【論文要約】各国がラベンダー産業に用いている品種とその精油成分特性について。
本記事では、ルーマニアにあるクルージュ・ナポカ農科獣医科大学の研究チームがまとめた2020年時点の各国ラベンダー産業の状況をまとめた論文と自説の2つをもとに展開していきます。
1.日本
香料会社主導で1937年にラベンダー種子が輸入され、北海道各地にラベンダー栽培地域が誕生した1950年代初頭が日本にとってラベンダー産業のはじまりでしょう。
しかし合成香料の発達、オイルショック、香水産業の変遷などの要因で産業が成り立たなくなり、1970年代に精油産業は一幕を下ろしました。
精油生産業こそ潰えてしまっていますが、21世紀に入ってからは観光産業の中でか細くラベンダー産業が生き長らえています。
園芸業界では取り扱うラベンダー品種の数が多い(特に英国品種)ことも特徴的です。
北海道を代表する4品種の成分構成については、中富良野町のラベンダー栽培事業体であるファーム富田が主な成分%を公開しています。
それら1960年代に作出された4品種は南仏より持ち込まれたフランスDNAをもつ品種であり、現在広く市場浸透している英国品種とはDNAが大きく異なるため貴重な品種となっています。
2号花藻岩は4品種中Terpinene4-ol(抗菌性が高い芳香分子)が最も高い品種であり、薄色花品種です。
2.フランス
フランスにてStolburファイトプラズマ罹患による枯れ病への高い耐性を持っているとされるMailletteは世界各国でも輸出栽培され、イギリスやアメリカ、オーストラリアでも栽培が見られる品種です。
またゲノム解析のためのL.angustifolia栽培種の標準品種として採用されています。
2000年代以降よりDiva, 77-13, C15-50などの次世代の耐病性L.angustifolia品種が採用されました。(論文p.34より引用)
3.ブルガリア
2000年代に恐らくは国策として一挙に精油産業を勃興し、2010年代にはラベンダー産業伝統国フランスのラベンダー精油生産量を追い抜く形で急成長を遂げたのがブルガリアの特徴です。
ルーマニア、ハンガリー、ウクライナ、ポーランド、セルビアなど近年東欧諸国でラベンダー栽培が活性化していますが、中でも特に高い生産量を誇っているのがブルガリア。
品種導入の歴史などをみると、フランス・イギリス両国からの種子輸入によってラベンダー栽培産業が興っていることがわかり、両国のDNAを持つラベンダー品種により精油とその香りが構成されていることが示唆されます。
4.中国
昨今の経済成長による豊富な研究資金力と政府一貫の経済指導力あってか、国際的にみても遺伝子・ゲノム解析分野での研究成果が著しいのが中国の特徴です。
広大な国土ではありますが、ラベンダー栽培の適地となっているのは中国奥地のカザフスタンと国境を接するイリ地方のイリ渓谷地域のみのようです。
天山山脈ではやや古い年代よりラバンジンの栽培が盛んに行われていたようです。
5.ギリシャ
フランスやイタリアとは地域が離れますが同じ地中海に面した国であり、矮小ながらもラベンダーの栽培と研究が行われている国でもあります。
ギリシャのラベンダー精油研究に用いられている品種はエテリオ社が作出したEtherioという品種が研究論文の材料としてよく登場しており、この品種来歴はギリシャ国内のアトス半島の標高330~710m範囲のLavandula angustifolia野生個体群からの選抜品種なんだそう。
すなわち、スペイン、フランス、イタリア地域に次ぐ第4のL.angustifolia野生個体群より作出された地域特有の品種であり、L.angustifolia subsp.となる可能性をもった品種です。
5.イギリス
農業産業色の強いフランスとは異なり、英国王室とともに豊かな園芸鑑賞文化が興ったからこそ数え切れないほどのラベンダー栽培品種を作出した特徴があります。ラベンダー栽培の歴史自体もフランスの産業化以前から行われてきました。
20世紀まではガーデンプランツとしてラベンダーが栽培されてきましたが、近年の観光需要に応えるためか、ラベンダー精油の蒸留を行う大規模なラベンダー農園が多数成立しています。
May fieldラベンダー園やCastle farm KentやNorfolk Gardenが有名です。
6.アメリカ
ラベンダーの栽培に適した広大な国土と独自にラベンダー協会を持ち、個人ラベンダー農家としての生活も可能なラベンダー産業形態であるのがアメリカの特徴です。
7.カナダ
アメリカと並び広大な国土と高品質なラベンダー精油生産を可能とする適度に冷涼な環境を持ち、フランスの文化色が色濃いカナダ・ケベック州にフランスと同様精油生産を生業とするラベンダー農場が多く存在するのがカナダの特徴です。
日本にも販売拠点を置くBleu Lavandeが有名なラベンダー事業体でしょう。
ラベンダー農産業の技術指導と向上を目的とした研究機関も存在します。
8.ニュージーランド
大英帝国の時代から同国による国の発展を遂げたため、イギリスと同様に園芸文化も高度に発達しているのがニュージーランドの特徴です。
コモンラベンダーとは別種ラベンダー 属植物ですがストエカスラベンダー(L.stoechas)の園芸品種の作出数の多さは特徴的です。
またクライストチャーチ植物園所属のヴァージニア・マクノートン氏は2000年代にラベンダー属植物の再分類を行なったことも有名です。
9.オーストラリア・タスマニア
オーストラリアは大英帝国の時代にイギリスの新領土開拓とともに園芸文化も持ち込まれました。
10.ロシア
ロシアのラベンダー産業について、ソ連時代には各国としのぎを削るラベンダー精油輸出大国であったことが1964年の北大農学部の論文から知ることができます。
広大な国土と冷涼な気候風土に加え、共産主義のモノカルチャー経済によってラベンダー栽培での高い生産量を上げられたためであると考えられます。またソ連の農業アカデミー内でラベンダー産業のために数多くの研究が行われ、当時として研究水準が高かったのも事実です。
ソ連崩壊や経済対立などによってあまり国内のラベンダー産業情報が出回ってませんが、ウクライナとの領土係争地であるクリミア半島バフチサライにて大規模なラベンダー栽培地があることは有名です。
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