黎明の魚は星空の海へと泳ぎ出す

それは、どこか遠い遠い過去の、遠い遠い星でのこと。

その星では、人間族の生命体達の女性体の生殖能力が衰え、絶滅の危機に瀕していました。

そこで考えられたのが、”星空の海”の奥深くに住んでいる半魚族の女性体との交配だったのですが。
しかし、人間族と半魚族にはこれまでほとんど交流がなかったため、コミュニケーションをどう取るか……から、はじめなければいけないような状態で。
そして、そこに時間をかけているような余裕は、絶滅に瀕した人間族にはありませんでした。

そのため、人間族はこれまで不可侵を保っていた半魚族の領域の際で罠をしかけ。
そして、一人の半魚族の少女が、捉えられてきたのです。

相利共生体である光魚とともに、容器に閉じ込められ、怯え切っていた”魚”の少女。
”黎明の魚”と名付けられた彼女の世話をすることになったのは、何としてでも彼女と番えとを命じられた、人間族の若者でした。

しかし、言葉も通じない上にまだ幼さの残る”魚”は、ただただ混乱して彼を恐れ。
光魚の明かりも最小限にして、容器に満ちる”星空の海水”の可能な限り奥深くに潜もうと、もがくばかり。

それを目にした若者の心を満たしたのは、”魚”への痛ましさと、彼女をこんな目にあわせた上に自分にこんなことを命じた、人間族の長老達への激しい、激しい怒りだけでした。

ついには、彼は人間族の全てを裏切り、自らの命を懸けて”魚”を”星空の海”へと返してやったのです。

”星空の海”に、彼女の長い美しい尾が、自由になった喜びに震えながら、ゆらぎひるがえってゆく。

それが、彼女のために結局命を落とすことになった若者が、最後に見た光景だったのでした。

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