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シングルマザーの未来に「投資」を。シングルマザー起業支援プロジェクトの初期フェーズを振り返る

SIIFインパクト・オフィサー 山本泰毅

2019年にスタートしたシングルマザー起業支援プロジェクトが3年目に入り、起業した3名のうち、1社は月商100万円を超えるなど一定の成果が見えてきました。プロジェクト期間は約10年間と先は長いのですが、大きな変化が見えつつあるこのプロジェクトの現状の成果と課題を振り返りたいと思います。

シングルマザーに「起業」という選択肢を提示したい

厚生労働省の『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』によると、シングルマザー世帯は全国で約123万世帯ほどあり、仕事と育児を1人で担うことの難しさから経済的に困窮する世帯が少なくありません。これまでの就労支援は、雇用斡旋が中心とした福祉として支援されることが多いのが現状です。一方、全てのシングルマザーが福祉に依存するのではなく、経済的に自立できるポテンシャルのある方もいること、また子育て中の働き方としては、より自由度の高い「起業」という選択肢もあってはいいのではないかと考え、SIIF、株式会社デジサーチアンドアドバタイジング(以下、デジサーチ社)、一般社団法人日本シングルマザー支援協会(以下、シングルマザー協会)の3者が協同でプロジェクトを立ち上げました。

このプロジェクトは、われわれがサポートしつつ、公募で選出した3人のシングルマザーは、それぞれが株式会社を設立し、webライティングのスキルを習得し、自立と事業の発展を目指す、というものです。起業の際、それまで勤務していたパートタイムなどの仕事を退職してもらうため、大きな壁となる資金面においては、2年間分の起業資金と給与相当額として1,000万円を提供しました。

もともとデジサーチ社はデジタル事業だけでなく、さまざまな起業のサポートを行ってきた実績もあります。今回はその知見を活かしてwebライター事業のスキル習得や起業準備をバックアップ。シングルマザー協会には参加者の募集と起業や生活面で生じる様々な不安や悩みを解消するメンタルサポートを担当してもらいました。
SIIFは、このプロジェクトへの資金提供に加え、シングルマザーの起業が事業として成立するかといった定量的な成果、個人としての幸福度などを図る定性的な成果を測るインパクト評価を担っています。

シングルマザー起業支援プログラム_ロジックモデル

不安が希望へと変わっていった

募集に対しては100人近くの応募をいただき、その中から経歴や学歴ではなく、起業家としての資質、webライターとしての資質、今後ロールモデルとなる可能性等の観点から3名を選定しました。

最初の2、3カ月は重点的にwebライターとしてのスキルを習得する期間に充て、1年をかけて事業のベースを整え、2年目からは徐々に収益が出るようになりました。

起業のように不確実性を伴うチャレンジには、メンターの伴走も重要です。その点では、デジサーチ社の代表取締役黒越誠治さんや、シングルマザー協会の代表理事江成道子さんらに大きくお力添えいただきました。起業当初は3者ともメンタルの浮き沈みがありましたが、事業が軌道に乗り始めると抱えていた不安が希望に変わっていったという印象を受けました。

また、対象者の3人が「競う」のではなく「協働」できる関係を築くことを目指したのもプロジェクトの特徴です。Zoomなどを使って同期で話し合える環境も用意し、起業の苦労や悩みを共有してもらいました。チームの和をつくり、サポートしあえる関係性になることも、事業の継続性を高めるポイントになる、と考えました。

参考:シングルマザー起業支援プログラム

スキルを身に付ける機会が不足しているという課題

今回、webライティングを事業モデルにした背景には、①時間と場所が融通できる、②個人のスキル開発につながる、③経済的な成長性が見込める――という3つのポイントがあります。

シングルマザー起業支援プログラムの分野

今回のプロジェクトを通して、個人的に特に課題として感じたのは、子育てを機に雇用から遠ざかると、その後、就職しても企業から研修やOJTといったスキルアップの機会を得にくくなることです。特にシングルマザーの場合は、生活を維持するために時間給で仕事を掛け持ちするケースが多く、日々の生活に追われ、スキルアップの機会から遠ざかってしまいます。また、それまでの学校教育でも仕事に通じるスキルを習得しづらいという背景もあります。そうした対象者に対して、スキルセットを提供した起業プログラムは、仮に起業で成功しなかった場合でも有効性があると考えられます。

起業を通じて自信を得られた

スキル面にとどまらず、精神的な変化も起こったと感じています。売り上げが最も伸びたAさんは「50代の自分にも成長の余地があることを実感できた。これまで勉強においてもほめられることもなく、何でもできるタイプではなかった。なので自信がなかなか持てなかったが、起業したことで、こんな自分でも何らかの成果を出せる自信を持てた。」、「大学生になった子どもからも、『お母さんが頑張っているから、僕も頑張るよ』と言ってもらえたり、友人が英会話スクールを開設したりとちょっとは周りにいい影響を与えられているのかな」と語っていました。江成さんによると、日本の社会の中で女性は仕事での自信をつけにくい構造があるといいますが、雇用される側ではなく起業家として積んだ経験と実績は、Aさんの自信に繋がったのだと思います。

このプロジェクトでは起業するだけでなく、ある一定の収益が上がったら、人を雇用して、後に続く人のロールモデルになってもらうことも想定しています。3人の中で最も業績を上げているAさんからは、人を採用する決意をしたと伺いました。経営者としてのステップを積み、人を雇うためには己を知ること、会社としてどうあるべきかといった経営の視点を持つことができたのは、売り上げに勝るとも劣らない大きな成果です。

起業家として花開く、未来への「投資」

たしかに、起業にはリスクもあり、ある種の覚悟が求められます。そのため、対象者の選定や、事業がうまくいかなかった場合のサポート等、十分に留意することが必要です。プロジェクトの開始にあたり、私たちもこの点においてはかなり慎重に議論いたしました。しかし、一定の条件を整え、時間をかけることで、着実に起業家として花開くポテンシャルを秘めた方々がいることが、プロジェクトを通して分かってきました。そのような方々の未来に「投資」するのは、意義のあることだと感じています。

<参考>
SIIF webサイト, シングルマザーの起業を支援

日本シングルマザー支援協会 You Tube
「シングルマザーが1000万の投資をうけて『あなたは今日から社長です!』」



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