見出し画像

瀬名快伸インタビュー文字起こし 君は彼方

このnoteは上の動画「Director Q&A - Yoshinobu Sena (Over the Sky)」の文字起こしです。英語話者の発言は日本語に翻訳(かなり意訳)してあり、瀬名監督の発言は直接文字起こししています。


## [0:00]

Andy Hanley

こんにちは皆さん、アンディ・ハンレーです。ここでは、このインタビューが始まる前に、プログラムについて簡単に述べておきます。
これは「君は彼方」の監督である瀬名快伸さんへのインタビューで、本来「Scotland Loves Anime 2021」で使用するために収録されたものです。
今回のエジンバラにおける(「君は彼方」の)上映では、このインタビューを一部カットして凝縮したものが使われたので、これがインタビューの全貌を知るはじめての機会となっています。
そして、このインタビューは監督や映画に関する魅力的な情報に満ちているので、ぜひご覧になることをおすすめします。
また、あなたがまだ『君は彼方』を(Scotland Loves Animeで)ご覧になっていなければ、他の映画館でも上映されるという朗報があります。
SheffieldにおけるWe Love Anime(11/19-11/21, Sheffield Workstation Cinema)で見ることができます。
さらに、シェフィールドから少し離れたところでは、12月4日と5日に開催される「We Love Anime Festival」で、さまざまな映像が全国の映画館で上映されます。
興味があればそれらも見てみてはどうでしょうか。
この映画がいつどこで上映されるかの詳細を知りたい方は、
この映画祭の上映をすべて主催するwww.lovesanimation.comで確認することができます。
というわけで、もう言うまでもなく、必ずチケットを予約してください。
それでは早速、ジョナサン・クレメンツによる瀬名快伸への魅力的なインタビューをお楽しみください。

## [1:28]

Jonathan

「Scotland Loves Anime」の審査委員長、ジョナサン・クレメンツです。ここでは、時間が限られているので、いきなりインタビューに入ります。
ベスとジョーンズがリエゾン通訳をしてくれますが、おそらく彼女らを切り取って字幕を入れることになるでしょう。ですから、彼らはこの会話を見守るゴースト的な存在だと思ってください。
そして、あなたにとってのGood afternoon、我々にとってのGood morningを申し上げます、瀬名監督。

## [1:50]

Jonathan

瀬名さん、英語で言うと、電車の中に傘を忘れてしまった時には、”the office of lost property”に行きます。それは文字通り我々が「なくしたもの」を取り扱う場所です。
しかし日本語では少し違っていて、forgotten thingsを意味する「忘れ物」と言っていました。
実際われわれは本作の字幕でもそれを残していますが、私はこれが本作であなたが訴えようとしている最も基本的なテーマではないかと感じています。

## [2:18]

瀬名快伸

そうですね、あの、通訳をしていただいた方がこの物語のストーリーの根幹の部分であるということで、おそらく日本語を直訳していただいたんじゃないかなというふうに思っております。

## [2:31]

Jonathan

金魚は非常に忘れっぽいことで知られていますが、それがあなたが菊ちゃんという実際のところ金魚であるキャラクターを作った理由でしょうか?

## [2:39]

実はですね、ジョナサンさんに言われるまで金魚が忘れっぽいということを知らなくてですね。知らなかったんです。
そもそも金魚を使おうというふうに思ったのは、日本のお祭りの文化で、「金魚すくい」っていうものがあるんですね。金魚をrescueする。
で、そのrescue、要はすくい上げる。日本語だと「すくう」っていうのと、"rescue" っていうのが英語だと近しいものがあると思うんですけど。主人公の澪をrescueする存在として、すくい上げる存在として、この物語の中でも、見ていただいてわかると思うんですけども、とにかく、こう「落ちて」いくんですね。ロストする。どんどんどんどん、落ちていく。
記憶も欠落していきますし、肉体的にも落ちていく。
そういうところから、すくい上げる存在。救ってくれる存在として、金魚をキャスティングしました。
なので今、ジョナサンさんがおっしゃるような、「忘れっぽいからですか? 」っていうのは、このインタビューの原稿を見てですね、「あっ、そういう側面があるんだ」というようなかたちで勉強させていただきました。

