「筋」について

私は今渋谷でアルバイトをしているのですが、通過駅の原宿の近くに、千駄ヶ谷将棋会館があります。そう、あの藤井聡太が通っている所です。あぁ、藤井聡太も羽生善治もあそこでバチバチやってんのかなぁ…って思っているうちに渋谷に到着するのです。

私も昔は将棋をよく指していました。小学校1年生のころ、父に教わったのがきっかけです。大阪生まれなので、毎週のように関西将棋会館に通って、タバコ臭いオヤジとすりへった汚い盤に囲まれて指していたのを覚えています。

ただ如何せん才能というものがなかったのか、努力の方向性が間違っていたのか、小学校では2級か1級どまりでした。中学高校でも将棋部には入っていたのですが、幼いころほどの熱意はありませんでした。

将棋を再開したのは、大学に入って一人暮らしを始め、2年強たった時です。Youtubeを見ている時に、たまたまサジェストに将棋の実況動画が出てきたのがきっかけです。元奨励会員が実況しているものでした。元とはいえ、天才しか入れない奨励会に所属していた人ですから、それはそれは凄まじい切れ味で相手を圧倒していました。私は純粋にその姿をかっこいいと思ったのです。

約10年ぶりに指すにあたって重視したのは「筋」です。「筋がいい」「筋が悪い」、、、将棋に限らずよく聞く言葉、且つとらえどころのない言葉ですが、個人的には「最短で結果に到達する可能性が高い行動」と認識しています。具体的にどういう手なのでしょうか。

一例として
・相手の囲いに風穴を通すような歩突きなど、安い駒での攻め
・攻防の角打ち
・盤上の駒を効果的に使う手
などがあげられると思います。もちろん時と場合によりますし、ただのアマ二段の意見なので、間違ってる所もあるかもしれませんが…

筋がいい手、を検討するのは非常に難しいので、逆に私の昔の棋譜から筋悪の手をちょっと見てみましょう。

画像3

相振り飛車の局面。こちらが8筋で銀交換をした手に対し、相手が△45桂と桂馬の活用を図ったところです。この時点での評価値は互角です。ここから私は▲25銀と飛車取りに打ちました。最悪です。評価値は一気に-1000ほどになりました。一見飛車取りで相手が気持ち悪いように見えますが、△35飛車と逃げられた後に何も残りません。相手の玉に迫る手でもありませんし、手持ちの銀を手放しています。しかも△37桂成からこちらの飛車を素抜く手が生じます。ザ・筋悪の手です。

ここでは、▲95歩と端にちょっかいをかける手か、▲46銀とがっしり受ける手が正解でした。指しやすいのは▲46銀の方でしょうか。全軍躍動している相手の方が少しはいいものの、こちらも端攻めの筋が残っている上、金無双も健在なのでまだまだの将棋です。

先ほど筋のいい手は「最短で結果に到達する可能性が高い行動」ではないか、と書きましたが、もう少しかみ砕いて言うと、「こちらのリスクや負担は最小限にしつつ、相手に損害を与えられる and こちらの利益になる手」という感じになるのでしょうか。こういう手を意識するようにしてから、私は長年の壁であった初段を突破し、二段にまで上がることが出来ました。

現代将棋は(ソフトを使った)研究将棋などと最近言われています。もちろん、もちろん、研究は大事ですが、それと同時に詰将棋などで培った終盤力、難解な局面での最善手を模索できる思考力、突発的に駒がぶつかった時の対応力など、様々な「筋の良さ」も大事だと思っています。
局面をソフトで研究しても、丸暗記するだけじゃまるで実戦の役に立ちませんし、実戦的な感覚が磨かれていない状態でソフト研究をしても、研究量が膨大になるばかりで、少し局面が脇道にそれるとすぐに困ってしまいます。確かにソフトは偉大ですが、あくまで我々が対戦する相手は人間なので、そればかりに頼るのも「筋の良くない」勉強法だと思います。己の純粋な棋力をあげることは、いつの時代でも最重要課題なのです。
「先ず隗より始めよ」。まずは目の前の一局を全力で指す。まずは目の前の詰将棋の本を解く。そういった地道な勉強法は変わらず重要です。私もまだまだ道のりは長いので、ボチボチ頑張ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?