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「SPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24 "HIMITSU STUDIO"」レクザムホール公演、約6000字ライブレポ。

2023年8月9日、夏の日の長さが身に沁みるような気候の中、僕は香川県・高松市に赴いた。

何を隠そう、今日は「 SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO” 」レグザムホール公演に参加したのだ。というわけで、自分にとって人生初のスピッツのライブとなった本公演を自分なりに書き綴ってみる。




※今回のライブレポには、セットリスト含めネタバレが多く含まれています。ご注意ください。





























それでは、セットリスト順にレポをお届けする。


1.ときめきpart1

客電が落ち、一曲目に放たれたのはこの曲。そこにスピッツが居る、そしてメンバー全員が演奏している、という事実が目に飛び込んだ瞬間心にも目にも熱く込み上げるものがあった。これは
アーティストのライブに参加するごとに起こるもはや恒例の出来事ではあるのだけれど、スピッツともなれば特別。30年、いや35年以上全く変わらないメンバーで音を鳴らし続けているという奇跡の集合とも言える彼らをこの目で見ている、というこの上ない邂逅の喜びが自分のなかを駆け巡っていた。その中で聴くこの「ときめきpart1」はいつも以上にみずみずしく、可愛らしさを含んだ歌であった。透き通るマサムネさんのボーカル、そして安定したグルーヴがたたえられた演奏、そのどれを切り取っても、まさにときめきが止まらない空間であった。

2.跳べ 3.みそか

次は「ひみつスタジオ」でも2曲目に据えられているこの曲をプレイ。ハードでもあるけど優しさもある、スピッツロックの真骨頂とも言えるこの曲が心を一気に高揚させる。「ここは地獄ではないんだよ 優しい人になりたいよね」という印象的なフレーズに合わせ、聴く者の芯に鳴り響く軽快なメロディーが随分と自分の中の魂を震わせていた様に思える。
そして続いては2005年のアルバム「スーベニア」収録の同じくロックなナンバーを久々に披露。赤く燃えるようなライティングの中で「悩んで 悩んで はじまるよ 必ずここから」と力強く歌い上げるマサムネさんの生粋のロッカーとしての一面が、脳に直接話しかけるかのように大胆に響いていた。

4.フェイクファー

次は1999年リリース、屈指の名盤としても名高いアルバム「フェイクファー」から同名楽曲を披露。個人的にものすごく聴き込んだ曲であったからこそイントロのギターが鳴りはじめた瞬間胸をぐっと掴まれる様な高鳴りがあった。この曲が持つ、現とかけ離れたふわりとした世界観が会場をゆっくりと包み込んでいた。自分としてはこの曲を生で聴けたのはとんでもない嬉しい出来事で、スピッツの曲の中でもトップ10に入るくらいの好きな曲だったからまさに夢のよう。

5.さびしくなかった 6.美しい鰭 7.讃歌

1度目のMCの後、ここからは「ひみつスタジオ」収録曲を3曲連続でプレイ。
一曲目は「さびしくなかった」。甘く儚い恋心に心が少しづつ解けていく、そんな優しい空気を醸し映し出している。そんな気持ちを「さびしくなかった 君に会うまでは」という純なフレーズで見事に表してしまう草野マサムネというライターの底抜けな才能に、この曲を聴くたび驚かされる。
そして続いては「美しい鰭」。某大人気アニメの劇場版主題歌として起用されスマッシュヒット。スピッツの代表曲としての地位を新たに作り上げた。この曲が「さびしくなかった」の次に演奏されるというのは個人的に見事な繋がりがある様に思う。「壊れる夜もあったけれど 自分で居られる様に」というワンフレーズに代表される「美しい鰭」に込められたよろめきながらも生き抜く心情が、「さびしくなかった」の救われるような明るさに強められていたような気がする。そしてその後の「讃歌」への流れもとにかく良い。「新しい歌で 洗い流す   すべて迷いは 消えたから」他者の言葉に、そしてこの現世に打ちひしがれた自らの身をこの曲でもって洗い流して次に進む、というような"活きた"フレーズがこの流れにより、強まっていた。この3曲の演奏を聴くだけでも、この「ひみつスタジオ」が生み出すコンセプチュアルな魅力に改めて気付かされる。

8.大好物

MCを挟み、続いてはこの曲を演奏。真っ直ぐに心を軟らかくしてくれるスピッツらしい恋の歌だ。この曲さえあれば、どんなに苦しんだ時期も乗り越えられるような安心できる優しさに満ちている。黄色が中心んのライティングの中で演奏するメンバーの様子を見ると、この曲とバンドの絶対的な心の広さに泣きそうになる。

9.運命の人

そして続いては「フェイクファー」収録の言わずと知れた大ヒット曲。序盤の軽やかなギターソロのみの演奏から、次々と楽器が加わっていくライブアレンジであり、且つ半音下げのアルバムバージョン。のびのびと歌い上げるマサムネさんのボーカルが、この曲らしい上向いた恋の明るさを余すことなく伝え切っていた。この時点で僕はまさかこの曲まで聴けるのか…と感嘆していたがどうやら本番はまだまだここからだった模様。

