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~金融庁×GSG国内諮問委員会共催第4回「インパクト投資に関する勉強会」 トリオドス銀行から学んだこと~


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SIIF 事業本部本部長 菅野文美

金融庁ではサステナブルファイナンス有識者会議が立ち上がり、金融庁・環境省・経済産業省でもトランジション・ファイナンス環境整備検討会が始まるなど、サステナブルファイナンスの分野も大きく動きだしています。そんな中、第4回を迎える「インパクト投資に関する勉強会」(座長:高崎経済大学・水口剛教授)が1月29日、金融庁・GSG国内諮問委員会(事務局:SIIF)の共催のもとオンラインで開催されました。今回のテーマは、未上場株式へのインパクト投資で、プロダクト別のテーマの設定のシリーズが始まりました。

私からは、事前に委員の方に配布していた動画に関して、2014年に設立されたトリオドス・フード・トランジション・ヨーロッパ・ファンドの取り組みを紹介しました。
トリオドス銀行グループは1980年、オランダで設立された社会解決を意図した金融、“ソーシャルバンク”の草分け的存在で、環境・社会・文化にポジティブな変化を起こすことを目的としています。傘下にリテールバンキング、法人向けバンキング、プライベートバンキング、インベストメントマネジメント事業を有しており、2019年末現在で、グループ全体で運用資産総額は€177億 (2兆2306億円)、拠点は8か国におかれています。その中で、トリオドスインベストメントマネジメントは、トリオドス銀行の100%子会社の資産運用会社です。2019年末の資産運用残高€49憶(6,178憶円)となっており、①エネルギー・気候変動、②持続可能な食と農業、③金融包摂、の3テーマで、未上場株式・上場株式・債券へのインパクト投資をしています。今回、動画を寄せてくださったのは、トリオドスインベストメントマネジメントの元マネージングダイレクターであるマリルー・ファン・コルシュタイン・ブルワーズさんと同ファンドの現役のファンドマネージャーであるイザベル・ローランサン氏さんです。
この、トリオドスインベストメントマネジメントが管理するファンドの一つが、トリオドス・フード・トランジション・ヨーロッパ・ファンドです。このファンドは、より環境にやさしく、社会的に持続可能で修復もしやすい“レジリエント” な食料システム「(Ecologically & socially resilient food system)の実現」を掲げ、①バランスの取れた生態系、②包摂的な豊かさ、③健康的な社会の3つのインパクト目標を掲げています。そのインパクト目標を達成するために、投資分野としては、a)オーガニック・持続可能な食(Organic and sustainable food companies)、b)持続可能な食糧への転換(Shift to sustainable diets)、c) 公平なバリューチェーン(Fair chain solutions)、d) Waste solutions & circular business models(廃棄物関係・循環型ビジネスモデル)の4分野を設定しており、現在、8カ国12社に出資しています。
動画の作成を依頼したり、その後、わからないところを、マリル―さん、イザベルさんとやり取りをしたりする中で、私自身再度トリオドス銀行の精神、哲学、それを踏まえたファンドの設計と運営について、改めて感銘を受けました。前回の勉強会で「WHY/WHAT/HOWの順番でインパクト測定を考えることが大切だ」という指摘がありましたが、WHYの部分では、同銀行グループ全体で食にまつわるシステム変革にどうアプローチするかというインパクト戦略を掲げていて、ファンドレベルでのインパクト戦略もそれに整合した形で立てられています。また、WHATの部分としては、「食のシステム変革」というレベル感でのインパクトを目的としているため、環境と社会領域双方を含む、多様な投資分野・ビジネスモデルを取り込むことができます。その上で、具体的な投資分野として4分野を掲げています。投資テーマが先にあるのではなく、どのようなシステム変革を起こしていきたいかに紐づいて、そのために必要な投資テーマを設定している。この点が、従来のテーマ型ファンドとの違いなのではないでしょうか。また、インパクト評価では、定量と定性の両方で測定していますが、複雑に絡み合う社会環境課題にどのように貢献しているかを考えるため、定性情報を重視しているのも非常に興味深い点です。
また、1980年に設立された同銀行が、「より環境にやさしく、社会的にもレジリエントな食料システムの構築に向けたビジョンペーパー」を出したのは2019年であるというのも大変示唆的です。これは、ただ、トップダウンアプローチでインパクト戦略を整理するだけでなく、これまで長年の投資経験を積み上げ、本当に自分たちの達成したいインパクト目標は何か、「WHY」を常に考えながら、自分たちの投資戦略を磨きこんできたとも言えるのではないでしょうか。 一朝一夕には組織全体としてのインパクト戦略と個別のファンド、個社への投資を整合的に設計していくのは難しいのかもしれない。ただ、やはり、常にWHYを問い続けること、その重要性を改めて実感したのでした。

次回は「上場企業株式/ 債券を通じたインパクト投資」がテーマとなり、4月15日の開催予定です。


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