「シェア」と「ケア」をテーマに投資に挑戦。自らインパクト投資を“発見”した高校生たちにインタビュー(前編)
中・高・大学生の金融・経済学習コンテスト「日経STOCKリーグ」(日本経済新聞社主催)。高校部門991チームの中から実質2位となる敢闘賞、渋谷教育学園渋谷高等学校2年生3人のチーム「tam tam」は、投資テーマを深める調査過程で「インパクト投資」に出会い、SIIFを探し当ててインタビューを申し込んでくださいました。対応にはSIIF常務理事・工藤七子があたり、投資テーマに沿ってインパクト指標を考えるためのヒントをお伝えしています。
彼らは6ヶ月をかけて投資先をスクリーニングし、ポートフォリオを構築。3年間の運用状況も踏まえて大部のレポートをまとめ上げました。その挑戦は、まさにインパクト投資の本質に迫るものといえます。SIIFとしても改めて彼らに話を聞きたいと思い、今度はこちらからインタビューをお願いしました。
前編では、テーマの設定や投資先を絞り込む際に3人が考えたことを伺います。
(インタビュアー:SIIF常務理事 工藤七子)
「無縁社会」という言葉が投資テーマ設定の原点
工藤 皆さんが投資テーマに設定した「シェア」と「ケア」は、とても本質的で、秀逸なテーマだと感心しました。どうしてこのテーマを選んだのですか?
森木さん 投資テーマを考えるにあたって、最初に注目したのが「無縁社会」というキーワードでした。これは2010年に放送されたNHKのドキュメンタリーで取り上げられた言葉で、描かれていたのは独居老人の孤独死です。ただ、僕たちはこの問題は、高齢者に限ったことではないと考えました。若者も、「つながり」の希薄化や孤独の問題を抱えてるのではないか。そこに投資からアプローチする方法はないか、と考えたことが、そもそもの出発点でした。
一方で、かつてのように地縁や血縁による「つながり」が強すぎる状態も、個人の自由を制限するような弊害が生まれかねません。そこから逃れて、今、「つながり」が希薄になっているとすれば、元の状態に戻るのも違います。新しいかたちの「つながり」、ゆるやかな「つながり」が必要ではないかと考えました。
柳澤さん ボランティアで児童館に行ったとき、そこにいた5人ぐらいの子どもたちが、一緒になってわいわい騒ぐのではなく、おのおの1人でゲームをしていた様子が印象に残っています。何不自由なく育っているように見える子どもたちの世界にも、「無縁社会」はあるのではないかと感じました。
谷田さん 2人の意見を聞いて「無縁社会」という言葉を調べたら、その根底には本当にいろんな社会問題があると分かりました。孤独って一般には病気と考えられていないけれど、あるひとつの症状として、社会的に治癒できないものだろうか、と考えました。ただ、そのテーマをどう投資に結び付ければいいのかが分からなくて、みんなで話し合いながら、4ヶ月ぐらい悩みに悩みました。
工藤 私たちが昨年発表した3つの課題領域における課題の構造分析と変化の仮説を盛り込んだ「ビジョンペーパー」でも「社会関係資本の醸成」、つまり人と人の繋がりをつくることが3つの領域で共通する課題解決のポイントになっていました。皆さんの問題意識と合致していて最初にお話しを聞いた時は驚きました。
ビジョンペーパー 機会格差
ビジョンペーパー 地域活性化
ビジョンペーパー ヘルスケア
文献調査やインタビューを通じて投資のイメージをつかむ
森木さん まず、投資とはどういうものかを知るために「日経 IR・個人投資家フェア」に参加しました。そこで、企業のプレゼンやIR資料に「つながり」という言葉が何度も出てくることに気付きました。投資においても「つながり」は重要なファクターであることが分かりました。
次に、「投資の本質」を研究するWealthPark研究所の加藤航介所長にインタビューしました。このとき「投資を、自分の資本を増殖させるための道具ではなく、社会を変えるための手段として捉える」というお話を伺って、投資というもののイメージが変わりました。
僕たちが理想とする「つながり」を言語化するために参考にしたのが、社会学者で東京工業大学名誉教授の今田高俊氏の論文「個人化のもとで共同体はいかにして可能か」です。そこから、投資テーマのひとつとして「ケア」が浮かび上がってきました。
さらに、日本経済新聞の「つながりが資産」と題された特集で「シェアリングエコノミー」という概念に出会いました。そこには、僕たちが実現したいもののヒントが詰まっていると思えました。そこで、シェアリングエコノミー事業を多面展開する株式会社ガイアックスや、シェアリングエコノミー協会とその会員企業に取材して、もうひとつの投資テーマとして「シェア」を組み合わせることにしました。
2000社以上のHPを閲覧してテーマに合致する企業を選び出す
柳澤さん 投資テーマを「シェア」と「ケア」に決めたわけですが、各企業が具体的にどんなことをしているのか、それが僕たちの目的にマッチするのかどうかは、話を聞いてみなければ分かりません。そこで、シェアリングエコノミー協会の分類を参考に、まず「空間」「スキル」「モノ」「移動」「お金」の5つの「シェア」を行う企業にインタビューしました。
そのうえで、東証プライム市場1658社と東証グロース市場562社のホームページをすべて閲覧して、「シェア」と「ケア」というテーマに該当する企業をピックアップしました。プライムとグロースに絞ったのは、優良企業と高い成長性というおのおのの特性が、僕たちの理想とする企業にマッチしていると考えたからです。
工藤 2000社以上のホームページを全部チェックしたんですか?
