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アトノマツリ


??) ねぇ、なんでわかってくれないの?

渋谷のホームに鳴り響く声
僕が慌てて振り返ると
今にも泣き出しそうな顔で
俯いてベンチに座る遥香がそこに

◯◯) ・・・ごめん

遥香) ごめんじゃなくて

◯◯) ・・・でも、ごめん

遥香) いつもそう・・・もう4年だよ?


そう、僕たちは知り合って4年経つ。
4年前の大学受験前
2018年11月29日だった。


◯友) ◯◯、今度乃木坂大学の学園祭いかね?

〇〇) あーいいね、いつだっけ?28日?

◯友) いや、29日だったような

〇〇) おっけー、乃木大に入れる気しねーけど

◯友) 諦めたらそこで・・・

◯◯) 試合終了ですよ、ってか笑

◯友) まぁ、学園祭だけなら誰でも行けるしな!

◯◯) だな、予定あけとくわ


僕の学力では乃木坂大学は
雲の上の存在だったが
友達に誘われたし、興味はあったので
学園祭ぐらいは見ておこう
ぐらいの気持ちだった


◯友) すげーな、やっぱり!

◯◯) だなー、、みんな頭良さそうだし

◯友) そして何より、女子が可愛い!!!


そう、乃木坂大学は女子人気が高く
しかも可愛い子が
とにかく集まる大学として有名で
その結果、男子の敷居が高くなり
必要な偏差値も相当なものになっていた。


◯友) あ、??じゃん!

??) ん?あ、◯友くん??

◯友) そう!遠藤もきてたんだ???

遠藤) そう、学校の友達とね!

??) はじめまして

〇〇) あ、はじめまして


これが、賀喜との最初の出会いだった。
◯友と遠藤さんは塾が同じ
遠藤と賀喜は高校が同じ。


◯友) もし良かったら一緒に今日回らない?

遠藤) ん、私はいいけど・・・かっきーは?

賀喜) べ、別にいいよ??

〇〇) 俺も別に問題ないけど

賀喜) あ、わたし賀喜遥香って言います

〇〇) 〇〇です、よろしくお願いします


はっきり言って、遠藤さんも賀喜も
めちゃくちゃ可愛くて
この二人が乃木坂大学に行くなら
もっと勉強を頑張ろうと思った11月。
そこから猛勉強したのは言うまでもない


遥香) 4年も経って、まだこのままぐるぐる同じこと繰り返すの?


遥香と知り合ったきっかけで
乃木坂大学に入れて
同じゼミにも入って仲良くなったし
もしかしたら好き同士なのかも・・・
って思える出来事が
4年間でたくさんあったけど
僕は恋愛経験も全くなかったし
そもそも、あの可愛い女子が揃う
乃木坂大学の第28回ミスコンで
1位のセンターを取ってしまう子と
自分が釣り合うわけも付き合えるわけも
ないと思っていたので
4年間ずっと好きだったけど
一度も好きなんて、言えたことがなかった。

今日も渋谷に二人で映画を見に来て
ご飯を食べて、就活の報告をして
来週には僕が東京から離れるかもしれない
という話になり、もし離れたらどうするの?
と、もはや確信に近いことを問われて
結局、僕は今日も何も言えず
駅のホームでこうなってるというわけ・・・


◯◯) いや、同じこと繰り返すっていうか

遥香) 違うの?

〇〇) 違くないけど・・・

遥香) じゃあ、そうじゃん。いつもこうだよ?

〇〇) ・・・

遥香) 困ったらすぐ黙る。4年間ずっとそう

〇〇) ごめん

遥香) 謝ってばっかりじゃ先に進めない

〇〇) とりあえず・・・また明日ね!


