バイオマスエネルギーで「地域の熱を上げる」
2019年度休眠預金通常枠事業の資金分配団体としてSIIFが採択した「地域活性化ソーシャルビジネス成長支援事業」の6実行団体。今回はそのうちの一社、再生可能エネルギー事業に取り組むsonraku の代表取締役、井筒耕平さんと、事業の展望やエネルギーの未来について語り合いたいと思います。
左 sonraku 代表者 井筒 耕平様
右 SIIF インパクト・オフィサー 山本 泰毅
山本 井筒さんが休眠預金の制度に応募されたのはどうしてですか?
井筒 創業の思いとリンクするところがあります。そもそも起業のきっかけは、地域社会が経済的に自立できてないことに問題を感じたからなんです。明治以降、中央集権化が進んで人材も資源も地方から流出しています。地方の資源が活用されず、国からの補助金を土建業などで回している――そんな状態を変えたい。その手段として森林バイオマスに着目しました。これまで熱バイオマス事業木質バイオマス熱供給事業を展開してきましたが、ビジネスとしてはハッキリ言ってあまり儲からない(笑)、また20年以上の長期のビジネスモデルなので、これだとなかなか民間資金が入らないんです。自治体の補助があれば導入できますが、銀行は資金を出さないので、なかなか事業が広がらない。だから民間資金でもある休眠預金を入れながら、地方で価値化されていない木材を活用して小型で独立した分散型のコージェネ(発電と熱供給を同時に行う)事業を行い、自立した地域(地方分権の促進)を作りたいという思いがありました。
山本 地域の森林資源を使う事業ですね。井筒さんの経歴も面白いですよね。今は森林資源に関わっていますが、もともとは海人(うみんちゅ)だった(笑)。
井筒 そうですね。出身は愛知県ですが、北海道大学では水産学部で学び、卒業後は静岡県で海洋の国際物流会社で仕事をしていました。当時はスキーもサーフィンもしていましたが、そこから環境問題に興味が湧いたのが始まりです。
山本 「地域活性化」という視点はいつ持たれたのですか?私自身の話をすると、以前食品メーカーに勤めていて地方を回っていたとき、地域経済に関心を持つようになりました。
井筒 環境問題を学ぶために大学院に入り直したんです。その際に、地方は課題山積だと知り、興味深いと思いました。持続可能な社会を実現するために、どう地方の課題を解決するかを研究するようになり、担当教授からエネルギー問題を考えてみたらどうかと薦められたのがきっかけですね。
人口1,500人の村でもエネルギーに年3億円も支払っている
山本 地域活性化に対して、御社の事業の社会的インパクトをどうイメージしていますか?
井筒 バイオマス事業は「何のためにやるか」が大事だと思っています。地域にとってエネルギーって、めちゃくちゃインパクトがあるんです。今日、人口1,500人の村でもエネルギーのために年間3億円くらいを域外に支出しています。エネルギーの原料となる木質資源がたくさん眠っているケースもあるのにこれはすごくもったいないですよね。昔はエネルギーを自給していた上に、炭を売って外貨も稼いでいた。地域の資源を活用してエネルギーを自給できれば大きなインパクトになります。2つ目は、エネルギー事業で雇用を生み出す。公共事業の請負仕事よりも、地元の資源を使って行う事業のほうがはるかに持続的です。3つ目は、日本は世界第三位の森林資源国であるのに、海外諸国にお金を払って化石燃料を買うより、森林資源を使って地元に資源循環と経済循環を創り出したほうが地域経済が活性化する。そして4つ目として、グローバルで見ると、化石燃料よりバイオマス資源を活用したのほうが気候変動抑制にも貢献する。4つのインパクトが考えられます。
山本 今までの御社でのバイオマス事業との違いはどこにありますか?
井筒 熱だけではなく、電気もつくるところです。現在は国のFIT(固定買取価格制度)のおかげて電気のほうが熱の4倍以上高く販売できます。小型CHPで生まれる電気を売電をすることで、長期間確実に一定の売り上げをつくり、発電の際に生まれる熱を地域に販売すればさらに利益が出ますし、これまでの重油や灯油などの化石燃料を置き換えることで環境面での貢献も出来ます。熱の販売だけですと単価が低いので、投資の対象とならないのですが、電気も含めて事業にすれば投資の対象にもなり得ます。熱と電気と一緒につくる為の技術(ガス化)は難しいとされていましたが、ここ 1、2年で技術が飛躍的に進歩したことで事業化することが可能となりました。
北海道のブラックアウトはなぜ起きたのか
山本 今回、木質バイオマスを使った発熱・発電事業を行うのに、北海道厚真町という立地に注目されたのはなぜですか?視察したとき、「ここはいい場所だ」とおっしゃっていましたよね。
井筒 地元の自治体に地域資源を活用した地方創生の文脈を考えている職員の方がいて、自治体としても地域の将来ビジョンを持っていらした。北海道の林業は、森林資源がものすごくあるのに、十分に価値化されているとは必ずしも言い難い状況で、ほとんどパルプ材になったり、発電の際に生じる熱を捨ててしまう、高い売電価格だけを目的としたエネルギー効率を悪い大型のバイオマス発電の原料として販売されている等、課題が多いのです。。北海道林業を持続可能な環境システムの一部として成り立つように変えていきたいという思いもあるので、厚真町の皆さんと一緒になら実現できると思いました。
もう一つはエネルギーの安全保障の問題もあります。2018年9月、北海道胆振東部で震災があり、北海道全域が“ブラックアウト”しました。発電事業として、たくさんのソーラー発電や石炭火力もあるのに、すべてが途絶えた。これが、北海道のエネルギー体制を見直すきっかけになりました。
山本 中央集権的なところが露呈したということでしょうか。もっと地域でエネルギーを持てればよかったのですかね。