## [3:53]

Jonathan

それはとても正直な答えですね。ふつう監督は、「はい、それはすべて計画のうちです」と言うものなのでしょうけど。

## [3:59]

瀬名快伸

いや、もうあの本当にインタビューが素晴らしかったので、そのとおり正直に答えようと思いました。

## [4:04]

Jonathan

Bless you!
この作品は、澪の物語である以上に、新の物語だったのではないかと思えます。
彼女ではなく、実際に彼が主人公であるような初期のドラフトは存在したのでしょうか。

## [4:23]

瀬名快伸

えー、ストレートに言うとNoです。
ですが、このインタビューの素材というか文章をいただいたときに、Jonathanさんは、この「君は彼方」を2回は必ず見たな、というふうに思いました。
一度では、このストーリー。要するに、新が実は主人公であったんじゃないかというような状態をですね、気づくことはないからです。このドラマにおいて、ストーリーにおいて、キャラクターが成長するっていうことがひとつのテーマとしても描かれているんですけど、澪以外に新。新以外にも、新の親戚の人、も占い師ですよね、も成長する。たくさんの人が何度かみたときに味が変わるように、というようなイメージで、その、新たな発見があるようにキャラクターアークするキャラクターを忍ばせました。
それは、このあとお話するんですが、「君は彼方」の中に含まれている大きなテーマとするところの一環でもあります。

## [5:44]

Jonathan

さて、ここであなた自身のことを少し取り上げたいのですが、あなたは脚本家、監督、プロデューサー、作詞家、そして声優であり、さらにはスタジオで料理もしていることを知っています。
いろいろなことをしているようですが、どの役割があなたを最も満足させるものですか?

## [6:01]

瀬名快伸

監督です。

## [6:03]

Jonathan

私が理解しているところによると、あなたはずっと映画監督になりたかったが、結局ラジオから始めたということですか?

## [6:09]

瀬名快伸

はい。

## [6:12]

Jonathan

どうしてそうなったんでしょうか。

## [6:13]

瀬名快伸

アニメーションをやりたかったんです。ですが、人脈があるわけでもないですし、お金があるわけでもなかったので、最初に、あの、オーディオドラマ。音声のみでドラマを作ろう、というふうに思いました。そういう面で、ラジオっていうところは非常に素晴らしい媒体であるな、メディアであるな、と思ったので、きっかけはラジオからスタートしました。

## [6:39]

Jonathan

それと、スコットランドの観客は、あなたとアーサー・コナン・ドイルとのつながりをとても知りたがるでしょうね。
なぜなら、あなたは "ヴァンパイア・ホームズ "という作品で有名になったらしいからです。
それは実際どのようなものですか?

## [6:51]

瀬名快伸

もともと会社の中で、アプリケーションのゲームの企画があって、まあ推理モノにしようというふうなアイデアが浮かんだときに、真っ先に浮かんできたのが、金田一少年だったり名探偵コナンというアニメが浮かんできました。まあそれに匹敵するような探偵モノってなにかな、と思ったときにホームズが浮かんできました。それがきっかけです。

## [7:22]

Jonathan

わかりました。
このタイトルはすこし多義的だと思うのですが、これは作品の中でシャーロック・ホームズがバンパイアであるということでしょうか、それとも彼がバンパイアを狩るということなのでしょうか。もしくは、これはスポイラーにあたる部分でしょうか。

## [7:30]

瀬名快伸

アニメの中で最初から言っているので大丈夫だと思いますが、ホームズ自身がヴァンパイアです。

## [7:38]

Jonathan

おお、なるほど。スコットランドの人々が注目するのは間違いないでしょう。

## [7:43]

瀬名快伸

謎を解かない。ホームズなのに。No mystery.

