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一期一会のドライブ

ヒッチハイクはタダで乗せてもらおう、という気持ちだけではさびしい。
ヒッチハイクは一期一会のドライブ。

ニュージーランドの田舎町に滞在していた頃、町のスーパーへ買い物に行くのに、よくヒッチハイクを利用していた。ウーバーなんてまだない頃の話。
行きはいろいろだったが、帰りは必然的にスーパーで買い物を終えたドライバーに乗せてもらうことになる。

旧式のカローラに乗った、あるオヤジとドライブした時のことだ。
「今日は魚料理を作るんだよ」
と言ったオヤジと、得意料理の話をきっかけにして、いろいろとおしゃべりを楽しんだ。
不思議なもので、現地の人の車に乗り込むと、車窓の景色は一変する。まるで自分がその町の住人になったかのように、見慣れない風景が急に身近なものに感じられる。

どこからきたんだ?
俺はニュージーランドの生まれだよ。
どこを旅した?
これからどこへいくんだ?

オヤジにはいい暇つぶしになっただろう。旅行者のこっちも地元の人とたわいもない話をするのは楽しいもの。
「ありがとう。いい週末を」
と言ってオヤジと別れ、帰り着いてスーパーの袋をあけると、中にはサーモンやらハムやら朝食用のシリアルやらが入っていた。しまった、と思ったが時すでに遅し。オヤジの袋の方を持って帰って来てしまったのだった。
自分の買った、スペアリブとか、パンとか、野菜とか、果物とかはオヤジの方にいってしまったのだった。自分の買ったものの方が随分多かったから、「オヤジよ許しておくれ」と思った。
あのオヤジならきっと、入れ替わった食料品を楽しんだだろう。

日本でも学生時代に1度だけ、ヒッチハイクをしたことがある。関空に着いたものの、滋賀のマンションまで帰る金がなかった。長期滞在していた沖縄から帰ってきた時だった。

関空の駐車場に行って、出ていく車にお願いしよう思った。滋賀はレアだろうと思って、「京都」と書いた紙を持って待っていると、すぐに1台の車が止まってくれた。(ヒッチハイクはいかに時間をかけないかがポイントで、目的地選びや、顔の表情や、筆跡はとても大事)

乗せてくれたオジサンは、娘を関空に送り届けた帰りだった。それも娘はなんと、沖縄へ旅立ったとのことだった。

「すごい偶然ですね。」

とお互いびっくりしあった。沖縄のいいところなんかをオジサンにたくさん話した。娘が行ってしまって、さびしそうなのがありありだったからだ。きっと娘を1人行かせる不安もあっただろう。聞けば、ちょうど自分と同じくらいの年齢の娘さんだった。
ヒッチハイカーを乗せるのは初めてだ、とオジサンは言った。きっと1人で帰るのはさびしかったのだろう。

京都までの道中たくさん話した。これはヒッチハイカーのつとめだ。タダで乗せてもらっているのだから、オジサンにさびしい思いをさせてはいけない。自分も沖縄に残してきた、いろんな思いがあった。2人ともさびしかったのかもしれない。今思えばいいドライブだった。

山科で降ろしてもらった時に、オジサンに沖縄の海で拾ったサンゴと、灰皿や小物入れにもなる大きな貝殻を進呈した。要らないものだったかもしれないけど、せめてもの気持ちだった。




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