さざんかの咲く頃に 前編

 2024年1月14日に第51回奈良県アンサンブルコンテストに出場したOsk Kvell Uind 金管八重奏について、普通に振り返ります。


きっかけ

 そもそもアンコン出場計画が持ち上がったのはいつ頃なのか。それは2021年の1月、3年も前のことです。もちろん最初に言い始めたのは自分。当時自分は「おとつくらぼ」という演奏会に出演するため、一つ上の先輩4人と同期1人と一緒に金管六重奏に取り組んでいました。高校2年以来、久々にやる金管アンサンブルの楽しさに味を占めた自分は、大学の人と一緒にアンコンに出たいと思うようになった、というわけです。

 しかし、その翌年と翌々年はコロナ禍の影響や大学の部活との兼ね合いでなかなかチャンスに恵まれませんでした。ターニングポイントとなったのは2023年1月。大学の後輩がフレキシブルアンサンブルで奈良県アンサンブルコンテストに出場。見事に金賞を受賞したのです。大学の部活に参加しながらちゃんと結果を残した彼らの姿を見て、自分も来年必ず挑戦しようと決意しました。


チームづくり

 気持ちが固まった自分はすぐに準備をはじめました。まず、アンサンブルコンテストに出場するためには吹奏楽連盟の加盟団体に所属しなければなりません。これについては、後輩たちが大会に出場した際の団体「Osk Kvell Uind」を引き継いで出場することで条件をクリアしました。

 続いてメンバー集め。今回は最初から「Trumpet ×3, Horn, Trombone ×2, Euphonium, Tuba」の金管八重奏でいくと決めていたので、各楽器から決められた数の奏者を集めることが必要でした。が、実は大会の半年以上前からメンバーはすでに自分の頭の中では決まっていました。今まで一緒にアンサンブルをしてきた人、ずっと一緒にアンサンブルをしたいと思っていた人。チームのメンバーとして思い描いた人たちに声をかけていくと、ありがたいことに皆さん快諾。7月までに6人を集めました。

 最後の1人だけは、どうしても他のメンバーの意見を聞いてから決めたかったので、会議を開いて7人で話し合いました。最終的には「この人しかいない」という感じの雰囲気になり、8人目に声をかけて参加してもらいました。

 当たり前ですが、誰一人として数合わせで呼んだ人はいません。自分の中に一人ひとり声をかけた理由はちゃんとあります。それくらい自分にとって素敵なメンバーに集まってもらいました。これだけでも本当に幸せ者です。こうして、自分の大学生活最初で最後のアンコンメンバーが揃いました。もちろん、チームリーダーは言うまでもなく自分です。言い出しっぺなので。

 ちなみに目標は「全国大会出場」。全く手が届かないとは思っていなかったし、何よりもこの8人で少しでも長く一緒にいて、できるだけ多くの本番に乗りたかったというのが正直な気持ちでした。


曲選び

 先述の最終メンバー選びと同時進行で行われた曲選び。今回はコンテストということもあって、今までとは違う"勝つための曲"という視点も混じえながら候補を上げていきました。その一方で、自分の中で最後までこだわったのは、"歌"の視点。これまで自分が取り組んできた金管アンサンブルでは、曲の中の歌心を大事にしてきました。だから、大学での金管アンサンブルの集大成とも言える今回の本番も、自分たちの歌心を発揮できるような曲に取り組みたかったのです。

 話し合いの末、最終的に候補に残ったのは高橋宏樹作曲の「水の惑星への讃歌」と「月の旅人」でした。どちらも歌心を存分に発揮できる作品です。最後の絞り込みは8人で実際に音を出してみてから決めることにしました。

 そして迎えた8月下旬の初合わせの日。8人で2曲をざっと流して演奏してみます。どちらも良い音が鳴っていましたが、多数決の末「水の惑星への讃歌」に決定。実はこの曲、2022年の夏に自分が取り組んだ曲で、今回のメンバーの半分が当時のメンバーでした。過去に演奏したのにもかかわらず多くのメンバーがこの曲に手を挙げたのを見て、最後は迷わずこちらにすることを決めました。


前半戦

 今回アンサンブルコンテストのために集まった8人でしたが、実は本番はそれだけではありません。11月中旬に柏原市民文化会館リビエールホールで行われる「2023 リビエールYYまつり」がチームにとっての初舞台でした。それまでに曲をある程度完成させなければなりません。

 練習が始まると、今回のメンバーの凄さを改めて実感しました。これまでいくつも金管アンサンブルを経験してきた人たちということもあり、練習中も積極的に意見を共有して音楽づくりが進んでいきます。YYまつりまでは少ない練習時間でしたが、前回「水の惑星の讃歌」を演奏した人たちを中心に、曲を急ピッチで組み立てていきます。

