がじゅまると金の生る木

ブラウンハンドである。
こんがりと日に焼けたお肌の話をしているのではないのです。

植物を枯らさずにすくすこと育てることのできる人のことを
「グリーンハンド」と呼ぶことがあるそうなのだけれど
それを考えると私ってブラウンハンドだなぁという話である。

うん、つまり植物を枯らしてしまうの。

田舎出身だし、家には庭もあった。
庭には植物があったし、夏休みには水やりのお手伝いもした。
加えて言うなら祖母は華道の先生だったりなんかしてたから
植物にはそれなりに触れてきた方なのではないかと思っていた。

だけどお迎えする植物たちは育たないまま枯れる。

実家を離れて最初に部屋にやって来たのは友達にもらったサボテンだった。
「サボテンはあんまり水をあげるのは良くないらしい」
とは知っていたけれど
「あんまり水をあげない」の「あんまり」ってどれくらいなの？！
と思いつつ週1回くらい少量の水を与えていた。

春にもらったサボテンさんは冬を越すことができなかった。

その後も大好きだったポインセチア、インテリアショップで惹かれたサボテン、
丈夫だって聞くし、お料理にも使えるし！といそいそ買ったローズマリー・・・
枯らしたり根腐れさせたりしてあの世に送ってしまった。

ぼんやりと枯れていくのを見てただけというわけではない。
ホームセンターの園芸売り場の人に聞いてみたり、
ネットで調べてみたり、
植物を育てている知人に聞いてみたりして
できる限りのことは実践してみるのだ。
でも枯れる。

私のもとにくる植物、かわいそう過ぎる・・・
ネットが発達してなかった頃のことはまだしも
こんなに調べて育ててもダメにしてしまうなんて才能がなさすぎる・・・私・・・・
もう植物を愛でるのは家の外で出会う子だけにしよう。
それが植物のためにも私の心の平和のためにもいいはずだ・・・。
家を建てることがあったら庭のない家にするんだ、絶対！！

と固く心に誓ったのは10年以上前のこと。

それから月日は流れ、ある日職場にがじゅまるの木がやってきた。
小さな鉢植えに入ったそれは取引先の方が
「お年賀に」と持ってきたものだった。

私はそれを見て思った。
「私が育てるのはやめよう」

職場の人には私がブラウンハンドであることを切々と訴え、
時折水をあげることくらいなら大丈夫だとは思うけれど
多分私は枯らしてしまうので他の人が面倒を見た方がいいと伝えた。
結構真剣である。

訴えは聞き入れられ、当時新卒だった男の子ががじゅまるの面倒をメインで見てくれることになった。

すくすくと枝を伸ばすがじゅまる。
生い茂る葉っぱ。
可愛い。
やっぱり植物っていいなぁ。
育てられないけど。

時折剪定もしながらすくすくと育つがじゅまるさんを愛でていたある日、
新卒だった男の子に異動の辞令が下りた。

え、がじゅまるさん、どうする・・・？
当時私がいた部署はみんな植物を育てるのを苦手としているブラウンハンドの面々で
「いっそ彼が異動先にがじゅまるさんを連れていってくれた方が・・・」
とみんなの心によぎった。

けれど植物を育てることのできるグリーンハンド新卒くんは
「大丈夫ですよ、この子丈夫ですから」
とさわやかに去って行ってしまった・・・。

困った。
困ったよ・・・。
と思いながらもネットの情報と園芸売り場の店員さんのアドバイスを頼りに
水をやり、剪定し、土を入れ替え・・・と過ごした。

がじゅまるさんは幸いなことに枯れなかった。
え、枯れない。
枯れないじゃん！！！

私の中で何かが芽生えた瞬間である。

分かってる！
分かってるのよ！！
私のスキルがアップしたのではなく
たまたまこのがじゅまるさんが丈夫だったっていうだけなのよ！！
という理性とは裏腹に
もしかして私、植物を育てられるようになったのでは・・・？
という期待。

そして捨てられない期待を元に実に10年以上ぶりに買ってしまった。
多肉植物の「金の生る木」
無印良品池袋店で苔玉で売られているのがあまりにも可愛くて
「きっと・・・きっと大丈夫・・・」
と言い聞かせて買ったわよ！

しかしながら苔玉を育てるのは私には難しく、
少しずつ色あせていく苔玉＆金の生る木・・・。
悲しい・・・やっぱり私には無理・・・？と思いながらも
植物を育てるのが得意な友人に聞いてみると
「苔玉を難しいと感じるなら早めに鉢植えに変更した方がいいよ。
　金の生る木は丈夫なはずだからまだ何とかなるんじゃない？」
とのこと。
すがるような気持ちで早々に鉢植えに変更したさ。

けれども可愛さに惹かれて買った鉢植えは湿気にやられてカビかけたので
カビそうにない素材の鉢植えに変更。
最初に我が家にやってきたときの可愛らしさはもうない。
可愛いまま育ててあげられなくてごめん・・・。
何ならこの鉢の変更だって夫の人がやってくれたりもしたし・・・。
（もう自分の力を信じられない）

でもそれでも最初に無印良品で買ってから数年、枯れてない。
すくすくと育っている。
生きている。
可愛い。

職場にいたがじゅまるさんも今は我が家に移動してきて
多肉植物の金の生る木の隣に並んでいる。
すくすくと育っていて可愛い。

グリーンハンドには程遠いけれど、
植物が家の中にあるってやっぱりなんかいいな。
と思いながら過ごしている。

あ、来年はがじゅまるの土を替えた方がいい年だ。
そういうことも少しずつ分かるようになってきたけれど
やっぱり不安なので今回も園芸売り場の方に聞いてから土を買おうと思う。