## [7:48]

Jonathan

何かを見抜くのはプレイヤーの役目であり、ホームズはただ見ているだけだということかと思うのですが、これは正しいでしょうか。

## [7:55]

瀬名快伸

それもあるんですが、ホームズ自体がバンパイアなんですが、血を吸わないバンパイアなんですね。血を吸うことをやめて、エネルギーを得られなくなったホームズが、自分のエネルギーを保つためにあまり行動しないっていう。で、ユーザーには見えないところで実は謎を解いているっていう設定なので、謎を解かない、推理をしないという設定になっています。

## [8:25]

Jonathan

なるほど。私も木曜日には似たような気分になりますよ。
ところで、あなたはどのような流れで結局ホームズの声まで演じることになったのでしょうか。

## [8:32]

瀬名快伸

ここでストレートに言うと、まあ、当然低予算の企画なので、自分でできるものは自分で、と。

## [8:42]

Jonathan

「君は彼方」の話に戻ると、この映画ではキャラクターのデバイスの使い方が説得的な要素として登場します。スマートフォンのことを熟知した人間がこの映画に関わっているのは明らかでしょうね(笑)。
キャラクターたちはデバイスによって何かを思い出したり、互いにコミュニケーションをとったり、戯れたりすることができます。ときには、デバイスの使い方のみによってある人物の感情を推し量ることができます。これらは最初から計画されていたのでしょうか?

## [9:09]

瀬名快伸

そうですね、ストーリーを作っていく上では、若者の文化と近しいものがストーリーの中に入るべきだというふうには考えていたので、お話を考えながらそれは盛り込んで行こうというふうには思っていました。

## [9:23]

Jonathan

あなたの今までの仕事は、主にスマートフォンのような小さな画面についてのものでした。
映画のサイズにあわせて映像の扱い方をスケールアップする必要がありますが、それはどのような感じでしたか。

## [9:39]

瀬名快伸

大きく意識したところがあるかというと、実はなくてですね。思いのほうが強いというか、なんとしても映画を作りたいっていう気持ちで一心にやってきたので、今回Jonathanにどういうお気持ちでしたかと聞かれたときに、それも考えられないほど一生懸命走って作ったなというイメージです。

## [10:10]

Jonathan

この映画では、主となるアニメ制作会社がふたつクレジットされています。デジタルネットワークアニメーションとCUCURIです。この2社はどのように作業を分担していたのでしょうか。

## [10:21]

瀬名快伸

まず私が所属しているCUCURIのほうが、プランニングですね。企画とプロデュース側です。で、デジタルネットワークアニメーションのほうが、アニメの根幹の部分ですね、絵を描いたり、っていうふうでした。

## [10:39]

Jonathan

私が間違っていなければ、CUCURIは「VAMPIRE HOLMES」も手掛けていましたか?

## [10:44]

瀬名快伸

はい。

## [10:46]

Jonathan

ありがとうございます。さて、あなたがオーディオドラマの分野で育ったということで、この映画のサウンドトラックには何らかのイースターエッグが隠されているのではないかと慎重に聞いていました。
そこで一点視聴者に向けて指摘したいのですが、教室のシーンで先生が詩について話しているのが聞こえてきます。その中で「春眠暁を覚えず」と言っています。英語話者の視聴者にはあまり意味がないかもしれませんが、中国の視聴者の方もいらっしゃると思いますので言っておくと、これは唐代の詩、孟浩然、失礼、広東アクセントでは「Mèng Hàorán」の詩からの引用です。
※広東アクセントと言っているが普通話っぽい?
全文は短く「春眠不覚曉 處處聞啼鳥 夜來風雨聲 花落知多少」、つまり、「春の眠りの中で、私は夜明けを知らないが、どこでも鳥のさえずりが聞こえる。昨晩は風と雨の音がして、どれだけの花が散ったか誰にもわからない」。
さて、これがアニメの背景的なシーンとして音読されるのには理由があると思いますが、それは何でしょうか?

