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地域に課題解決を実現するための社会的投資を根付かせる。SIIF設立以来のパートナー、PSI・野池社長インタビュー

note冒頭

右)プラスソーシャルインベストメント株式会社 代表取締役社長 野池 雅人氏 左)SIIF インパクト・オフィサー 古市 奏文 中央)SIIF インパクト・オフィサー 戸田 満

社会的投資推進財団(2019年に社会変革推進機構と合併し社会変革推進財団(SIIF)となる)が設立された2017年、最初に出資したのが京都に拠点を置くプラスソーシャルインベストメント株式会社(以下、PSI) です。以来約4年にわたって、地域社会における社会的投資の仕組みをつくり、定着させるために協働してきました。今回は、PSI代表取締役社長の野池雅人さんをお招きし、これまでの成果と現在の取り組み、そして今後の展望を伺います。

2018年、社会的投資プラットフォーム「エントライ」立ち上げ

古市 PSIとSIIFとの最初の接点は、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)のモデル事業でしたね。

野池 日本財団に、滋賀県東近江市のSIB事業の中間支援組織として採択していただいたのがきっかけだったと思います。当時、先行するSIBは神戸市や八王子市といった大都市の事業で、私たちが日常的にかかわっているような、地域の自治体に適用できるかどうかが課題でした。事業テーマも医療費や社会保障費の削減で、これもまた、小さな自治体では効果が明らかになりにくい。悩んだ末に、補助金を原資とする、東近江市独自の仕組みに読み替えて、何年か実験を繰り返しました。その実験に一定の目途が立ったので、次のステップとして、インターネット上で社会投資ができる、専用のプラットフォームを構想したのです。そのときに、プラットフォームの構築・運営費用をSIIFが出資してくださった。とても重要な判断をいただいたと感謝しています。

古市 そのプラットフォームが、社会的投資プラットフォーム「en.try(エントライ)」ですね。2018年にサービスを開始して約3年になりますが、ここまでで、どんな成果や変化がありましたか。

野池 エントライは住民参加型で小口出資がメインですが、これまでに延べ約1000人から1.6億円ほど集め、50近くの事業を応援してきました。地域の住民が、自分たちの住んでいる地域で、自分たちが必要とする事業を応援し合う、地域内の経済循環が生まれ始めています。一般的なクラウドファンディングは、ともすると大都市から地方への応援になりがちで、それももちろん大事なことなのですが、本当の課題解決のためには、地元の課題や事情をよく分かった人たちが応援し合い、支え合うことが重要だと考えています。PSIが「まず、地域のみなさんに伝える」ことにこだわってきた成果が現れつつあると感じています。

古市 地元の信用金庫の窓口にチラシや相談窓口を置くなど、リアルとネットを組み合わせていろいろ工夫なさったと伺っています。

野池 エントライに参加してくださる方々には、そもそも出資が初めてとか、ネットで金融商品を買うなんて考えたこともなかった、っていう方が多いんです。エントライの、1万円から買えて、1年以内に償還するスキームには、社会的投資の入門としての機能があると思います。コロナ禍以前には、地元金融機関や行政と連携して、頻繁に対面の説明会を開催していました。今はオンライン中心ですが、事業を応援したいと思っていただくためにも、顔を合わせたり、現場を見ていただく必要がある。この取り組みは、今でも大事にしています。

古市 ネットでもリアルでも、いろんなコミュニケーションツールを用意しておられるんですね。

野池 「日本にはそもそも出資の文化がない」といわれることもありますが、たとえば東近江は近江商人ゆかりの土地ですが、近江商人が積極的に利益を地域社会に還元し、また多くのお金をまちに出資してきたということに誇りをもっておられます。また私たちが拠点を置く京都でも「番組小学校」といって、住民の自治で地域の教育インフラをつくり、維持してきた歴史と文化があります。日本でも、自分の出したお金が、自分の身の回りで生きる、そういうお金の使い方をしたい人は少なくないはずです。

古市 いっぽうで、これまでには想定外のこともありましたか?

野池 社会的投資や社会的インパクト投資という言葉が、これほど短期間で拡がるとは想定していませんでした。お金を出す方にも受ける方にも、社会的インパクトを重視する傾向が生まれています。なかでも、法人が社会的投資に乗り出すのはもう少し先になるだろうと予想していたのですが、このところ急激に加速しています。

古市 エントライにも、個人からの出資と法人からの出資を、並行して募るプロジェクトがありますね。

野池 環境省と連携した東近江のSIBでは、地元企業だけでなく、東京の企業からも出資の検討をしていただきました。かつては、「地域限定の事業にお金は出せない、日本全国や世界全体の課題でなければ」と断られることが多かったんですが、最近では、より具体的で課題が明確な地域のモデル事業が、法人の出資先の選択肢に上がってきた。私たちとしては、地元企業と地元金融機関と地元住民の出資が最優先ではあるものの、社会的投資のこうした拡がりは、地域にとっても事業者にとってもありがたいことです。

