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新たな公共調達の仕組み「成果連動型事業」の可能性

■ シリーズ: ESGの一歩先へ インパクト投資の現場から ■

『新たな公共調達の仕組み「成果連動型事業」の可能性 
~住民の本質的なニーズに寄り添うために~』

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SIIFインパクト・オフィサー 戸田 満

※本noteは、『地方行政』(時事通信社)に寄稿したものを簡潔にまとめた。

 「成果連動型事業」、「成果連動型支払い(Pay for Success、PFS)」、「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」、これらの言葉を聞かれたことはあるだろうか。これらは政府が近年推進する新しい公共調達の仕組みを指す言葉である。政府は、2019年度の『成長戦略実行計画』、『経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)』等において、成果連動型民間委託契約方式の推進を謳っている。仕組み自体は、2010年のイギリスのピーターバラで再犯防止分野での事業が世界初で、2020年時点でこれまでにイギリス・アメリカを中心に海外で138件組成され、総事業規模は4.4億米ドルとなっている。日本では、2017年に神戸市及び八王子市で組成されたものが初の本格的な事業で、2020年時点で全国で地方自治体を中心に30件程度の事業が組成され、総事業規模は約10億円である ¹。現時点で国内では、医療健康分野を中心に先行事例が30件前後あるが、いずれも委託者は地方自治体であり、今後全国の自治体で導入検討がされていくと思われる。

 内閣府成果連動型事業推進室(2019年新設)によれば、「成果連動型事業」は、以下の3つの要素で説明されている(太字は筆者による)。

● 地方公共団体等が、民間事業者に委託等して実施する事業のうち、
● その事業により解決を目指す「行政課題」に対応した「成果指標」が設定され、
● 地方公共団体等が当該行政課題の解決のためにその事業を民間事業者に委託等した際に支払う額等が、当該成果指標の改善状況に連動する事業

 成果連動型事業では、行政と事業者が委託契約を締結する点は従来の業務委託と変わらないが、委託料は固定でなく、あらかじめ定めた成果の達成度合いで変動する。契約書には、委託事業の成果の定義、成果指標および目標値、委託料の支払条件などが規定され、契約金額も最大でいくらという形で定められる。その上で、事業後に第三者評価機関等が契約で定められた成果指標に基づいて評価を行い、その成果の達成度合いに応じて行政から委託料の支払いがなされる。成果に応じて委託料は変動し、成果が低ければ委託料は減額され、成果が高ければ委託料は最大まで増額されていくことになる。
 なお、成果連動型事業における「成果」とは、社会的インパクト²のことである。社会的インパクトとは、「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム」のことである。事業の活動内容そのものや直接の結果であるアウトプット(例:プログラムの実施回数、参加人数)ではなく、事業・活動の直接の結果がもたらす変化、便益、学びその他効果がアウトカム(例:子どもの学力の向上)である。

 『成果連動型民間委託契約に係るアンケート調査の結果について(内閣府、2019年)』では、成果連動型事業の検討・実施を進めている34地方自治体にアンケートを行っているが、本仕組みの導入の狙いとしては、「より高い成果の創出が期待される」、「社会的課題を解決する新たな手法を把握・実証できる」、「行政コストの削減が見込まれる」が上位にあがっている。一方で同アンケートでは、「適正な成果指標・評価方法の設定が困難」、「報酬の支払い条件の設定が困難」、「成果報酬を含む予算の確保が困難」など課題も挙げられた。

 発展途上の新しい仕組みであるがゆえに課題はあるものの、民間事業者の力を上手く活用する際の一つの切り口として、また一つ一つの施策の目的・成果を民間事業者と共有し、成果の創出を促していく強力なツールとして、今後の一層の推進が期待される仕組みである。今後の導入が期待されるのは、再犯防止・就労支援・生活困窮者支援など海外で導入実績が豊富な分野や超高齢化社会をみすえて介護分野等が挙げられる。成果連動型事業や個別の導入事例についてもっと知りたい方は、内閣府成果連動型事業推進室のポータルサイト³や弊財団発行の報告書⁴を御覧いただきたい。
 成果連動型事業には、自治体、受託事業者、そして(場合によって)資金提供者が関わるが、三者が目指すところは、受益者(国民・住民)の真のニーズに合致した価値提供である。その中で、自治体は中長期的な財政リスクを抑制し、民間の創意工夫や資金を活用した成果志向の革新的サービスの導入を期待し、事業者は成果に連動する収益リスクを資金提供者に分散しながら、価格競争に陥らない形で、自社の革新的なサービスで行政事業に参画することを期待している。そして、資金提供者は、リスク耐性に応じた資金提供を行い、成果(社会的インパクト)の創出と一定のリターンを期待している。
 もちろん成果連動型事業の範疇は、行政サービスの中でも委託事業に限られるが、当該事業から学びを得た行政職員が自主事業も含めた行政サービス全体をより一層の社会的インパクト志向に転換させるきっかけとなりえ、『公助のパラダイム・シフト(大転換)』にもつながる可能性も秘めている。従来の前例踏襲的かつ他自治体との横並びな行政サービスの提供では、手段の目的化に繋がっている場合もあり、受益者にとっての真のニーズに結びついていない可能性がある。その点、受益者のニーズから演繹する形で成果を設定する成果連動型事業は、より真のニーズに合致した価値提供ができると考えられる。

日本国内の導入事例

日本国内の導入事例

(出典:社会変革推進財団(SIIF)作成資料)

¹国内事例については、内閣府成果連動型事業推進室の事例集(https://www8.cao.go.jp/pfs/jirei.html)や社会変革推進財団の事例集(『日本における成果連動型民間委託契約の実態把握に係る調査研究 ~国内導入事例を振り返る~』)に詳しい。

²出典:内閣府「社会的インパクト評価の普及促進に係る調査」社会的インパクト、アウトカム、アウトプットの定義について。https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/h28-social-impact-sokushin-chousa-02.pdf
³内閣府成果連動型事業推進室 https://www8.cao.go.jp/pfs/index.html
⁴社会変革推進財団 http://www.siif.or.jp/ 個別具体的なご相談については、info@siif.or.jpまでご連絡ください。


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