## [11:53]

瀬名快伸

ここのところをですね、いちばん僕今回長くお話したいなというふうに思っています。まず、この「君は彼方」はアート映画だと思って下さい。みなさんフィルムを見ていただいてわかると思うんですが、派手なCGがあるわけでもありません。ものすごく大きな大作映画の予算がかかっているわけでもありません。じゃあ、そうなったときに、監督としてストーリーテラーとして何を伝えよう、どういうふうに伝えようというふうに思ったときに、アート作品としてこのアニメーションを振ろうと最初に考えました。で、この「春眠暁を覚えず」というワードは、意図的に入れました。入れた理由は、Jonathanが、おそらく僕が確認している限りでは世界初ではないかなと思います。それを確認した、なぜここにこのワードがあるんだろう、おかしいじゃないかと思ったのがJonathanが初めてじゃないかなと思います。
まず、「春眠暁を覚えず」は高校生で習いません。おそらく、中学校で習うと思います。ドラマの中ではこういうふうに喋っているんですね。声優は僕がやってます。

(瀬名が先生の演技をする)
「春眠暁を覚えず。春は心地がよく朝を寝過ごしてしまう。私の勝手な解釈ですが、心地いいからといって、人生の春もまた目覚めるときに寝過ごしてしまうこともある。そこ! いつまで眠っておる! 」

この、いろんな訳の方法があると思うんですが、これは澪のいまの現状を例えた詩をかぶせていきました。
このような違和感が、映画全編にちりばめられているアート作品にしようと思ったんですね。
まず、ファーストシーンで、桜が舞っています。この桜にも意味があります。他にもたとえば電車が出てきたり、自転車が出てきたり、川が出てきたり、いろんなシーンがあります。そして、朝、昼、夕方、夜。これにもすべて意味づけをして、シーンが進行するようにしました。
桜は、日本語の花言葉で「精神の美」「優雅な女性」そういう意味があるんです。もうひとつ、フランスの格言なのかな、これは花言葉なのかな、「私を忘れないで」という意味もあります。それ以外にも、日本では、こういうふうに感じる。死ですよね、儚い感じがする、という意味もあります。
私は、演出するときに、このお話は「生きる」「死ぬ」このふたつを描く必要があると思ったので、この「桜」というモチーフを使うことによって、生と死を描こうというふうに思いました。なので、作品中に、気づかないと思うんですけど、四回桜が出てきます。それが変化することによって、メタファーが変化していき、生と死を力強く描く演出をしました。

桜は、四回登場します。ファーストカットですごくうるさいくらい舞ってます。2つ目。澪と新は、幼いころ石を積んでるんですね。この石を積むという行為も、2回出てきます。このモチーフは、実は2回出てきます。その2回目に出てくるモチーフを照らし合わせると、このモチーフ、つまり石を積んでいるというものが何のメタファーであるかがわかるようになっています。
澪ちゃんはその後に、桜の花びらを一枚取って石を積んでいて崩れなかったのに彼女が花びらを一枚載せただけで石が崩れ去ります。つまり、石が象徴としているメタファーが、精神のうつくしさの欠けている要するに忘れ去られようとしている自分の人生の象徴であるメタファー、死の象徴であるメタファーの桜のたった薄っぺらい花びら一枚で、何かが崩れるっていうことをファーストシーンでは描いてます。

あとふたつですね。なかなかわかりにくいんですけど、澪が、これは先程死の象徴、精神の美しさだったり死の象徴のメタファーとして描いてますというふうに言ったんですが、最後ですね、彼女が美しい精神、高次元な精神を手に入れた、死を乗り越えたという象徴として、ぼくは演出として、彼女に浮力を与えようと思ったんですね。浮力というものは、浮く。つまり彼女はオープニングからずっと落ちていってるんです。それは肉体的にも落ちる。精神的にも、落ちていってます。その彼女において、肉体的にも精神的にも浮力、浮く力、を与えようと思いました。なので最後、彼女の背から、翼、wingが生えるんです。それがよく見ると、桜の花びらです。
その後、何が起きるかというと、現実ではありえないことが起きます。それは、死の象徴である桜の花びら、美しい精神の象徴である花びら、その花びらが、桜の花びらが画面を覆いつくすように下から上に上がってくるんですね。
つまり彼女は、生を得る、浮力を得る。桜、死を乗り越えることによって彼女は浮力を得たというのを表現してます。なのでファーストカットが、彼女が生きる最後のラストシーンのところのところで、本当の生を得た、というところを、このコントラストというか、落ちるというものと浮力、あと桜の花びらを四回かけてメタファーでこのドラマを描ききろうと思いました。

