自分はなぜ山本太郎を支持するのか。

山本太郎は、つくづく自分に正直な人だと思う。

彼が計算高い人物であれば、今回の都知事選では出馬しなかっただろう。

もともと山本太郎は国政で仕事をしてきたわけで、総理大臣を目指すと公言していたのだから、それがもっとも自然だっただろう。以前から「都知事選出馬も選択肢のひとつ」とは言っていたが、それは周囲の状況が整った状況ならありえる、という条件があったと思う。

今回は、決してそうではなかった。

小池百合子が圧倒的に強いという情勢分析もあったが、最も大きな問題は、すでに宇都宮健児という人が手を挙げていたということだ。

宇都宮氏は、山本太郎自身が「人柄も経歴も立派な方」と尊敬の念を明らかにしているように、弁護士として数多くの弱者救済をしてきた人である。もちろんお互いの交流もあり、昨年の参議院選では、れいわ新選組の候補を応援してもらってもいる。宇都宮氏はこれで三度目の都知事選挑戦であり、年齢的にもこれが最後になるだろう。だから、「今度こそ」という気概は、本人はもとより支持してきた人たちにも強かったはずだ。

また、宇都宮氏の政策は、「財源」という一点を除いて、ほとんど山本太郎の政策と同じである。だから、宇都宮氏が立候補した時点で、山本太郎は自らが出馬するのではなく、宇都宮氏の応援に回れば、感謝されることはあっても、批判されることはなかっただろう。

しかし、山本太郎はそんな自分を許せなかったのだと思う。

山本太郎があえて立候補した経緯は、この出馬記者会見で詳しく語られている。
https://youtu.be/bM9c0ZAqr4A

簡単に言えば、立憲民主党・共産党が主導した「野党統一候補」としての条件を山本太郎が呑まなかったということだが、自分が代表を務めるれいわ新選組の「公認」を外せとか、れいわ新選組が基本的政策としている「消費税減税」を受け入れないとか、とにかくひどい条件である。これだけで「野党共闘」というものが上っ面だけの、実際には立憲民主党執行部が支配する「共闘」でしかないことがわかる。(そうでなければ立憲民主党の議員が離党してまで山本太郎を応援しようとはしないだろう)

ただ、これだけなら、山本太郎は自分が出馬せず、野党共闘に直接関わらなければ、それで済む話でもある。ではなぜ出馬したのか。

ひとつは、街頭演説で何度も繰り返し語っていたように、自分が直接、コロナウイルスで失業したり、廃業したり、住むところさえなくなって露頭に佇んでいたりと、苦境に立たされている人たちと接したことで、「人任せ」にできなくなったことだろう。

もうひとつは財源である。確かに宇都宮氏の政策は質量ともに膨大で、それらすべてが実現できれば理想的な東京が生まれるだろうと思う。しかし、改めて氏の「総合政策集」を見ても、財源をどうするのかが書かれていないのである。
http://utsunomiyakenji.com/wp/wp-content/uploads/2020/07/utsunomiyaKenji_policy2020-7.pdf

「そんなものは当選した後から考えればいい」という意見もあるだろう。しかし、理想だけを掲げて実現への具体的なプロセスを考えないのは非現実的で説得力を欠く。山本太郎は街宣でしばしば宇都宮氏との違いを「財源です」と言っていたが、そんな無責任さも、山本太郎は受け入れ難かったに違いない。

これも街宣で繰り返し語られたことだが、山本太郎の出馬が遅れたのは、まさにこの財源が問題だった。東京都が独自で地方債(都債)を発行できるのか、その額はどのくらいまで可能なのか。それを総務省側と交渉していた。その結果、今後コロナウイルスの第二波、第三波が来ても都の財政が傾かないよう、15兆円を上限としたのだという。対して、現在都が拠出できるコロナ対策費は、小池百合子が1兆円ほどの財政調整費を使い果たしたためほとんど残っていないと言われる。それでは、宇都宮氏の掲げる膨大な政策のごく一部しか実現できないことになる。