谷田さん 例えば運送とか食料とか、業種が特定されるトピックだったらもう少し簡単に絞り込めたかもしれませんが、私たちは業種横断的なテーマを選んでしまったので。
柳澤さん なるべく業種をまたごうと考えたので、結局大変でしたね。ホームページで主な製品やサービスを見て、合致するかどうかを選びました。
工藤 意見が分かれることはありませんでした?
谷田さん ありました。例えば、最初はコンサルティングや人材育成サービスも「スキルのシェア」に該当するかもしれないと迷いました。でも、私たちが求めているのはもっと「つながり」が生まれるような、個人レベルのシェアだと結論づけて、最終的には外しています。
森木さん みんなで頭を突き合わせながら、少しずつ共通のイメージをつくりあげていった感じですね。
工藤 実は、私たちがかかわっているインパクト投資も、結局は業種で分類してしまいがちなんです。「環境」とか「医療」とか。でも、産業分野の枠組みを通じて企業を見てしまうことで複雑に絡み合った課題の構造を見誤ってしまうことがあるんじゃないかと思うんです。
だから、分かりやすいテーマや業種ではなく無縁社会という大きな構造的課題を捉えて、それに対して「つながり」という抽象度の高いテーマを軸に投資戦略を立てること自体が希有だし、そういう視点をもって企業を見るというのはとても大事なことだと思います。
シェアとケア、オンラインとオフラインで「つながり」の強さを分類
柳澤さん 第1次スクリーニングはテーマとの合致で企業を選びましたが、事業が持続可能でなければ社会的インパクトも小さくなってしまいます。そこで第2次スクリーニングでは、安定性・割安性・成長性・収益性という4つの観点から、それぞれ指標を調べて最適なものを選びました。配点は、一般の投資家がどんな基準で決めているのかを参考にしています。ただ、こればかりはネット情報だけでは不安なので、財務にかかわる仕事をしている父にも意見を聞きました。
第3次スクリーニングは社会的インパクトの評価です。これはGSG国内諮問委員会発行「インパクト投資におけるインパクト測定・マネジメント実践ガイドブック」の「インパクトの5次元」と、米国「B Corp認定」の指標を参考にしました。
工藤 この2つの手法を見付けて、使ってくださったのは、私たちとしても嬉しいです。
柳澤さん ただ、プロの投資家が使う指標を、僕たちにできる範囲でどう定量的に評価していくかには、かなり苦労しました。SDGsだけではない、「つながり」という視点で、オリジナリティを出したいとも考えました。例えば、広報力、SNSの活用といった、ふだんはあまり評価されない点も評価項目に入れています。
この第3次スクリーニングでは、対象企業すべてを同じ指標で扱いましたが、それだけでは測り切れない要素があると思います。例えば、空間のシェアとお金のシェアでは事業の内容が全く異なりますから。そこで、第4次スクリーニングでは、事業の内容に応じて、シェアとケア、オンラインとオフラインの2軸で分類し、おのおのに則した指標を設定しました。
工藤 この2軸と「つながり」の強さのグラデーションも、とてもよく考えられていますね。やはりオフラインのほうが「つながり」は強いと思いますか?
森木さん この2軸に決めるまでにも紆余曲折がありました。ケアとシェアではケアのほうが「つながり」が強い、ということに異論は出ませんでしたが、オンラインとオフラインについてはかなり議論しました。ただ、ふらっと参加してふらっと抜けられる自由度というか、束縛がゆるい点で、オンラインのほうが「つながり」は弱いという結論に至っています。
柳澤さん 最初に申し上げた通り、僕たちが目指しているのはゆるやかな「つながり」です。だから、最終的に絞り込んだ企業の数は、「ケア・オフライン」よりも「シェア・オンライン」のほうが多くなっています。
工藤 そこは意図的に増やしているんですね。なるほど、面白いですね。
(後編に続く)