それ以外にも、朝、昼、夕方、晩、これもすべて意味付けをしてあります。このドラマは夢の中からスタートするんですが、その次に朝を迎えます。朝はまあ皆さんの思ってる通り、まあ出発だとか、そういう出会いだとか、そういうモチーフとして朝を描いてます。なので、朝に出発だったりとか、物語の始まりだったりとか、そういうものが描かれています。
昼間は、そういう物語が展開していく、まあ転がっていく、という要素で描いています。
そして夕方になると、彼女の分岐点というか、これからドラマが起きるという予兆として夕方が描かれています。なので、たとえば新と澪がはっきりしない海のシーンも夕方です。そして、澪ちゃんと円佳ちゃんが新くんと一緒に帰って落ち込むところも夕方です。つまりですね、夕方というのは、これからの何かハプニングを予兆させるようなところとして描いています。
そして夜はもうおわかりの通り、ドラマチックな、悲劇的な出来事が起きる。澪ちゃんが交通事故にあったりだとか、殯に襲われてしまったりだとか、ていうふうなかたちになっています。
そして最後はスタートに戻る。朝。というかたちで、物語が時系列。要するに、朝、昼、晩、夕方とかっていう時系列においても、ドラマのシーンが印象的に描かれるように最初から演出をしていきました。

そのほかにもですね、あの、いろんなところでやってます。たとえば大きなところでいうと、この作品は、3Dは使えない、CGは使えないというふうにわかっていたので、どうやって2Dで澪のjourney, 旅立ちを、旅を描こうかと思ったときに、方向によって演出をしようというふうに思いました。澪が、死を予感するようなところは、必ず澪は右から左に向かって進行するようにしました。そして、澪が生、生きるを感じるようなシーン、要するに帰り道ですよね。それは必ず左から右へむかうようにしました。唯一これのルールを破っているのが交通事故に遭うシーンと、そして、澪が最終的に生を得る、シーンではそのルールを破りました。

まあ、その他にもちょっと今日はもう時間がないんですけど、いたるところに違和感というか、を感じるような演出がされています。
最後に、ちょっと長くなるとアレなので、音的な部分。いまはえーと、絵的な部分を言ってたんですけど、音で言うならば、澪がはじめて「よのさかい」を感じるところは、不思議な謎の声がするんですね。その謎の声自体は、実は逆再生で収録しています。「よのさかい」を描こうとしたときに、現実の世界と対になる世界ということで、少しその「反対」というようなイメージが演出のプランでわきました。
なので、まあ謎の声も私がやってるんですが、反対にして収録しています。
あとは、「よのさかい」に行ったときに、環境音ですね。世の中に流れている環境音が実は逆再生で流れています。「よのさかい」にはじめて行ったときの音が、環境音が分かりづらいんですけど逆再生で流れています。
そうすることによって、なんか不思議な違和感というか、を見ている人に得たいなと、得てもらいたいな、というような演出の意図があります。
最後に、これも言われないと気づかないんですが、忘れ物口で澪ちゃんが忘れ物を思い出そうというシーンがあるんですね。これは僕のアイデアというよりも作曲家、音楽プロデューサーの方のお二人のアイデアなんですが、実は夕方の岬のシーンで新くんと澪ちゃんが「はっきりしろよ」みたいなシーンあるじゃないですか、そこがドラマの分岐点になるわけなんですが。そこで流れている音楽がスローモーションになって逆再生で流れているんですよ。
最初に僕は音楽をきかせてもらったときに、不思議なパッドの音がするなと思ったので「これはどういうことですか」と聞いたら、実は音楽が逆再生で流れてます、と。
それで、「思い出せない」ふたりの思い出が思い出せない、というのを瀬名さんの意図を汲み取って入れ込みました、というようなお話をされました。