井筒 そこは難しいところで、これを話しだすとマニアックな話になり過ぎるので、詳しくはまたの機会に(笑)。でも、災害時に於いてもいかにライフラインを確保するかを考えていくことは社会的な課題ですね。被災時のエネルギー供給源としてもインパクトを出せると思います。
小型バイオマスCHP発電サイト
燃料チップ
sonraku HPより
山本 HPに掲げた「火を起こして地域の熱をあげる」というコピーは面白い。一文で会社のことをよく表していると思いました。
井筒 「火」は創業以来の軸ですしね。バイオマスだけでなく、事業を通してどちらかといえば疲弊していっている傾向にある地方に「火を起こす」という思いもあります。
山本 今、一緒に働いているスタッフはどういう方たちですか。
井筒 西粟倉在住のスタッフは、20代から30代の、わりと若い移住者が中心ですね。人材を募集したら応募してきてくれたスタッフたちです。私の共著『エネルギーの世界を変える22人の仕事』(学芸出版)という本を読んで共感してくれた人も多いようです。薪工場で薪づくりの作業を中心に働いてくださっているのは地元の比較的年配の方たちですが、その方々は村役場に紹介をして頂きました。
山本 その本はすごく面白かったです。井筒さんの1週間の仕事が書いてありましたが、その4割は薪づくりをしていらっしゃったのが印象的でした。
バイオマスを取り巻く制度はどんどん変わっている
山本 sonrakuさん側としてSIIFに求めていることがあれば聞かせてください。
井筒 弊社にはまだまだ足りないリソースがたくさんあるので、事業の伴走支援制度はすごくありがたいですね。事業についても、客観的に第三者評価をして頂くことで、他のバイオマス事業者や自治体の方々にも参考にして頂き、地方創生を目的とした、木質バイオマスのご当地エネルギーの普及につながればいいなと思っています。それと金融機関の方々にもアピールができればいいなと思います。今回、まずは小型CHPを1台導入しますが、地域の木質バイオマスを燃料とした発熱・発電設備として、面で展開するエコシステムを作りたいと考えています。バイオマスを取り巻くFIT(固定価格買取制度)や市場もどんどん変わってきています。そして、日本の森林はこの国の人口と同様に、樹齢が偏っているという問題もあります。
山本 樹齢が偏っているとどんな問題があるんですか?
井筒 今は60代の木が多いんですが、これが80代になると幹が太くなりすぎてしまいます。森林資源全体で考えると、建材用材等の高質材から梱包材やチップ等に使う底質材まで、全体をバランス良く利用して森林全体の循環を作っていくことが必要ですが、樹齢が偏るとそのバランスも崩れます、さらに、これからは間伐も頻繁に行われるので、燃料材になる木は減っていくと思われます。そういう中で森林資源をどう更新していくかということについても中長期的に考えて行く必要があります。
山本 なるほど。そういったことを含めて、例えば今回の地域の森林資源を活用した発電事業など、今後、注目されようとしている方法での利活用等も含めて、この国の森林資源の価値課に向けて、今はまだ発信していく力が不足しているとも感じています。一次産業にマーケットの視点が入ると、すごく変わってくる。そういう点でも支援できるといいなと思っています。実際にこの数カ月、SIIFと組んでみて、当初の印象とのギャップはありますか?
井筒 すごくいい刺激になっています。社会的事業を「投資対象」として捉えている方たちとのコミュニケーションは新鮮でしたね。最初は緊張もしましたが、私たちにないロジックツリーがある。やっぱりプレーヤーだけだと、そこまで客観的には考えられません。自分たちは地域のためにと思ってやっていますが、実際に第三者視点を持つということの大切さを感じています。
山本 最後に今後の展望を教えてください。
井筒 地域の森林資源を価値化するために、木質バイオマスで電気と熱をつくる事業を全国の他の地域でも仕掛けて、それぞれの地域の内部経済の循環と資源循環にアクセルしていきたいと考えています。この事業を通してその地域に新たな産業や雇用が生まれ、地域外に出ていくお金を減らして、その分を地域の教育や福祉に廻して豊かな地域社会をつくり、ほんとうの意味での地方分権を確立していければと思っています。
また、北海道には、豊富な森林資源があるにも関わらず、域内調達に比べより多くのCo2を排出するような手段で遠く海外から原料と成る木材を調達したり、木材を燃焼させることによって生じるエネルギーの約22%を占める電力(国の固定買取過価格制度で高く売れる)だけを取り出し、残りのエネルギーの中で熱で使える部分まで捨てて無駄にするような大きな発電所をつくるということで果たしていいのか?熱量が大き過ぎると使いきれません。私共の導入する小型のCHPを使った地域の森林資源量に応じた中規模から規模の発電と熱供給の事業であれば、地域で産出可能な森林資源を持続可能的に利用して、発電効率も全体の30%に向上させ、さらにそれとは別に全体の約45%のエネルギーを熱として回収し有効に利用できます。一方で、木を切る人材(施行者)が足りないなどの理由で、森林資源はたくさんあっても燃料となる材が足りないということも起こっています。もっと、地域資源の成長量にあった、分散型で中規模〜小規模のバイオマス事業が必要だと考えます。北海道は製材や木工が盛んですが、材料は海外から輸入したりしていることも多く、北海道の林業の振興には必ずしもつながっていません。木質バイオマスを活用したエネルギー事業だけではなく、北海道の林業の総需要喚起や木材の付加価値化をトータルで考えていきたいですね。
山本 sonrakuさんが目指す地域社会の実現に向けて、ご一緒できること、改めて嬉しく感じています。本日はありがとうございました。
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