どうしていいか分からず電車に僕は飛び乗る
好きだって、離れたくないって言えないから。
遥香が今回もいつもみたいに諦めて
引き留めてくれると信じて


遥香) もう知らない・・・

〇〇) えっ・・・


いつもなら待ってよって
手を引いてくれる遥香が
悲しい目をしてこっちを見たまま
ベンチに座って動かない。
電車のドアは閉まり進み始める。
僕はもうきっと二度と会えないかもと思い
遥香に手を振りながら
その姿を最後まで見届けた。




私が〇〇くんを好きになったのは
大学に入学して、再開して1年後の
2020年2月16日のことだった。
なんでこんな明白に覚えてるかって言うと
私達が大学生になって最初のバレンタインで
〇〇くんが同じゼミの北川悠理ちゃんから
チョコをもらってるのを見たから。

それはもちろん2月14日で
でもその時は
へぇ〇〇くんもモテるんだ・・・
ぐらいにしか思っていなかったのに
1年間一緒にいた〇〇くんが取られる気がして
16日にたまたま〇〇くんと
映画に行く予定だったから
渋谷のホームでチョコを渡して
告白しようかと思っていた。


賀喜) 映画、面白かったねー。

〇〇) 賀喜、ほんとアニメ映画好きよな

賀喜) えー?〇〇くんは面白くなかった?

〇〇) いや、面白かったけどさ!

賀喜) それなら良かった!あ、そうだ

〇〇) ん?

賀喜) 〇〇くん、チョコ好き?

〇〇) んー、まあ普通かな?

賀喜) どうせ今年のバレンタイン0でしょ?笑

〇〇) ひでーな!!!俺だってもらってるわ!

賀喜) ふーん、誰から?

〇〇) お、お母さんとか妹とか・・・

賀喜) それ、数に入れていいやつ?笑

〇〇) も、もらったうちには入るだろ!!

賀喜) じゃああげるよ、2日遅れちゃったけど

〇〇) え?賀喜みたいな人気者からもらえるの?

賀喜) なによそれ

〇〇) ありがたき幸せ!!!

賀喜) やめてよ、ちょっと!

〇〇) こんなんナンボあってもいいですからね笑

賀喜) ふざけるならあげないよ?

〇〇) う、嘘です!!すみませんください!


告白しようと思っていたのに
〇〇くんは北川悠理ちゃんからもらったことを
何故か私に言ってくれなかった。
それが何故か心にひっかかってしまって
私の告白は未遂に終わった。


えびすー次は恵比寿


山手線は走り続ける。
僕は恵比寿で乗り換え予定だったけど
座ったまま立ち上がることが出来なかった。
もう就職先もお互い決まっていて
僕は関西支部に行くかどうかが
明日の内示で決まる。
もし決定したら1週間後には研修が始まるので
今日もしかしたら遊びに行けるのは最後かも
という予定だった。なのに・・・

結局今日も好きと言えないまま
悲しい顔をした遥香を
渋谷のベンチに残したまま
僕は山手線から降りれずにいた。

LINEで謝って、ちゃんと話をしようって
伝えよう・・・と思ってスマホを取り出すと
まさかの・・・充電切れだった。


私は渋谷のホームから動けずにいた。
彼が私のことを好きなことはわかっていた。
なぜなら、北川悠理ちゃんが去年
告白して振られたって話を聞いたとき


北川) ねぇ、かっきー?

賀喜) あ、悠理ちゃんどうしたの?

北川) 私ね、実は告白したんだ

賀喜) えっ??〇〇くんに?

北川) あ、やっぱり気づいてたんだねかっきー

賀喜) う、うん・・・なんとなく・・・

北川) でね、理由を聞いたの

賀喜) う、うん・・・

北川) そしたらね、好きな人がいるんだって〇〇くん

賀喜) へ、へぇ・・・

北川) それって誰なの?って聞いたの

賀喜) う、うん・・・

北川) わかってるよね??

賀喜) ん?いやぁ・・・

北川) もう知り合って3年でしょ?

賀喜) 私と〇〇くんのこと?

北川) そう、どうして前に進まないの?

賀喜) いやぁ・・・なんか機会を失って・・

北川) ミスコン優勝者が何言ってるの・・?

賀喜) そうだけど、〇〇くん何も言ってくれないし

北川) というわけで、伝えたからね

賀喜) そう言われても・・・

北川) 私の分も幸せになってくれないと困る!