ちょっと、他にもたくさんあるので、時間がなくなってしまうので、今日はこのくらいで。

## [24:45]

Jonathan

詩についての質問からこのように「Rabbit Hole」に落ちるとは思っていませんでしたが、そうなって本当に良かったです。
アニメのプロモーションの映画祭のためにインタビュー相手に会うことがよくありますが、それは困難なもので、ときどき自分の作品について話してもらおうとすると、質問をしても「ああ、それは見た人が決めることだ」と言われて、かなりイラッとすることがあります。
なので、監督が自分の作品について深く語りたいという熱意をもっているときはうれしいですね。

## [25:19]

Jonathan

まず最初に、我々が行ったインタビューの中で最も長い回答のひとつをしたことについて、おめでとうございます。自分の仕事をこれほどの情熱をもって伝えている人を見るのは素晴らしいことなので、話の途中で止めるつもりはありませんでした。
しかし、いくつか話しておきたいことがあります。そのひとつは、あなたが教室の先生であるとは思っていなかったことです……そのことで完全に不意打ちを受けましたが、あなたは先生であり、奇妙な・気味悪い声も演じていたのですね。
私は、あなたが声優として、映画の中に自分自身が演じるキャラクターを用意するとは思っていましたが、私はあなたが映画館で登場人物が見ている映画の中の役者の一人であると思っていました。
なぜなら、その映画で演技をしている人たちはあまりにも楽しそうにしていたので、誰かが楽しんでやったに違いないと思っているからです。
では、実際にはあなたは映画館のシーンで映画に出演していた役者の一人ではなかったのですね。

## [26:07]

瀬名快伸

No, no... (that was) me.
僕です。

## [26:11]

Jonathan

あれもあなただったのですね。ハハハ……申し分ないです。

## [26:15]

瀬名快伸

(映画のシーンを演じる)
A「アビル、アビル(?)……」
B「アイラッシュ、出てこい! いるのはわかっているんだぞ」
C「俺は絶対あきらめない! 」
D「やばいよアイラッシュ! このままじゃ殺されちゃう」
E「こっちこっち! 外に出られそうですぜ」
B「そこか! お前のようなこそ泥に、ミリーオー(?)は絶対渡さん! 」

## [26:38]

Jonathan

では、実際のところすべてのキャラクターをあなたが演じていたのですか?

## [26:39]

瀬名快伸

一回で撮りました。一発撮り。

## [26:42]

Jonathan

ハハハ……わかりました。
「飛び立つ」というアイデアに関連して、映画の中盤でミオが重力に逆らうような瞬間があり、突然歌い出すのですが、私は映画のスタッフロールを見て、あなたがその曲を自分で書いたことを知りました。
初期の段階では、もしかしたら全体をディズニーの「魔法にかけられて」のようなミュージカルにすかもしれない、というアイデアやコンセプトはあったのでしょうか?

## [27:11]

瀬名快伸

曲はぼく作ってないです。作詞を僕がしてます。
曲は作曲家がいます。で、もともとミュージカルにする予定はありませんでした。なぜここで急に歌わなければいけないのかも、先程のアートフィルムであるということに帰結するかたちになっています。

## [27:33]

Jonathan

さて、それでは残りの時間でできる限りのことを詰め込んでいきたいと思います。
澪は神社に行くことを特に楽しみにしているようで、またあなたが「神社フリーク」とネット上で形容されているの見たことがありますが、これは何を意味するのでしょうか。

## [27:49]

瀬名快伸

澪が神社好きというふうには物語の中で言っていないんですが、僕が神社好きというのは非常に簡単で、ファンタジーを感じられるからです。神社に行くとですね、看板が立っていて、ここにむかし龍が出てきて偉い僧侶が倒したとか封印したとか、日常の世界で街中を歩いていてここにドラゴンがいましたとか、そんなことありえませんよね。
ということはつまり、そういう神社とか不思議なところに行くことによって、ファンタジーのインスピレーションを受けようというようなイメージで、神社だとか他にもそういうスピリチュアル的なことも含めていろんな不思議なところですよね、っていうのはちょっと色々と行くのは趣味ではあります。

