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『インパクト投資消費者意識調査2022』の解説(後編)

SIIF インパクト・エコノミー・ラボ 織田 聡

前編はこちら


4 インパクト投資を行うことに関心ある理由

2022年調査では新たに、「インパクト投資を行うことに関心があるのはなぜですか」との質問を設けました。 結果を見ると「インパクト投資を通じて社会課題の解決に貢献できそうだから」と、「投資リターンが期待できそうだから」の回答率はほぼ拮抗しています。

図表8 インパクト投資を行うことに関心ある理由(複数回答)

上記数値も、性別および世代別にクロス集計分析を実行してみると大変興味深いファクトが浮かび上がってきます。
「インパクト投資を通じて社会課題の解決に貢献できそうだから」と回答した人は、性別、世代に関係なく一定割合存在します。一方、「投資リターンが期待できそうだから」は、男女とも20代が最も高く、世代の上昇とともに回答割合が低下します。若年層ほどインパクト投資を投資商品として捉える傾向がうかがえます。

図表9 インパクト投資を行うことに関心ある理由 -- 性別・世代クロス

5 関心あるインパクト投資の領域

インパクト投資に関心ある層に、社会課題解決のためどのような企業への投資に関心があるかをたずねました。すると上位には再生可能エネルギー、環境保全、医療・介護が入ります。この傾向は例年と変わりません。

図表10 インパクト投資したい領域

この回答も、性別、世代別に見ると興味深い傾向が見えてきます。性別(2)×世代別(5)の10個のセグメントごとに(図表11の縦方向に)上位5位を赤でマークすると、20代、30代は他の世代と比較して、子育てに貢献する企業への関心度が高くなっています。
また20代、30代の男性はインフラ整備、都市開発関連企業への関心度が高くなっています。

図表11 インパクト投資したい領域 – 性別・世代別にみた順位

6 インパクト投資に割いてもよい金額

この消費者調査では、インパクト投資関心層(17.7%)に対してさらに「インパクト投資に割いてもよい金額」をたずねています。
既に見たように世代が上昇するにつれてインパクト投資関心度は低下するのですが、金額別の内訳を見ると面白いことが判明します。インパクト投資に50万円以上割いてもよい層は世代が上昇してもあまり低下しません。むしろ60歳以上では増加に転じています。
また、100万円以上割いてもよい層は各世代に5~7%安定して存在します。
つまり、支払い意欲の高い潜在ロイヤルティ顧客は、各世代にわたって一定割合存在することが分かります。

図表12 インパクト投資に割いてもよい金額 -- 性別・世代クロス

7 機関投資家によるインパクト投資への、消費者の肯定度

公的年金、企業年金、生命保険などの機関投資家がインパクト投資を行うことに対して、消費者がどれくらい肯定しているかをたずねました。
その結果、既述のインパクト投資関心度(17.7%)と同程度の約2割が肯定的であることが分かりました。
ただ一方で過半数が「わからない」と回答しており、機関投資家が(消費者に代わって)消費者自身の資産を運用していることに対して、あまり自分ゴトとして捉えていない点も垣間見えます。

図表13 機関投資家がインパクト投資を行うことへの肯定度

8 パーソナリティと、インパクト投資関心度の相関

当調査では、性別、世代や金融資産などのデモグラフィック要因のほか、消費者のパーソナリティとインパクト投資関心度との相関も調べています[1]。消費者の思考や行動のパターンを6つのカテゴリーで測定することとし、各カテゴリーに4つの質問を用意しました(合計24問)。

図表14 パーソナリティをたずねる設問(1カテゴリー4問 × 6カテゴリー = 24問)

その結果、①イノベーション志向、②上昇志向の強い人はインパクト投資関心度との相関が高いことが分かりました。次いで③環境志向が来ます。
反面、④絆・利他志向、⑤規範・伝統志向、⑥快適・快楽志向は、インパクト投資関心度との相関は低いという結果が得られました。
イノベーション志向や上昇志向とインパクト投資関心度との相関が高く、逆に絆・利他志向とインパクト投資関心度との相関が低いということは、日本ではインパクト投資が社会の連帯を補強する手段というよりは、むしろ先端的でクールな(かっこいい)アイコンとして受け止められている可能性を示唆しています。

過去、SDGsやESG投資が進歩的でクールな(かっこいい)アクションとして次第に社会から肯定的に認知されていった経路を思い起こすと、インパクト投資が上記のように受け止められることはある意味自然ですが、一方では、耳目が集まる領域には資金が集まる反面、解決が必要な地味な課題領域に資金が向かわない怖れもあります。
この点は、インパクト投資を推進する機関であるSIIFとして認識しておくべきと考えています。

さいごに -- ファクトの振り返り

2回にわたり今年のインパクト投資消費者調査を解説してきました。ここで重要なファクトを復習しておきたいと思います。

・投資経験のある20代、30代でインパクト投資認知度、関心度が高い。
・同じ世代の中でも投資経験の有無によって、インパクト投資認知度、関心度には差がある。
・インパクト投資に関心を持つ理由として、「社会課題解決への貢献」は世代を通じて一定割合存在する。
・「50万円以上を割いても良い」というロイヤルティの高い層も、広い世代にわたり一定割合存在する。
・関心ある投資領域は、再生可能エネルギー、環境、医療、介護が上位。
・ただ、20代、30代は子育てが上位に来る。

これらのファクトから、SIIFとしては今後のインパクト投資の啓発、インパクト投資商品開発や、政策アドボカシー(唱導)に有用な洞察を発掘して参りたいと考えています。

本ブログでは「インパクト投資に関する消費者意識調査」の主要部分を抜き出して紹介しました。調査報告全体に関心ある方はSIIFのサイトから参照頂けますと幸いです。
今後ともSIIFではインパクト投資拡大に有用な情報の調査、蓄積に努めてまいります。

以上


[1]  2021年調査では実施せず。


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