10.未来未来

ライブ本編も後半戦に突入。次に放たれたのは民族音楽的なエッセンスを含有したコーラスが大きな話題を呼んだ「未来未来」。スピッツがまだまだ刺激的で新しい音楽を生み出している証左ともいえるこの楽曲は、ライブになるとこれまた凄まじかった。これまでの楽曲の中では「Na・de・Na・de ボーイ」に似たビートを感じるような、少しの妖しさを孕んだメロディーは生の演奏によりますます磨き抜かれ、妖しさを増幅していたように感じる。また韻を踏んだような小気味いいリリックが自らの中にひとつひとつ、澱みなく入っていく様を全身で受けた時の何にも変えられない高揚はこの曲でしか味わえない代物だと思う。

11.優しいあの子

次は朝ドラ主題歌としても反響を呼んだ「優しいあの子」。前の曲との良い温度差を感じながら、陽だまりのような明るさのこの曲を噛み締めた。これほどまでに、すーっと心を清めるような澄んだメロディーは日本中を探しても中々ない気がする。

12.ロビンソン

僕のようなスピッツのライブ初参戦の人たちに呼びかけるMCの後に、マサムネさんの「それじゃあの曲やりますか!」という合図とともに聴こえてきたのはあのアルペジオ。日本人ならば一度は聴いたことがあり、一度は必ず心を奪われたことがあるだろう、テツヤさんが鳴らすあの音色。このイントロのみでも楽曲の浮遊したような世界観がひしひしと伝わってくる。そして当時の音源と全く変わらない、どころかますます磨きのかかったマサムネさんのボーカルが心を、打つ。そのどれが欠けてもこの超名曲にはならない、という当たり前のロジックの前に無数の感動が生み出されていた。

13.i-O(修理のうた)

そんなロビンソンに続いての演奏曲は「ひみつスタジオ」の一曲目。ジャケットにも写っていて、なんと今回のツアーにも参加してくれているロボットのi-Oくんにも重なる一曲。さりげなく、ぼろぼろに体を痛めつけられるようなことが沢山潜んでいる現在を生きる全ての人の背中をそっと見守るような、目いっぱいの優しさがたたえられた珠玉の名曲。アルバムで最初に流れてくるイメージがあったからこそ、ライブ中盤で聴くといつもとはまた違う形で沁みてきた。

14.チェリー

MCを挟み、次に放たれたのはこれまた超ヒットソング「チェリー」。リリースから25年以上経つこの楽曲の前には、世代という言葉も古さという言葉も無意味だと強く感じたひと時であった。
「愛してる の響きだけで   強くなれる気がしたよ」というフレーズの放つスタンダードだけど尊い"愛"という感情の移ろいが演奏を通してクリアに伝わってくる。これが何気ないメロディーに載せて歌われているからこそ人は「チェリー」に惹かれるのだろう。死ぬまでに生で聴きたかった歌のうち、ここまでで既に2曲を聴けちゃってる事実にもう感動。

15.オバケのロックバンド

ここからはロックの良さが詰まった楽曲を連発。ライブは終盤戦へと進んでいく。その口火を切るのは「ひみつスタジオ」収録の本楽曲。この曲は何を隠そう、"メンバー全員が歌う"という紛うことなきスペシャルな曲。バンドマン、というある種特異的な存在をオバケに喩えて歌われるこの一曲は想像以上にハートフル。ライブでも然り。マサムネさん→﨑山さん→リーダー→テツヤさんの順に、心を掴んで離さない歌声が響いていく。この4人じゃなきゃ鳴らせない、歌えない音楽が会場中を包み込んでいた。と同時に"スピッツ"という名の類稀な奇蹟を噛み締めていた。と同時に、「忙しけりゃ忘れてもいいから 気が向いたらまたここで会おう」というスピッツらしい、ささやかな希望と約束が含まれたフレーズに強く胸を打たれた。ちなみにこの曲はアルバムの中でも特に聴きたい歌だったからこそ喜びもひとしお。それはきっと他の観客も同じだったのだろう、とこの曲の演奏時の盛り上がりを思い出しながら確信している。

16.8823

そしてライブには欠かせないド定番曲「8823」。メンバーから溢れ出てくる、リリース当時よりも若返ってるんじゃないか?と言わんばかりのパッションは益々熱を帯びていた。「君を自由にできるのは 宇宙でただ一人だけ」何度このフレーズに心を撃ち抜かれたことか。それは今日も全く同じで、曲の持ついじらしいほどの愛とロックが観客全員の心の鼓動を高めていた。

17.不死身のビーナス

そして驚いたのはこの曲。ファンクラブイベントでは定番曲であるが、ライブツアー久々なんて言葉じゃ効かないほどの期間ぶりに演奏されたこの曲はスピッツ初期を代表する名盤「空の飛び方」収録のナンバー。初期のナンバーならではの若々しくフワついたメロディーに飛び乗る重厚な演奏と歌声はまさに至高。不滅の若々しい"あの頃のロック"を存分に聴かせてくれた。ここまでの流れもあってボルテージはまさに最高潮。