話は少し脱線するが、今回の都知事選挙は去年の参議院選挙同様、「財政反緊縮派VS財政緊縮派」の戦いでもあった。党で言えば共産党と国民民主党、れいわ新選組は反緊縮、立憲民主党は緊縮派で、これは「消費税ゼロを認めるか認めないか」ということでもある。山本太郎およびれいわ新選組の立ち位置は当初からずっと「消費税ゼロ」(妥協して5%)であり、消費税減税に代わる財源として国債の追加発行と法人税の累進化(大企業への増税)を掲げている。

今回は消費税に直接関係のない都政だが構図は同じ。主要候補では山本太郎、立花孝志氏は地方債の発行で、宇都宮氏と小野泰輔氏は行革による財源の確保を主張している。今回の野党共闘は立憲民主党が主導しているから、宇都宮氏は「反緊縮」の立場は取れないわけだ。(共産党は反緊縮のはずだが立憲民主党に遠慮したのだろう)

ただ、宇都宮氏が山本太郎の地方債やコロナの災害基本法適用案を執拗に批判していたのとは対照的に、山本太郎は街宣では「財源が違います」とだけ述べ、この宇都宮氏の政策の盲点を突かなかった。これはなかなかできることではない。

この選挙期間中も、選挙後も、「野党共闘を壊した山本太郎」を口汚く批判する評論家たちがいる。もちろん山本太郎を支持していた政治家や一般の人たちの中にもいるだろう。だが、選挙結果を見てもわかるとおり、山本太郎への票と宇都宮氏への票を足しても小池百合子への票には遠く及ばない。それだけではなく、出口調査でも立憲民主党や共産党の支持者で宇都宮氏ではなく小池百合子に投票した人たちも少なからずいる。財源について具体的な道筋すら示せない、上っ面だけの「野党共闘」など、有権者に見透かされていたのだ。

昨夜、選挙結果を受けての記者会見で、山本太郎はマスコミに対応した後、取材陣をシャットアウトし、カメラに向かって一人で延々と語りかけた。困っている人たちを救えずに本当に悔しかったこと、ボランティアなど助けてくれた人たちに申し訳なかったこと。その言葉に嘘がないことは、表情を見ていればわかる。Twitterでは、今回の街宣で、それまで選挙に行ったこともなく、関心もなかった人たちが熱心に山本太郎への支持を広げていたが、彼らも山本太郎の表情や、全身で語りかけるその熱情に心を動かされたのだと思う。

山本太郎は、つい10年ほど前までは現役バリバリの俳優だった。東日本大震災と原発事故で「目覚める」までは、順風満帆な生活だったはずだ。そのまま芸能界にいれば、今頃は中堅どころの俳優として重用されていただろうし、収入にも事欠かなかっただろう。そもそもが政治家になりたかったわけではないので、私利私欲では動かない。それが彼の強みだ。

彼をよく「タレント議員」扱いするメディアがあるが、タレント議員というのは多くが、過去の名声を利用して政治家になろうとする人たちなので、そこが決定的に違う。天皇(現上皇)への手紙や喪服での国会登壇など、派手なパフォーマンスしかしなかったように思われているが、参議院議員時代の6年間で、山本太郎は通算123本もの質問主意書を出している。テーマも原発、貧困、外交、治安など多岐にわたっている。ちなみに同じ参議院議員の丸川珠代は13年間で7本、三原じゅん子は10年間で4本、衆議院議員の小泉進次郎は11年間で3本である。

以上、長々と、なぜ自分が山本太郎を支持し続けるのかを書いてみた。

もし、この国を変える総理大臣が出てくるとすれば、おそらくそれは「自分にも他人にも嘘をつかない」人間だろう。たとえば、ニュージーランドの女性首相、ジャシンダ・アーダーンのような。

この日本では、山本太郎が最も近い場所にいると思う。

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