## [28:43]

Jonathan

神社と関連して、大神様が正装して登場するのは、特定の神のイメージに基づいているのでしょうか。

## [28:52]

瀬名快伸

これは天照大御神という……

## [28:55]

Jonathan

知ってはいましたが、恥ずかしながらその太陽女神にスポットをあてていませんでした。

## [29:00]

Jonathan

ギーモンには2つの声がありますが、まず第一に、なぜ彼には2つの声があるのか、……ああ、彼女には、あるいは彼らには2つの声があるのかを知りたいです。
しかしさらに、キャスティングにも興味があります。
なぜなら、男のほうの声は何にでも出演している山寺宏一さんで……最もよく知られているのは「カウボーイビバップ」のスパイク・スピーゲルの声でしょうか。
そして女性の声は、ピカチュウの声で有名な大谷育江さんです。
ここでは、「ニンテンドー」をやっているのでしょうか?

## [29:32]

瀬名快伸

まずですね、山寺さんは、もうスーパースターなんですね、ボイスアクターとして、声優さんとしてスーパースターです。
なので、ガイドを誰にしようと思ったときに、まあ山寺さんであるならばなんでもできるだろうというようなかたちで、ジョーカーですよね、トランプで言うところのジョーカーなので、まず彼になんとかできないかというようなかたちで山寺さんにはオファーさせていただきました。
どうしてじゃあ可愛い声を大谷育江さんかっていうと、やはりそのピカチュウのイメージはどうしてもありました。他にもですね、大谷さん、かわいらしいキャラクターをいくつか演じているんので、このギーモンを澪ちゃんが望む可愛らしい声にしようと思ったら、最初に浮かんできたのがほんとうに大谷さんでした。

## [30:25]

Jonathan

スケジュールがタイトで、時間的にあまり余裕がありません。
最後に一つだけ質問させてください。映画の最後に、澪が新に言った言葉を観客に聞かせないという非常に大胆な決断をされましたね。
それは何を言ったかが明らかだと思われるからでしょうか、それとも皆にそれぞれの解釈をしてもらいたいからでしょうか、それとも『ロスト・イン・トランスレーション』のファンだからこそ、同じようなことをされたのでしょうか?

## [30:52]

瀬名快伸

これはお客さんに判断を委ねますというような答えであってます。
実は僕も、最後なんと喋ったのかは知りません。台本上には書かれていないですし、ただ、あのシーンは、収録はしました。
ただ、この世で知っているのは澪と新だけです。
収録する前には、澪役の松本穂香ちゃんに私はこう質問しました。
「ここには台本にセリフは書かれていません。この収録を通して、あなたは新にどういう声をかけたいですか」
というふうに質問したら、穂香さんから私はこう思います、という答えが帰ってきたんですね。
まさに僕が、僕も一応こういうことかなって思ってた気持ちはあるんですけど、それと同じことを澪役の松本穂香さんはおっしゃいました。
なので、きっとこれはドラマを通してたくさんの解釈は生まれると思いますけど、お客さんに委ねようと思って、収録はしたんですが聞いていない状態です。

## [32:08]

Jonathan

オーケー、ファンタスティックな終わり方ですね。
今日はたくさん喋ってくださってありがとうございました、瀬名さん。自分の作品の表面下で起こっていることを、これほどまでに把握する準備ができている人がいるというのは、本当に素晴らしいことです。本当にありがとうございました。

## [32:25]

瀬名快伸

こちらこそとても感謝しています。ジョナサンさんが「春眠暁を覚えず」というのを気づいてくださって、ほんとうに映画の至るところ、ほんと細かいところまでこだわってやってますので、よかったら他にもたくさんいっぱいありますので、ぜひ見ていただければと思います。これどんな意味なんだろう、とか。

## [32:52]

Jonathan

瀬名さん、ありがとうございました。

ください(お金を)