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「インパクト志向金融宣言」にあたって

SIIF専務理事 青柳光昌

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11月29日(月)記者発表会 東京国際フォーラムにて

 2021年11月29日、本日、21の金融機関が「インパクト志向金融宣言」に署名しました。金融機関が、自らの経営方針として、環境と社会の課題解決に取り組み、その成果を測定し、共有し、さらに推進・普及していくという宣言です。取り組みを始めてからわずか半年ほどで、当初の予想を大きく超える、21もの金融機関にご賛同いただきました。

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 私たち一人一人が生かされている、この環境と社会には今、課題が山積しています。地球温暖化の影響は身近に迫り、国内では毎年のように豪雨災害が起きます。昨年来のコロナ禍では、医療の非効率性や非正規労働など、社会のさまざまな問題が顕在化しました。これらの課題は、公的資金やチャリティーによる対策に頼っていては、到底解決できません。民間の持つ資源と能力を、積極的に振り向けていく必要があります。

 今回の「インパクト志向金融宣言」は、その大きなメルクマールです。今、私のなかには「ようやくここまで来た」という思いと、「ここからがいよいよスタートだ」という思いが交錯しています。

日本におけるインパクト投資と金融機関の参画

 日本におけるインパクト投資の萌芽は、2013年3月の「日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)」設立にあります。準備を始めたのは2011年頃で、アメリカの大学院で学び、インパクト投資ファンドのインターンを経験して日本財団に入所した、現SIIF常務理事・工藤七子の発案でした。東日本大震災が起きたことで、企業や財団の社会貢献への意識が高まった時期でもありました。

 SIIFの出身母体である日本財団は、それまで助成はしても投資はしていなかったので、ベンチャーキャピタル等で事業投資の豊富な経験を持つメンバーが設立した「一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ (SIP)」と日本財団が共同でJVPFの運営にあたることにしました。JVPFの原資は個人や企業からの寄付金と日本財団の助成金で、リターンは求めませんが、投資手法や経営支援について、インパクト投資の考え方を導入しています。

 JVPFの設立と同じ2013年の6月、先進国首脳会議(G8)で「G8社会的インパクト投資タスクフォース」が設立されます。日本の民間代表として日本財団に声がかかり、現SIIF理事長の大野修一と工藤が、翌年のタスクフォース会議に参加して、ロナルド・コーエン卿と面談。2014年7月に、日本で「G8社会的インパクト投資タスクフォース国内諮問委員会(後日「GSG国内諮問委員会」に名称変更、以下「GSG国内諮問委員会」)」を立ち上げます。しかし、この時点ではまだ、JICAを除けば、 GSG委員会に金融機関は参加していませんでした。

 日本のインパクト投資の世界に金融機関の顔が見えてきたのは、2017年に日本で初めて、2つのSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)を組成したときです。神戸市のSIBに三井住友銀行が、八王子市のSIBにみずほ銀行が参画し、この2社にGSG委員会に加わっていただきました。なお、このSIBをきっかけに、日本財団からスピンアウトする形でSIIF(当初の名称は「社会的投資推進財団」)を設立しています。

 GSG委員会は発足から毎年、日本におけるインパクト投資の現状レポートを公表していますが、ここ2年ほどでようやく、本格的なインパクト投資と呼べる事例を紹介できるようになりました。SIIFでも2019年に新生銀行グループ、みずほ銀行との協働で、機関投資家が参加できるインパクト投資ファンド「はたらくFUND」を設立し、多くの反響をいただきました。

 2020年6月から金融庁とGSG委員会が共催している「インパクト投資に関する勉強会」には、思いのほか多くの金融関係者が参加してくださり、オンラインも含めると毎回約100人が聴講するなど、インパクト投資への関心の高まりを実感しています。そして今年2月頃、SIIFエグゼクティブ・アドバイザー安間匡明の発案で、今回の「インパクト志向金融宣言」に向けて動き出したのです。

インパクト志向の投融資の実践と評価・共有、発信を約束

「インパクト志向金融宣言」の大きな特長は、宣言だけに留まらず、署名機関おのおのが独自の行動計画をつくること、その進捗状況を可能な範囲で共有し、互いに知恵を出し合うこと、さらに、国内だけでなく、海外に向けても発信していくことにあります。

 加えて強調したいのは、各金融機関のトップが、組織全体の経営方針として、宣言に署名したということです。これまでインパクト投資・融資の現場では、担当部門が熱心に取り組んでも、なかなか他部門の理解が得られない状況を、しばしば見聞きしました。宣言をきっかけに、こうした壁が打ち破られ、全社を挙げて環境・社会課題の解決に向かっていただけるよう期待します。

 今回署名した21の金融機関は、規模も業態も、実に多様です。メガバンク、地方銀行、信用金庫・信用組合、資産運用会社、VC、アセットオーナー、保険会社など、それぞれの立場の違いから、異なる強み、異なる悩みがあるはずで、ぜひそれも共有し、インパクト投資・融資の世界にも豊かな多様性をもたらしていただきたいと思います。

 また、署名機関のなかには、宣言を契機に本格的にインパクト志向の投融資に取り組もうというところもあれば、すでに投資や商品販売で実績を挙げているところもあります。特に、りそなホールディングス、三井住友トラストホールディングス、第一生命保険の3社には、先輩格として、宣言の起案時からご尽力いただきました。

今後は、署名機関がIMM(Impact Measurement and Management 、インパクト測定・マネジメント)に取り組み、協力することで、IMMの知見が蓄積されていくはずです。このことによって、これまでインパクト投資参入のボトルネックとされていた評価コストが抑えられ、インパクト投資に取り組みやすい環境が整うことでしょう。

 SIIFのような小さな財団の提案に、21もの金融機関がご賛同くださったのは望外の喜びですが、これからも、より多くの金融機関にご署名いただきたいと考えています。さらに、この宣言を超えて、日本の金融業界に、自律的・持続的にインパクト投資・融資を発展させていく気運が醸成されることに、大きな期待を抱いています。

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