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2020年度休眠預金活用の実行団体「但馬を結んで育つ会」。医療・介護の連携を軸に、持続可能な但馬をつくる

SIIFは2020年度休眠預金等活用制度「コレクティブインパクトによる地域課題解決事業」の実行団体の一つとして、NPO法人「但馬を結んで育つ会」を採択しました。同会は、兵庫県北部の但馬地域で、ひとびとが安心して住み続けられる医療・介護体制の構築を目指しています。代表理事で医学博士の千葉義幸さんと、同会と連携する但馬信用金庫常務理事の宮垣健生さんに、プロジェクトの将来像を伺います。

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(左)但馬を結んで育つ会代表理事 千葉義幸氏
(中)但馬信用金庫常務理事 宮垣健生氏
(右)SIIF専務理事 青柳光昌


今後の急性期医療と在宅医療や介護のバランスをはかる

青柳 千葉先生の構想は、ご自身が生まれ故郷の豊岡市にUターンして、地域の課題を痛感したことから始まったと伺っています。

千葉 以前勤めていた神戸などの都市部の病院なら、私の代わりは他にもいらっしゃるでしょうが、但馬には、地元出身の私にしかできないことがあるのでは、と考えて帰郷致しました。病院にいますと医療中心に考えがちですが、豊岡で地域医療を担う診療所に着任してみると、全く違う世界が見えてきました。地域の医療は、医療だけでなく、介護も含む福祉と一緒に支えなければ成り立たないということです。

青柳 医療と介護の両方を考えなければならないと。

千葉 これから少子高齢化が進めば、若い人に必要な急性期医療(病気の発症から回復期や亜急性期まで移行するまでの期間における医療)の需要は減少し、代わりに、高齢者に求められる回復期・慢性期医療、在宅医療や介護の需要が増大します。但馬地域では、あと25年経てば医療需要は現在の8割ぐらいになると見込まれております。いっぽうで、介護需要は横ばいのまま保たれます。このままではどちらも継続が非常に困難になることが予測されます。

宮垣 但馬には、豊岡市、養父市、朝来市、美方郡香美町、新温泉町の5つの自治体が含まれます。

千葉 ひとりの人が生まれて亡くなるまでの医療や介護を、どのぐらいの範囲でカバーすればいいのか、これが二次医療圏であると考えます。もしかしてそれは、昔の“国”の単位である、但馬や丹波や丹後といった文化圏にちょうど収まるのではないか、というのが私の仮説です。但馬というまとまりなら、持続可能な地域医療体制が築けるかもしれない。

<但馬を結んで育つ会の連携>

自治体を横断して、情報を共有・連携するための法人をつくる

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千葉 兵庫県は但馬を「二次医療圏」、すなわち地域医療計画の基本単位に設定しています。この範囲内で同じツールを使い、情報を共有する必要があります。そうしないと、例えば患者さんが土曜の夜に救急搬送されたとして、月曜の朝にかかり付けの開業医が開くまで既往歴や処方薬の情報が分からない、ということになってしまう。しかし、情報を束ねるためには共通の器が必要です。そこで、2017年に設けられた「地域医療連携推進法人」の制度が活きるのです。

青柳 地域医療連携法人では、具体的に何を行うのでしょう。

千葉 一つのお手本は、2018年に山形県酒田市で設立された「日本海ヘルスケアネット」です。二次医療圏内の病院に、“三師会”と呼ばれる医師会、歯科医師会、薬剤師会が加わり、多くの社会福祉法人も参加しています。この中で、ICTによる情報共有や、医師や看護師といった人材の派遣体制、医療と介護の連携ができている。医療連携推進法人でありながら、事実上の医療福祉連携推進法人が実現しています。同じ日本海側で、地政学的にも人口構成的にもよく似た山形でできたのだから、但馬でもきっとできると考えております。

青柳 いっぽうで、但馬ならではの課題もありますか。

千葉 但馬には5つの自治体があって、2つの公立病院組合、他町立病院があります。福祉も基本的には自治体単位です。これらを横断して二次医療圏を構築するのは相当に難しく、兵庫県が旗を振っても、なかなか進みませんでした。しかし、今ならできると思うのは、地域の医療関係者に危機感が共有されつつあるからです。開業医も世代交代が進まなくなってきて、地域医療の将来に不安が募っている。でも、今からすぐ始めなければ、もう間に合いません。