賀喜) 悠理ちゃん留学するんだっけ??

北川) そう、だからその前に勇気を出したの

賀喜) すごいなぁ・・・

北川) だから!!ミスコン優勝者が何言ってるの?

賀喜) それとこれとは別というか・・・

北川) 〇〇くんのことよろしくね!!!!


という強引な念押しを
悠理ちゃんから受けていたので。
でも実際は直接聞きたかった。
4年間も一緒にいて
一度も好きだって言われたことないし
〇〇くんからもし遠距離になっても
大丈夫だって安心させて欲しかったから。

何かしらの言葉が欲しかったのに
結局今日も〇〇くんは
何も言ってくれなかった。

でももう限界だった。
これ以上我慢してもきっと〇〇くんは
この先も何も言ってくれない。
だから、私から言うか諦めるか
それしか選択肢はなかった。

だから、私は賭けに出ることにした。
〇〇くんとはよく映画の帰りの
感想を言いたい熱が収まらないときに
山手線に乗って隣に座り
とにかく1周して映画の感想を言い合ってから
お互いの駅で降りる、という習慣があったので
もし、〇〇くんがこのまま1周乗ってきて
渋谷駅のホームで逢えたら
諦めて私から告白しようと


あきはばらー次は秋葉原


僕が遥香に告白する最大のチャンスは
この秋葉原駅にあるAKB48カフェに
二人で一緒に行ったときだった。


賀喜) ねぇ、〇〇くん明日暇?

〇〇) 明日はバイトないし暇だけど、映画?

賀喜) いや違うの、秋葉原行かない?

〇〇) 出た!アニメイトだな?

賀喜) 人のことヲタク代表みたく言わないでよ

〇〇) え?違うのか?

賀喜) まぁ、否定はできないけど

〇〇) で、どこに行きたいんよ?

賀喜) 言いにくくなったなぁ・・・

〇〇) ほら、オタ活なんじゃん笑

賀喜) もう・・・そうなんだけどさ

〇〇) お付き合いしますよ、賀喜様のためなら!

賀喜) 私がオタクなの知ってるの〇〇くんだけだからさ

〇〇) おーそれは嬉しい!特別感!笑

賀喜) なので・・・お願いします!

〇〇) ふむ、それでどちらへ?

賀喜) AKB48カフェが現在特別開催中でして

〇〇) アニメを飛び越えて、アイドルまで!!!

賀喜) 女子1人はさすがに恥ずかしいので何卒っ!

〇〇) 仕方あるまい・・・


と、約束をした後日2人でAKB48カフェへ


賀喜) あー緊張する・・・

〇〇) いやいや、なにに?

賀喜) あっちゃんとかいたらどうするの??

〇〇) 卒業してるし絶対いないだろ・・・

賀喜) 美音ちゃんがいたらどうしよう!!!

〇〇) そもそも賀喜、美月派じゃなかった?

賀喜) それグループ違うし

〇〇) AKBも好きなのは初耳なんだが

賀喜) 可愛い女の子はみんな好きなの!

〇〇) ふーん・・・あ、着いたここか

賀喜) 予約名、〇〇くんだから先入って!

〇〇) なんでそうなる笑

賀喜) 女子が予約して男子連れてくるなんて恥ずかしいから!

〇〇) おまえな・・・オムライス奢りな

賀喜) 美味しくなーれ込みで奢ってしんぜよう

〇〇) それ、誰得なんだ?笑

賀喜) あーあの子可愛い、あの子も可愛い

〇〇) 話聞いてないな、これは・・・

賀喜) やばい、あの店員さんも可愛い・・・

〇〇) おまえのほうが可愛いだろ圧倒的に

賀喜) お、オムライスください!萌えセリフつきで!

〇〇) あっぶね、聞こえてなかったか・・・

賀喜) えっ??〇〇くん、なんて??

〇〇) いえ、大丈夫です・・・

賀喜) あーオムライスきちゃーーー!!!!

