの年齢でした。その人はある政党を支持しており、その政党のためには選挙期間中は自宅を開放して活動する人たちの寝食を提供するようなこともやっていました。能力も高く度胸もある人でしたが、組織の中ではそうした政党色が嫌われて、退職するまで万年主任といった状態におかれていました。

 この先輩と一緒に出張する機会があり、その時、自宅に夫の暴力から逃れてきた女性をしばらく匿ったことがあり、その女性が夫から離れた土地に行く際に、20万円を貸したと話してくれたことがありました。僕は、「そんな、返してくれるあてのない人に、お金を貸して大丈夫なんですか」と聞いたのですが、それに対し先輩は「お金を貸したということは、あげたのと同じだ。そんなもの、返ってくるなんて思ったことがない。」と答え、大学を出たばかりの僕は「世の中にはこういう考えの人がいるのだ」と衝撃を受けたものでした。

 あれから四半世紀が過ぎ、漢気のあったこの先輩は退職後、ほどなくして病を得てこの世を去り、僕自身はこの先輩よりずっと上の立場になりましたが、困っている人を助けるという点において、この先輩のように自分を捨てて尽くす境地には至っていません。おそらく、そうやって他人に尽くすことが、巡り巡って自分に戻ってくると確信していたのでしょう。そして、この人だけでなく、これまで多くの人のお世話、ご恩を受けながら、いまだお返しできていないことに、忸怩たる思いはありますし、これまで受けたご恩を返すことが出来るよう、微差を積み重ね、目の前にある壁を乗り越えて、新天地に飛躍することを、ここに決意し、鍛錬を重ねます。

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