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ライバル

数年前まで、俺達の住む地は荒れ、食料も水も雨を
しのぐ家さえも無い、到底人の住める地では無かった、、
   僅かに残った廃墟と化した建物があり、夜に
なれば皆で身を寄せ合い眠った
   数人の一般人と俺達は、戦いに慣れた戦士が
数名、戦士が交代で食料を探しに数日帰って来ない日も珍しくはなかった
   食料を探しに行っていた戦士の1人が、大声を上げながら、戻ってきた

「お〜い! 見てくれっ!」
と、腰に下げてた袋から何やら取り出したのは
種だった
   ん?  待てよ、、
種があっても水がなけりゃ育つ物もな〜
  そんな心配もすぐに消えた
  良い事は続くもので、廃墟の奥にあった枯れた井戸から水が湧いてきた
  建物の影となっていた土を集め、畑を作り種を植えた
  最初は何の種だか分からなかったが、赤く小さな実がなった
  それはみずみずしく甘い優しい味だった
いくつか違う実もあったが、どれも美味しく
皆嬉しそうに食べてくれた
  俺達戦士は、一般人を優先して食料を与え
特に俺は自分の取り分を他の戦士に与えた
  それを見ていた1人の戦士が赤い実をくれた

「兄さんも食べなきゃダメだよ!」
「でも、お前のが無いだろ?」
「僕は他の実を分けてもらったから大丈夫!」
と、弟が笑う
  
   俺達兄弟は戦士として、長年に渡り共に戦い
時には命の危機さえも経験してきた
  俺は自分の事よりも、皆の事、戦士の事、何より
弟を守るんだと、それだけが、それだけが
俺の生きる証だった
  採取した実からまた種を取り、植える事で食料、水に困る事も無くなり、そのおかげで皆の活力も戻り
壊れた建物も直し、雨風の心配もなく眠れるようになった
  
俺達はこの地をオアシスと名付け、皆が安心して暮らせる地を築いた
  ある日、新しい物を見つけたいと弟がオアシスを出た
  少し不安を覚えたが笑顔で見送った
また、いつもの様にオアシスは皆の笑い声と活気に
溢れていた
  弟がオアシスを立ってから30日が過ぎようとしていた
  流石に居ても立っても居れなくなった俺は、身支度をし、弟を探しに行こうとしていた
  オアシスの入り口に1人の男の姿が見えた
だが、弟ではなかった、、
  その男は俺に深々と頭を下げ、話始めた

「私達の住む地はここから2日程の所にあります
弟さんは私達の地にいらっしゃいます、どうかご安心を」
  
 「弟は、弟は怪我か病気でその地から動けないでいるのか?  ならすぐに迎えに行く!」

 「いえ、弟さんは、お迎えは必要ないとおっしゃっておられます。」
  
  「何故だ!」

  俺は男を建物の中へ招き、話を聞いた
弟はオアシスを立って2日後にその地を見つけ、現状を目の当たりにし、その場に泣き崩れたそうだ
  そこに住む者達はみな痩せ細り、食料や水を奪い合い、殺し合う、、そんな光景を弟は黙って見ている事は出来ず、 食料の蓄え方、建物の直し方、安全な水の確保を皆に教えていく内に、自分はここから
離れてはいけないのだと、皆に話すようになったとの事だった

  そして弟はこの男にオアシスへ行き、兄である俺に全てを話すように頼んだそうだ、、
  さらに弟は、こうも言っていたと、

   「兄さん、これからは僕達ライバルだよ
   皆が幸せに暮らせる地を共に造って行こう!
 心配しないで、2日程の距離ならいつでも行けるから             
  
    あっ!  それから、僕はこの地にノアと名付けた   
    んだ、オアシスとノア共に皆が幸せになれる地    を目指そうね!」

   、、と、俺は涙が止まらなかった
いつの間にこんなにたくましく、強い戦士に
なったんだと、

  弟であり、ライバルとの幸せな競走は
      永遠に続くだろう

                                            END

  

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