 YYまつりで「水の惑星の讃歌」とあわせて演奏したのが「TAKARAJIMA for Brass Octet」。これは、吹奏楽でも有名な「宝島」を原曲(T-SQUARE版)に忠実な形を目指して自分が金管八重奏用にアレンジしたもので、今回のメンバーのうち6人は2023年6月の「阪神国公立大学吹奏楽連盟 合同演奏会」で演奏した作品です。(詳しくは以下の記事をご覧ください。)

 合同演奏会を客席で見たあと密かに"自編自演"を夢見ていた自分にとって、かなり嬉しい演奏の場でした。新たにユーフォニアムのアドリブソロのガイドを書き下ろしたり、トランペットをすべてフリューゲルホルンに変えてみたり、こちらも創意工夫を凝らして音楽をつくっていきました。本当に今考えても素敵な体験ができたと思います。


YYまつり

 迎えたYYまつり当日。充実した練習をしてきたとはいえ、絶対的に練習時間の少ない中で迎える本番にはやはり不安がありました。前日のホールでのリハーサルも5人で臨んだこともあり、本番の演奏がどんなふうになるのか分からない状況。そんな独特の緊張とともに始まった本番でしたが、始まってものの数秒でいつも通りの演奏ができそうなことに気づき安心しました。

 全員の経験値、集中力、スキル、いろんなものの結晶があのステージでは自然に発揮されて、練習時間の少なさを上手くカバーしていたように思います。もちろん演奏に課題はいくつもありましたが、本番2ヶ月前の本番体験としては十分意味のある5分間でした。

 2曲目の「宝島」では雰囲気を変え、これまでの創意工夫を発揮して楽しんで演奏することができました。ユーフォニアムのソロも上手くハマりました。観客の反応が若干薄めに感じましたが、あとから送ってもらった客席からの動画を見たら、ちゃんとこちらの音楽は伝わっていたみたいで一安心。吹奏楽以外のステージもあるイベントだったゆえの問題だったのかもしれません。

 15分間で2曲(+α)を披露したYYまつりのステージは、メンバーに自信とこれからの課題を与えてくれる有意義な本番となりました。ちなみに本番後の打ち上げもちゃんと行きました。


後半戦

 YYまつりが終わると、12月に行われる吹奏楽部の定期演奏会に向けての練習中心にシフトし、金八の合わせ練習はほぼなくなりました。そもそも今回の金八のメンバーは部の重要ポストの人間ばかり。正指揮者、副指揮者、部長、副部長、パートリーダー、ソリストなど、定期演奏会を中心となって動かしていく人ばかりで構成されています。そのため、敢えてこの期間は全く何もしない期間にしようと、チーム立ち上げのときから決めていました。そのため、アンサンブルコンテストのエントリーなどの事務作業を除くと、約1ヶ月もの間チームとしての活動はストップしていました。

 練習が再開されたのは定期演奏会から数日後。もはや自分は完全に吹奏楽部員ではなくなってしまったため、ここからは基本的に大学外の施設での練習に。12月中旬の練習後、「県大会までのTo Doリスト」と称した演奏の課題点を並べたリストをチームで共有しました。そこで挙げられた項目は60個以上。個人的にこれら全てをクリアしてから本番に臨みたい、と思うポイントを列挙したものでした。残り1ヶ月弱で本当に"勝てるチーム"になるため、自分が考えて実践したアイデアです。

 が、年末にかけてもなかなか人数が揃っての練習はできず、あっという間に2024年に。年始も個々人の都合や体調不良などが重なり、本番が近づいてもTo Doリストのチェックボックスは全然埋まりません。さすがにチームリーダーとしての焦りを感じはじめました。「本当にこのままでアンコンに勝てるんだろうか」と不安に思う日々。

 でも、そんな自分を最後まで支えてくれたのは、メンバーの練習の姿勢と成長でした。練習に来たのがどんなに少ない人数でも、その人数でできることを精一杯やろうとする姿勢。自分の納得いく演奏ができるまで諦めない姿勢。そして、実際に会う度に演奏がどんどん上達しているという確かな成長。8人が揃わないことの不安や焦りはきっと全員同じだったと思います。でも、それを払拭しようと各々ができることを一生懸命していました。そんなメンバーの姿を見て、絶対に最後まで諦めたくないと強く思わされました。

 本番の日は刻一刻と近づいてきます。自分は本番前日の練習にすべてを懸けることを決めました。この日にすべてが決まる、そう言い聞かせて、できるだけの準備を進めました。きっと他のメンバーもなんとなくそう感じていたのではないでしょうか。

(後編に続く)


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