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ビジネスによる経済的リターンとインパクト創出を目指し、新しい沖縄の未来を創り出す

2021年度の休眠預金事業「地域インパクトファンド設立・運営支援事業」に採択された沖縄県の「株式会社うむさんラボ」(沖縄県うるま市)は昨年、地域インパクトファンド「カリーインパクト&イノベーション1号投資事業有限責任組合」(以下:カリーファンド)を設立。そして今年、カリーファンドから1号案件への出資が行われ、その報告会をかねたイベントが開催されました。
 
報告会には投資先である株式会社WALLTECH、カリーファンドに投資している企業や個人投資家のほか、支援関係機関、起業家の方たちなどが参加し、インパクトファンドに関する知見やそれぞれの思いを共有しました。また、SIIFからはインパクトオフィサーの田立紀子と紺野貴嗣が登壇し、パネルディスカッション「起業家と投資家が描く未来:ロジックモデルで繋ぐビジョン」や「地域とインパクトを意識した経営」というテーマで講演。社会に変化をどう生み出していくか、意見を述べました。


アップサイクル事業を沖縄モデルとして全国へ展開してく

WALLTECH代表取締役の長谷場咲可さん

 6月14日(金)、うむさんラボ主催による「カリーファンド報告会 WALLTECH社への協調支援と未来展望について」が、那覇市内のDX拠点「SAKURA innobase OKINAWA」において開催されました。
 
 まずは第1号出資先となる株式会社WALLTECH代表取締役の長谷場咲可さんが、事業内容について紹介。同社は廃棄されている衣料品や農業用フィルムなどをアップサイクルし、繊維パネルとアート壁の製造・販売事業を行っており、このアップサイクルモデルを沖縄モデルとして構築し、全国へ展開してくことを目指しカリーファンドより出資を受けたことを報告しました。
 事業の中でも特に「アートの要素を入れたアート壁事業は、地域のアーティスト支援や新しいステークホルダーとのつながりを生み出し、市場規模はさらに広がっていく」とし、そうした思いを盛り込みながらロジックモデルを作成したことは、「WALLTECH社で何をやりたいのか」「どんな社会を目指すのか」を改めて見直す機会となったと結びました。
 
 実は、カリーファンドが投資検討用の資料として作成した当初のロジックモデルには、アート関連の事業は入っていなかったのだとか。「アートの部分がなくなってはWALLTECH社をやる意味がない」とまで言い切った長谷場さんの強い思いをカリーファンドが受け入れ、反映したのが、アート部門を事業の柱の一つとした現在のロジックモデルです。このようなロジックモデル作成の現場で実際に起きた話を受けながら、ロジックモデルとは何か、ロジックモデルを作成する意義について問う、セッション1「起業家と投資家が描く未来、ロジックモデルでつなぐビジョン」へと移っていきました。

パネルディスカッションの様子
左から、WALLTECH社の長谷場氏、カリーファンド投資委員会の照沼氏、SIIFの田立

ロジックモデルは、起業家の夢を形にした航海図

 ロジックモデルとは、事業や組織が最終的に目指す変化・効果(アウトカム)の実現に向けた事業の設計図です。インパクト投資においては、ファンドはもちろん投資先企業でもロジックモデル等のツールをつかい、インパクトを可視化し、創出していくためのマネジメントを行っています。セッション1では、SIIFのインパクトオフィサー、田立紀子のファシリテーションのもと、WALLTECH社代表取締役の長谷場咲可さん、同社のロジックモデル作成に関わったカリーファンド投資委員会メンバーの照沼大さんが登壇し、ロジックモデルを作成する意義とロジックモデルにインパクト評価をどう反映していくのかが話し合われました。
 
 WALLTECH社のロジックモデル作成は、現在のバージョンに至るまでに何度も変わっているとSIIFの田立。当初、ファンド側では環境面へのインパクトにフォーカスしたロジックモデルを作成していたと言います。照沼さんは約25年にわたりベンチャーキャピタルに関わってきたキャリアを持ちつつも「ロジックモデルを作ったのは初めて」であること明かした上で、とにかく長谷場さんへのヒアリングに時間を使い、長谷場さんが起業したベースの部分をしっかり確認する作業から始まったと振り返りました。
 そうして完成したロジックモデルは、長谷場さんの思いがつまったWALLTECH社の事業設計図であるとともに、投資家サイドにとっては、自分たちは何に出資しているのかを理解・確認する材料になると言います。ロジックモデルは、「起業家の夢と投資家の思いをクロスさせ、起業家と投資家が足並みを揃えて同じ世界を目指すための航海図であり、コミュニケーションツールである」と言及しました。
 
 長谷場さんは、事業で迷いが生じたときに、最終のアウトカムにこの道を通って辿り着けるのかを判断できるツールになるのがこのロジックモデル。経営陣とも共有しながら、意見が割れた時こそロジックモデルを使って点検し、道筋を確認していきたいと話しました。SIIFの田立は、「ロジックモデルは作って終わりではなく経営に生かしてこそのもの」と結びました。一方でインパクト測定・マネジメントの部分では、KPI化など数字での測定や評価指標をどう設定しロジックモデルに落とし込んでいくかについては、まだまだ課題であると指摘しました。

地域の理想像を追求するのは、企業の本来のあり方

 続く、セッション2にはSIIFインパクトオフィサーの紺野貴嗣がオンラインで参加。「地域とインパクトを意識した経営」をテーマに、地域と企業との関係、インパクトを意識した企業経営について講演を行いました。
 
 「企業が地域に貢献している理想像とは、どんな姿でしょうか?」という問いかけから、企業で働く人は地域の資源であり、それを活用している立場にある企業は「人=資源を使って理想の地域像、社会像を目指していく」ことも合理的であり、それが地域貢献の形であると紺野。さらに、インパクトを意識した経営とは「地域を理想の姿に変えていこうという、意思を持つ経営のこと」と見解を述べました。
 
 さらに先のロジックモデルについても触れ、「ロジックモデルを作るだけでは足りない。ロジックモデルが真価を発揮するのは、ロジックモデルを通して社会変化を生み出すビジネスストーリーを発信し、そこに賛同・共感・協力するステークホルダーを増やしていくこと」だとし、それが結果として、インパクトを起こす経営者や企業、関係人口が増え、大きな社会変化のサイクルを生み出していくと力強く語りました。

セクターを超えてつながり、インパクトを加速する

うむさんラボ代表取締役CEOの比屋根隆さん

 今回はカリーファンドの第一号案件の報告会にとどまらず、インパクト投資を進める上でのロジックモデルの有効性、インパクト経営を進め社会変革を起こす流れなどにまで話は及び、新しい未来を予感させる報告会となりました。

 最後にうむさんラボ代表取締役CEOの比屋根隆さんが登壇し、このような言葉で締めくくりました。
 「沖縄の社会課題を解決するためには、行政もNPOも民間もそれぞれの事業をやりながら全体感を持って一つの方向へ向かうということがすごく大事です。その中で、自分たちはこの部分のインパクトに貢献できていると接合点を確認したり、ファンドを入れてインパクトをさらに大きくしようと働きかけたり。沖縄をよくするためにセクターの枠を超えたつながりを持ち、意見を交換できる場をこれかも作っていきたいと思います。」

 ビジネスによる経済的リターンとインパクト創出の両立を目指し、新しい沖縄の未来を創り出す。その一助をなすカリーファンドが大きく動き始めました。


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