青柳 同じような課題を抱えている地域は、日本全国にありそうですね。

千葉 私たちが目指していることを但馬で実現できれば、それはきっと、日本の他の地域にも応用できると思われます。さらに言えば、地方がおのおの自らを支える仕組みを構築すれば、都市部を支えることにも繋がります。但馬のための取り組みですが、ゆくゆくは、日本全体のためにもなるはずです。

宮垣 かねて千葉先生からこの構想を伺っていたので、休眠預金の活用目的に適うのではないかと考えて、今回の応募をご提案しました。地域医療連携推進法人の設立の目標は2025年で、さらにその先の展望もありますが、段階的に進めていくなかで、これからの3年に利用させていだければと考えました。

青柳 まさしく休眠預金の活用にふさわしい取り組みで、私たちも期待しています。一方で、地域医療連携推進法人にかかわる各関係者の主体性がとても重要だと思いますし、これは地域ごとに特性が違うのではないでしょうか。そこに、但馬信用金庫さんが伴走する意義の大きさを見ているのですが。

宮垣 但馬信用金庫は但馬地域では約4割のシェアを有しています。これくらいのシェアがあれば、本事業で当金庫がサポートしようとしている事業者が当金庫と取引がなくても、個別の採算にとらわれず、地域全体の利益を考えて行動できます。ここ十数年は、地方創生のさまざまなプロジェクトに力を入れてきましたし、今回の取り組みも、千葉先生との共同事業のような気持ちで参加しています。

>> 但馬信用金庫 令和2年度『地方創生に資する金融機関等の「特徴的な取組事例」』の表彰について


医療からまちづくりへ。30年持続可能な但馬を次世代に

宮垣 医療と介護の連携は、但馬の持続可能性を担保するための“入り口”に過ぎなくて、同時に“出口”も考えなくてはいけないというのが千葉先生の構想です。それが、内閣府がいうところの「小さな拠点」、コミュニティです。

千葉 現状では、医療や介護の手が届きにくい里山の集落に住んでいる高齢者は、身体が思うように動かなくなったら、“終の住処”と呼ばれる特別養護老人ホームに入るしかありません。そうなる前、例えば介護度が要支援1や2の段階で、ちゃんとケアやサービスを受けられる場所を、里山からそう遠くない場所に用意しておく。それが小さな拠点です。それも、ただ介護施設をつくるのではなく、そこに子育て支援や買い物などの機能をまとめることで、魅力的で、幅広い世代が集まる拠点ができるはずです。

宮垣 そのためには、医療や介護だけでなく、土木や建設をはじめ、各種の地場産業が参加する必要があります。あらゆる事業体、もちろん地域住民自身も主体になります。

千葉 だから、但馬信用金庫さんも当事者なんですよ(笑)。医療・福祉に限らず、金融も産業も行政も、本質的には同じ地域課題を抱えておりますから。

青柳 おっしゃる通りですね。そのために、ある程度分散して拠点をつくっていかなければならないと。

千葉 採算を考えると人口2000人から5000人ぐらい、合併以前の旧“町”単位で小さな拠点を配置して、相互を適切なモビリティーで繋いでいく。そこにインフラを集中させれば、自治体も維持費を減らせます。まだぎりぎり資源があるうちに、適切に再配分し効率化して、ICTを採り入れて、なんとか30年は持続可能な地域をつくって次世代に渡したい、というのが私の考えです。

青柳 但馬国のつくり直しをなさっているわけですね。

千葉 医療の立場から考え、動き出すうちに、同時にまちづくりの必要性を感じました。

青柳 そのために、SIIFにはどんなことを期待なさっていますか。

宮垣 今回の休眠預金活用のテーマは「コレクティブインパクトによる地域課題解決」ですから、ほかの採択団体のプロジェクトも参考になりそうです。ぜひみなさんと情報交換したいですね。協働で取り組むことで、シナジーが生まれるようなプロジェクトもありえるかもしれません。

千葉 医療介護分野以外の、経済や社会に与えるインパクトをどうやって測ればいいのか、一緒に分析していただけるとありがたいですね。どんなファクターの、どんな数字を記録しておくべきか、アドバイスをお願いしたいです。

青柳 相当に射程の長い取り組みなので、どこまでご期待に添えるか分かりませんが、私たちとしても、できる限り支援していきたいと思います。


>>2021年5月に但馬信金にて開催された記者発表会では、「但馬を結んで育つ会」の掲げる医療・福祉の連携に注目が集まり、地元メディアのみならず、オンライン上で全国メディアも参加しました。

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