18.醒めない

本編ラストを飾るのは「ロックに目覚めた頃の初期衝動」をテーマにした「醒めない」。﨑山さんのシンプルだけど確かにテクニックが光るイントロから始まるこの曲は直前に演奏された2曲とは対照的に"今のスピッツのロック"を形どるような広がりを見せていた。メンバーから溢れるまだまだ醒めないロックへの純粋な衝動が自分の心だけではなく、魂までもいっぱいにしていた。この熱い衝動はこれからもさらに育っていくはずだし、自分の中でも育てていきたい。

<ここからアンコール>En1.P

本編が一旦終了。ただこれで終わるはずはない。まだまだ足りない、という気持ちが見え隠れするような観客たちの手拍子が鳴り響き続ける。そして5分ほどの間を持って、メンバーたちが割れんばかりの大歓声と共に再び現れた。自分たちの持ち場についていき、アンコールへの準備が整えられていく。
そしてアンコール一曲目、マサムネさんの「ちょっと﨑ちゃんに前に出てきてもらって、しっとりと」という言葉に続いて演奏されたのは「P」。調べる限りでは収録されている「さざなみCD」を引っ提げたツアー以来の披露となっているレアな楽曲。イントロが流れた瞬間、正直かなり驚いたと同時にすごく嬉しかったし、ドキドキもした。この曲は独特な不穏さと少しの光が入り混じった曲で聴くたびに少し胸を騒がせる。そんな楽曲をじんわりと広がる様な演奏と、それに引き立てられるマサムネさんの歌で堪能した。ここまでマサムネさんの透き通ったボーカルが際立つ曲もなかなか無いよな、としみじみ。

En2.月に帰る

メンバー紹介の後プレイされたのは、これまたツアーではレアすぎる「スピッツ」収録の初期楽曲。効果的に響き合うギターの音が、そして「もうさよならだよ 君のことは忘れない」というフレーズが、近づいてくるライブの終わりをあえて考えないようにしていたからこそやけに心を動かしてきた。少しの歪みが融けたギターを中心にした壮大なアウトロもグッときた。

En3.けもの道

そして正真正銘、ラストの一曲は赤いライティングと共にプレイされた「けもの道」。ツアーの定番曲として君臨し続ける「三日月ロック」収録曲。「東京の日の出 すごいキレイだなあ」を「高松の日の出 すごいキレイだなあ」と歌う粋なアレンジも含まれたこのテイクは、この日最後にして最高の一体感を以って迎えられた。自分もこの曲がここで来るのか!と感激しつつ、息つく間もなくスピッツの珠玉のロックに身を委ねた。

終わりに

以上、全21曲のセットリストで届けられた今回のライブ。全体を見渡してみるとデビュー当初から現在に至るまでの楽曲が非常にバランスよく散りばめられており、改めてスピッツというバンドの色褪せない魅力、そして不変のエナジーを体感することができた。殻を破るような力が込められたロックを演るスピッツも、かわいい恋の歌を奏でるスピッツも、優しい光を照らしてくれるスピッツも、その全てがもっと好きになった1日だった。

当日のセットリスト・参加メンバー

SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24
“HIMITSU STUDIO” 2023年8月9日(水) 
レクザムホール公演 セットリスト
1.ときめきpart1
2.跳べ
3.みそか
4.フェイクファー
-MC-
5.さびしくなかった
6.美しい鰭
7.讃歌
-MC-
8.大好物
9.運命の人
10.未来未来
11.優しいあの子
-MC-
12.ロビンソン
13.i-O(修理のうた)
-MC-
14.チェリー
15.オバケのロックバンド
16.8823
17.不死身のビーナス
18.醒めない
===アンコール===
19.P
-MC・メンバー紹介-
20.月に帰る
21.けもの道

Vo.&Gt.   草野マサムネ
Gt.   三輪テツヤ
Ba.   田村明浩
Dr.&Cho.   﨑山龍男
Key.&Cho.   クジヒロコ
Special Thanks   i-O

あとがき

控えめに言っても、スピッツは自分がいま一番好きなバンド。そんな憧れのミュージシャンの演奏を間近で見られるって、これほどまでに幸せなことってこの人間界に他にあるのかな…とこれを機に改めて感じた。こんなに心がときめいたのは久々だった。
それはそうと「8823」演奏中、リーダーがまさかのベースを投げ出してダンシングする一幕が。後にこれは本人により"ベース弾かない奏法"と名付けられた。そして続けてリーダーは言う、「なぜああなったのかと言うと、とにかく楽しかったから」と。楽しいものは楽しいとはっきり言える、そしてその気持ちを全身で表現できる。リーダーくらいのパッションをいつまでも持ち続けていたいと痛感した17歳の夏。スピッツの夏。日本の夏。

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