保護室

初めて医療保護入院になったのは、高校三年生の頃だった。自傷と破壊と自殺未遂を繰り返してやっと母の目の前で二階の窓からベランダから飛び降りようとしていた際に、母が精神科に電話をして、そのまま車で病院まで連れていかれ、知らない先生の前で俯き続け、気づくと入院になっていたのだった。あの日の季節はなんだっただろう。思い出せないけれど心がすごく冷たくて寒かった。時期的に外はそんなにさむくなかっただろう。けどぼくは冬用の水色のコートを羽織って、羽織っていてもすごくすごく寒くて、寒くて仕方がなかった。1-A病棟。ぼくが二度入院することになった、病棟。

人など誰一人信じられなかった。それは今も同じだけれど、当時のそれは当時のそれとして存在していた。一人になりたかったのにひとりになりたかったのに一人はつらくてさみしくてくるしくて仕方がなかった。どうすればいいのかわからなかった。ひとりぽつんとご飯を食べていた。気づけば同世代の子に話しかけられ、その輪の中にいる自分がいた。あたたかい、と思った。でも時間が経って気がつくとまたトラブルの渦中にいた。人と関わると碌なことがない。誰にも信じてもらえない気がした。誰のことも信じられない、気がした。ぼくはぼくでいたかった。だけどぼくがぼくでいるとみんなが苦しむ。それならぼくはどうすれば、どうすれば、どうすれば。悩み続けて、それでもぼくはぼくとして息をしていたくて、いきを、していたくて、いたくて、いた、くて。だけどもう、それも終わりだ。

同性と関わることも異性と関わることもどちらも苦手だった。人は等しくこわいから。ぼくはいつも間違ってしまうから。他人のことが信じられない以上に自分のことが第一に信じられない。そんな自らのことを愛せるはずもない。ぼくはただぼくとして在りたいだけだった。けど。もう。そんなの。

破壊破壊破壊破壊。破壊して。墓石の向こうで。海が、凪いでいる。君のことを見ている。鯨の骨を探すように水の中を歩いた。水面に映る透明な硝子玉にぼくの瞳を捜した。見当たらない明日にサイレントを施してまた宙へと翻っていく。まぼろしの事柄にめをつむる。とじる。閉じて。本を。めくりたくないよ。もう、ページ。まっしろまっしろまっしろ真っ白だから。真っ黒真っ黒真っ黒にしてしまいたくなる。僕は。

横になると白い椅子が見える。
白いギターが見える。
黒いギターがその先に。

私はもう。

どこにもいないきみの遠泳をみつめていた。

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