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列強兵学者の日露戦に基づく戦術上の教訓ドイツ砲兵大尉 エーベルハルト

露国野戦砲兵は重鈍なる編成を有す則ち砲兵中隊は砲車8門及び弾薬車12両よりなる戦争の発起に際し兵器の改正を行いたる為戦地に派遣せられたる全砲兵中隊の約半分は動員の際若しくは動員前に至り始めて新材料を受領しその後4乃至5か月を経て始めて新射撃教範及び新操典を受領したるに過ぎず砲兵の為招集せられたる予備兵は半ば歩兵及び騎兵なりしを以ってもちろんこれらの兵卒には一も砲兵科の予備教育を施されあらざりき新露国火砲は砲身後坐式なりと雖も毎発後照準を要するを以って現今の意義における速射砲にあらざるなりその他日露両軍の火砲は共に防楯を有せずただ僅かにこれを装備を試みたるのみなることは最も注意すべき価値ありとす。

露軍の弾薬は不完全なるものの如し数多の腔発、不発弾及び破裂点の甚大なる散布はこれを証するに足るべし露軍野砲兵は一般に榴弾を有せず(一部携行せし77年式火砲に用うる黒色火薬の榴弾を除く)これ遠距離射撃及び村落若しくは数多くの野戦築城に対する射撃において至大なる不利を生じたる所以ってなりこの不利は露軍が適良なる野戦曲射砲を有せざりしため益々その度を増加せり露軍の射撃指揮は大隊の建制をもって行うに過ぎず露軍砲兵中隊は戦役の初めに置いて暴露陣地を採り且つしばしば歩兵線中に位置せしも不利なる経験を得たる後高地後即ちしばしばその後方数百メートルに停止し多くの場合に於いて過大の距離より軽率なる試射を行い600mの地域内に榴散弾を散布するを以って満足せり。

 全体の効果を決すべき砲兵と他兵との共同動作は欠乏せり故に堪能なる1,2将校の献身的動作をもってするも露軍砲兵は大なる成果を期する能わざりき露軍砲兵の為生じたる日本軍の損害はその全損害の7乃至8%にして最多の場合に於いてすら15%に過ぎざりしという。

日本砲兵は吾人と同じく6門編成の中隊を有すその火砲は軽量なり然れども駕馬(がば)は不良なるを以ってその運動性は小なり一般に唯常歩を以って行進す火砲は砲身後坐式にあらずし弾道上の性能は露軍火砲に劣れり日本軍の弾薬は露軍よりも良好なり日本軍は榴弾を有す然れども榴散弾は我に比し著しく使用を制限せらる即ち三千メートル以上にありては甚だ僅少なる効力を有するのみ。

日本軍野戦曲射砲の効力は甚だ良好なり

射撃法は我に類似し而して試験により確認せるものなりという

 日本軍の砲兵火に基因する露軍の損害は前述の数量よりも遥かに大なり

榴弾射撃は精密なる試射を要するも榴散弾射撃は百メートルの夾叉を得れば足れり故に隠蔽陣地より精密なる試射をなすに方り大部隊において主として射弾を離隔せんとするより生ずる困難は露軍の未だ経験せざるところなり。

露人は極端より極端に走れり即ち最初は全く暴露し次に高地後方百メートルに位置せり而して正常なる処置のその中間にあるや否やは嘗て(ためして)実験したることなし

 弾薬の問題に関しては先ず吾人の携行弾数の十分なるや否やを決定せざるべからず露軍の消費せる弾薬量は総ての予想を超越せり沙河の会戦に於いて1日1門の最大消費弾薬は361発、大石橋にありては522発を算せり日本軍の弾薬消費に関しては尚精密なる記事を欠くといえども露軍に比し節約せられたるか如し奉天会戦において日本砲兵は一門に付き平均220発を発射せり

 露軍の弾薬消費量は直ちに吾人の為弾薬装備の基準を與るものにあらず何となれば露軍の弾薬消費の原因は半ば最初における不良なる教育、不完全なる弾薬及び目標の存在せざる他界に対する散布射撃等に因ればなり

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