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連載「今、会いたい投資家」シリーズ vol.4 GLIN Impact Capital(上) 途上国での強烈な駐在体験がインパクト投資家としての出発点になった

「より良い資本主義の構築」をミッションに2021年3月、日米のグロースステージ社会課題解決スタートアップを対象にしたインパクトファンドを立ち上げたGLINインパクトキャピタル。代表の中村将人さんは総合商社を経てハーバードビジネススクールに留学し、 インパクト投資の先駆けである米国 アキュメンファンドに勤めたという経歴の持ち主。あえて日本でインパクトファンドを立ち上げた経緯や想いを聞きました。

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GLIN Impact Capital 代表 中村将人さん
SIIF インパクト・オフィサー 加藤有也

加藤 今年3月、1号ファンドを立ち上げて周りの反応はどうですか?

中村将人氏(以下、中村) ファーストファンドでまだ規模も小さいですが、ありがたいことにイベントに呼んでもらうなど多くの反響をいただき、インパクト投資に注目が集まっていることを肌で感じています。その大きな流れに助けられています。ビジネススクールでリサーチしていた頃(2020年)よりも特にESGの文脈で盛り上がりが一気に加速したのを感じています。

加藤  中村さんは総合商社を経て留学されていますね。それはどういう経緯からですか?

中村 駐在を含め途上国での仕事を行った経験が長く、貧困や格差といった社会課題を身の回りに感じていました。でも、自分は企業の利益のために働く環境であり、そこに物足りなさを感じて、自分のキャリアをソーシャルに展開したいという想いがありました。

当時、インドで農業開発のスタートアップ投資に関わっていて、自分としてはかなりインパクトフルだと感じていましたが、結局投資はできませんでした。その一方で、欧米のインパクト投資ファンドがどんどん投資していく。それを横で見ていてうらやましく思っていました。インパクト投資を「良し」とする世界があることに気付いたんです。日本ではインパクト投資について学ぶ環境がなかったので、留学しました。

加藤 従来の企業とは異なる投資の世界を発見されたんですね。

中村 アキュメンファンドなどで実際に働かせもらい、その環境がすごく自分にフィットしているのを感じました。社会性と経済性を両立させるという視点もそうですが、そこに関わっている人やカルチャーも合っていると思いました。

社会課題を普通に語るカルチャーに居心地良さを感じた

加藤 カルチャーが合っていたというのは、具体的にどういうところに魅力を感じたのですか?

中村 社会課題解決のような話題をふつうに職場で語るようなカルチャーがあり、そのために働くことが当たり前という意識があるところです。それを最初に感じたのはアキュメンでしたが、SIIFでも感じました。アキュメンのロンドンオフィスでは、忙しい中でも、週一回のチーム会で雑談のように、この1週間で感じたソーシャルイシューを語り合う。『真剣10代しゃべり場』みたいに(笑)。それは前職では有り得なかったですし、場合によっては「異質な人」と思われてしまうようなことでした。

加藤 中村さんは、そうとは感じなかったんですね。

中村 僕も最初は企業で仕事をしていたので、その様な考え方だったと思います。転機は東南アジアでの駐在ですね。そこで自分がいかに恵まれていたかが分かった。日本では「努力すれば報われる」「貧困は自己責任」のように教育されますが、生まれた瞬間に未来が決まってしまう環境もある。だったら、運が良かった側が行動しないと世界は変わっていかない。決して昔からソーシャルに生きてきたわけではないので、余計にそう感じたのだと思います。日本では東日本大震災を契機に考えが変わった人もいると思いますが、現場を見ることの影響は強いですね。


加藤 実際にどのような経緯でファンド設立に至ったのですか?

中村 2020年にビジネススクールの課題で、たまたまインパクト投資に興味がある日本人4人が集まり、「日本でインパクト投資が拡大するために何が必要か」を考えたのが始まりです。2018年頃からアメリカでもインパクト投資が大型化し始めていて、Bain Capitalなどがインパクトファンドを稼働し始めていました。その風を感じ、日本でもインパクト投資が拡がっていくべきだと感じました。卒業時、これから日本でもインパクト投資が大きくなっていくとタイミングだと思ったので、日本での黎明期に貢献することがアメリカで活動するよりも意義があると感じました。

火が燃え上がる要素は揃っているのに、火種がない

中村 ファンド立ち上げに当たっては、さまざまなプレーヤーにインタビューしました。本当はもっとキャリアのあるVCがインパクト投資に参入したほうが効率的だとは思いますが、未知の部分が大きいので、手を出す人がいない。加えて、ファーストファンドで且つ未知のインパクト投資の場合はファンドサイズが小さくなることが見えていおり、それに伴う報酬が少なくなるので、大きなファンドや長い経験のある人はわざわざ飛び込みづらい。火が燃え上がる要素は揃っているのに、火種がない――だったら自分たちで火種になろうと。それが外から日本の状況を見た自分たちの想いでした。

加藤 ファンド期間は10年ですが、その先にはどういう未来像を描いていますか?

中村 マクロではインパクト投資の運用額もファンドもファンドサイズも大きくなると思っています。われわれのミッションでいうと、リスク、リターン、インパクトの3軸での投資評価が当たり前になる資本主義社会をつくることに貢献したい。ファンドを大きく、多角化して、さまざまな実験をしていきたいですね。ローインパクト・ハイリターン、ローリターン・ハイインパクトなどを混ぜて、ファンドのポートフォリオをつくっていきたいと思っています。

加藤 お話を伺って、インパクトVCとして活動するだけでなく、多様性も見据えて先駆者となる覚悟があることを、改めて理解できました。実際に投資活動を始めて、LP投資家や投資先の企業からはどんな反応をもらっていますか?

中村 まだ始まったばかりですが、LPさんは、この分野に問題意識を持ち、それを応援したいと考えてくれており、ファイナンシャルとインパクトを両立することを理解して応援してくれています。特に何人かは頻繁に相談して、投資面やインパクト面のアドバイスをいただいたり、さまざまな分野の人を紹介してもらったり、同じメンバーのようにサポートしていただいています。投資先企業家2社(ユニファ、坂の途中)は、すでに人気企業ですから、われわれのように少額の投資を受けてくれた時点で、どちらかというと親心のようなものを感じますね。金融の世界を変える仕掛けとして、GLINの成長に期待してもらっているのだと思います。

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