〇〇) 俺は賀喜が作ったの食べてみたいけど

賀喜) 萌えセリフお願いしまっす!!!!

??) いくよー?もえもえきゅんきゅん美味しくなーれ!

賀喜) あーかわいい!!!!!

??) 今日は特別にもうひとつ願い事できるよ?

賀喜) えっ!!!いいんですか?なんでも?

??) なーんでもいいんだよ?

〇〇) 賀喜と付き合えますように・・・

賀喜) 〇〇くんっ!!!!

〇〇) な、なんだよ??(さすがに聞こえちゃったか?)

賀喜) 願い事、どうするっ??おまじないしてもらう??

〇〇) ど、どんなおまじないだよ?(ぎりバレてないか?)

賀喜) ど、どんなおまじないがありますか?

??) なーんでもしてあげるよ?

賀喜) えっ・・・例えば、つーんつんっとか??

??) いくよー? つーん・・・つんっ!!

賀喜) うぎゃああああああああああああああ

〇〇) なんだこの世界は・・・


僕は興奮する遥香が
聞こえるか聞こえないかレベルの声で
こっそり告白するチャンスを伺ったけど
残念ながら遥香は興奮したままだったから
何も聞こえてなかったようで
このチャンスも結果には結びつかずだった


たかだのばばー、次は高田馬場


僕らの通う乃木坂大学のある最寄り駅まで
あっという間に来てしまった・・・
この4年間の遥香との想い出を思い出してたら
電車の中だっていうのに
涙が溢れてきてしまった。
なんで僕はただ一言
好きだって言えないんだろう?

彼女が高嶺の花だから?
失敗して友達ですらなくなるのが嫌だから?
ただ単に勇気が出ないから?

僕は最後の決心をする。
渋谷まで行ったら乗り換えて
彼女が住む駅まで電車でいこう。
そして、好きだって伝えよう。

電車はあっという間に渋谷駅に滑り込む。
人生最大の決心をした僕は
電車を降りてホームを歩こうとした瞬間
最大の決心が吹っ飛び頭が真っ白になる。
なんと、まだベンチには遥香がいる・・・


〇〇くんが乗ってから1時間ちょっと。
多分、そろそろ次の電車ぐらい。
もしあと3本待って降りてこなかったら
もうこの恋は諦めよう・・・
と思った1本目の電車のドアが開くと
颯爽と何か意を決したような顔で
〇〇くんが降りてきた。
そんな凛々しい顔を見たことがなかったから
もしもう一度逢えたら
告白しようと思ったのに
ドキドキして言葉が出なくなってしまう


〇〇) え・・・はる・・・か?

遥香) ・・・

〇〇) 帰ってなかったんだ・・・?

遥香) ・・・

〇〇) ねぇ・・・どうする?

遥香) ・・・


僕は何も言わない遥香を前にして
決意を固めたはずなのに
また何も言えなくなってしまった。
照れ笑いしながら出た言葉は
ねぇどうする?・・・情けない。

そして山手線は人を吐き出しては吸って
次々と渋谷駅を通り過ぎていく。

ベンチに座ったまま俯く遥香。
何も言い出せず立ち尽くす僕。


〇〇) ・・・遥香?

遥香) ん?

〇〇) 好きだったよ

遥香) ・・・うん?

〇〇) 今さらだけど好きだったよ

遥香) 過去形

〇〇) えっ?

遥香) 私は大好きだよ

〇〇) 遥香・・・?

遥香) 後出しじゃんけんみたいだけど

〇〇) 嘘でしょ・・・?

遥香) 〇〇は過去形なの?

〇〇) そりゃ今も変わらないさ

遥香) じゃあちゃんと言って?

〇〇) ごめん、電車の中でずっとずーっと好きだったよって思ってたからつい・・・

遥香) じゃあもう1周してくる?

〇〇) もうそれじゃあアトノマツリになりそうだから・・・ちゃんと言うね


僕は息を大きく吸い込む
今なら言える、ようやく言える。
愛の正解はそのうちわかる。



〇〇) 遥香、ずっとずっと大好きだよ




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