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金融庁+GSG国内諮問委員会共催のインパクト投資勉強会「フェーズ2」が幕開け。その第1回要旨を報告します。 人数制限がなくなり、委員・オブザーバー合わせ、200人以上が参加

金融庁とGSG国内諮問委員会が共催し、SIIFが事務局を務める「インパクト投資に関する勉強会」。その「フェーズ2」が幕を開けました。「フェーズ1」では、事務局の技術的な制限から、参加人数を制限した登録制を取っていましたが、フェーズ2はより開かれた勉強会を目指します。すでに200人近いオブザーバーに登録いただき、インパクト投資に対する関心の高まりを実感しています。委員も新たに4機関が加わり、総勢39名となりました。ここでは、3月3日に開催された、フェーズ2第1回勉強会の内容をご報告します。
 

オンラインで開催されている「インパクト投資に関する勉強会」の事務局の様子(SIIF事務所にて)

SIIFインパクト・オフィサー 小笠原由佳

勉強会冒頭では、座長を務める高崎経済大学の水口剛学⻑、副座長の金融庁・池田賢志チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサーからご挨拶をいただきました。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、水口先生は「独裁政権の力が増していることは、市場型民主主義の魅力が落ちていることと裏腹の関係ではないか」と指摘。池田さまからは「 持続可能な社会基盤をつくるための、金融の役割が問われている」との問題提起がありました。

インパクト・タスクフォース参加者からの報告 

第1回の主要な議題は、2021年に行われた国際的なインパクト・タスクフォース(ITF)に参加なさったお3方のご報告と、それに基づくパネルディスカッションです。

ITFは、2021年7月にG7議長国のイギリスが主導して設立、40カ国・100以上の機関を代表する120人が参画しました。目的は、人類と地球のための投資を拡大する資金調達の手段、民間資金の動員手法を検討することです。全体を統轄するステアリング・コミッティと2つのワーキンググループで構成し、同年12月には早くも提言をまとめて公表しました。

 提言書はこちら>>

「Time to deliver(実行の時)」と題したこの提言は、SDGsの達成期限である2030年を8年後に控え、変革を加速させるための道筋として「A:インパクトに関する情報の質と透明性を上げること」「B:ポジティブインパクトに向けて、機関投資家の資金をさらに動員させること」を示しました。2つのワーキンググループは、A・Bそれぞれをテーマとし、さらに詳細な報告書を作成しています。

日本からは、ステアリング・コミッティにアセットマネジメントONE株式会社の菅野暁代表取締役社長、ワーキンググループAにエーザイ株式会社の柳良平CFO 、 ワーキンググループBに東京大学グローバル・コモンズ・センターの石井菜穂子ディレクターが参加しました。

インパクト評価や「ジャスト・トランジション(公正な移行)」が話題に 

お3方のご報告は、大きく3つのテーマにまとめられます。1つは「受託者責任とリスク・リターン・インパクト」。菅野さまは「欧州ではすでに受託者責任の考え方においても、リターンと社会的インパクトを両立する認識が浸透しているが、日本の機関投資家はまだ大多数がリターン優先だと報告した。アメリカからも同様の発言があった」と語りました。欧州と日米の間には、まだ認識の開きがあるようです。

2つめは「インパクト評価や非財務情報開示、インパクト加重会計」です。グループAの柳さまは「市場に受け入れられ、投資家に評価されるためにも、インパクト評価の定量化が重要」と語ります。ITFでは、日本からの発信を目指し、エーザイの従業員インパクト会計をIWAI(Impact-Weighted Accounts Initiative)事例として紹介、グループAの報告書にも盛り込まれました。

3つめは「資金をどこに振り向けていくのか、公正な移行(Just Transition)」です。主に、グローバル・ノース(北半球の先進国)とグローバル・サウス(南半球の新興国)の関係が語られました。特に石井さまのグループBでは議論の主眼となり、具体例として南アフリカが取り上げられたそうです。石井さまは報告で「これからは、日本がアジアで実例をつくっていかなければならない」と締め括りました。

民間の投資家にとって、インパクト投資を続けるためには、経済的リターンが必要です。一方で、北から南への資金の流れを増やさなければ、インパクト投資そのものの規模が大きくならない。そこで、パネルディスカッションでたびたび話題に上ったのが「ブレンデッド・ファイナンス」です。京都先端科学大学の加藤康之教授からは「政府と民間投資の役割分担を考えるべきでは」との問題提起がありました。国際協力銀行(JIBC)やアジア開発銀行(ADB)などと民間金融機関との協調で、アジアのブレンデッド・ファイナンス、アジアのトランジションを目指す可能性が示唆されました。

ITFは今後、セカンドステージに入ります。すでに今年のG7議長国ドイツをはじめ各国で、提言を実現につなげる動きが出ています。菅野さまによれば、ステアリング・コミッティはこれからも年2回は開催し、提言の実施状況をレビューしていく予定とのことです。

フェーズ1からフェーズ2へ。議論の新たな段階を目指す 

この勉強会も、「フェーズ1」から「フェーズ2」へ、「フェーズが変わること」、つまり、ただの「2年目」ではない議論の広がりや深まりが求められています。勉強会後半のブレイクアウトセッションでは「フェーズ2に期待すること」が議題の1つになりました。

「フェーズ1」では、「インパクト投資とは何か?」「インパクト投資はどうして必要なのか?」という議論を行いましたが、7回の議論を経て、インパクト投資推進の必要性について、コンセンサスが形成されたと考えています。ブレイクアウトセッションの報告では「もうスタディの段階は過ぎたので、アクションについて考えていこう」とのご提案が頻出しました。国内外の具体的な好事例を収集し共有すること、金融業界と学術界が連携する人材交流・人材育成の場となること、さらには、この場から新たな商品やビジネスが生まれることに期待する声もいただきました。

2回目以降の勉強会をさらに実りある場にしていくために、事務局としても微力を尽くしてまいります。

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