20年度から、立命館ソーシャルインパクトファンドの運用を担当

古市 法人では、学校法人立命館の「立命館ソーシャルインパクトファンド(RSIF)」も大きいですね。

野池 立命館は学校法人としても比較的規模が大きく、機関投資家としても登録しているんです。これからは社会的投資に取り組みたいと、2020年度から15億円のファンドの運用を私たちに任せてくださいました。拠点が私たちと同じ京都で、北海道に附属中学・高校を、大分・別府に立命館アジア太平洋大学を置くなど、地域課題解決型のビジネスと親和性が高いのでしょう。2020年度は1年間で7.9億円を6社と1ファンドに、現在は1社増えて7社と1ファンドに出資しています。

古市 どんなところに出資しているんですか。

野池 立命館の卒業生を中心に、多拠点居住と空き家問題解決を両輪に掲げるアドレス、各地の酒蔵文化の再興を目指すナオライ、廃棄物のバイオマス処理システムを提供するkomhamなどさまざまです。日本全体を変える大きなテーマというよりは、個々のコミュニティーを活性化し、そのなかから、日本各地の問題を解決するヒントが得られるような事業を選んでいます。出資の方法も、各社の状況に合わせて、株式の場合もあれば、社債の場合もあります。

古市 PSIにとっては、個々の投資家や事業者との連携がとても重要ですね、

野池 それぞれの地域コミュニティーに社会的投資を根付かせていくには、地域の金融機関や市民出資型財団、行政といった、地元に拠点を持つパートナーと連携する必要があります。立命館も、まちではないけれどひとつのコミュニティーですから、こうした社会課題解決型の事業を可視化することによって、新たな展望が開けるかもしれません。大きな可能性を感じています。

21年5月、京都府内の三信用金庫連携で「ソーシャル企業認証制度」創設

戸田 地域の金融機関との連携でいえば、最近「ソーシャル企業認証制度」というものを創設したと伺っています。その内容と狙いを教えていただけますか。

野池 これは、京都市の京都信用金庫、東近江市の湖東信用金庫、京都府北部の宮津市の京都北都信用金庫という3つの信用金庫と龍谷大学が中心になって、2年前から学習会や協議を重ねて一緒に始めた制度です。信用金庫はまさに地域に根ざした金融機関ですから、地域のために金融で何ができるか、改めて真剣に考えようという動機から始まっています。当初は「ローカルインパクト」という視点で協議をしたんですが、それでは伝わりにくいということで「ソーシャル認証」という形でスタートしました。金融機関の視点から、地元各社の事業がその地域にとってどんな意味を持つのかを評価し、可視化していくことがとても重要だと考えています。

戸田 金融機関の側も学んでいくわけですね。

野池 3つの信用金庫の営業エリアは、生活圏としてはつながっていますが、京都信用金庫は都市型、京都北都信用金庫は中山間地域型で、湖東信用金庫は工場が多いエリアと、それぞれ個性が異なります。課題も似ているようで違うので、互いに学び合いながら「ソーシャル」についての理解を深めていく狙いです。コロナの影響で延期になったり、対面型の研修ができなくなったりと、紆余曲折はありましたが、制度をスタートしてから5ヶ月ほどで、およそ360社が認証制度に手を挙げてくださいました。

22年8月に、熊本にサッカーと地域交流の拠点をつくるファンド

戸田 エントライの現在進行形のプロジェクトに「熊本フットボールセンター応援ファンド」(募集期間は2022年3月31日まで)があります。これは、地域にどんなインパクトをもたらすことを目指しているんでしょうか。

野池 熊本市のベッドタウンである嘉島町に、2022年8月にオープンするフットボールセンターです。当初の計画は2015年に始まったのですが、2016年4月の熊本地震で中断を余儀なくされました。2017年に再始動したとき、新たにまちづくりを視野に入れて、復興のシンボルを目指すことになったんです。グラウンドだけでなく、公園やカフェや保育所を併設して、スポーツの強化と地域活動を両立させる、ユニークなフットボールセンターです。目標を実現するためにも、地域の人々の間に「この施設を応援したい」という気運を醸成することが大事ですし、地元の企業に関与してもらうことも大事だと思っています。

戸田 ファンドの募集が始まって半年ほどですが、感触はいかがですか。

野池 先日、コロナ禍が落ち着いてから初めて対面の説明会を開催したんですが、予想を上回る盛況で、活発な意見交換がなされました。わざわざ説明会に足を運んで、まちのために何かできることはないかと発言してくださったわけで、私たちとしても大きな希望になりました。このプロジェクトは個人で10年、法人で20年という長期間の関与をお願いするものなので、継続的にインパクトを発信していけるようにしたいと思っています。

戸田 ビジネスとして考えれば、説明会はネットで完結したほうが効率的だし、ファンドだって社債より株式のほうが収益性が高いわけですが、あくまでも目的を地域の持続可能性において、事業手法もファイナンスも柔軟に選んでおられるんですね。最後に、これから5年後10年後を見据えての抱負をお聞かせくださいますか。

野池 戸田さんがおっしゃってくださったように、既存のスキームにこだわらず、その地域地域に合う、誰もが安心して投資できる仕組みをつくって、まちづくりに貢献できる会社になりたいですね。自分たちだけではできないので、地域金融機関や行政とのパートナーシップを強化していく必要もあるでしょう。また、これまでの経験から、金融そのものを効率化・単純化することで、もっと多くの人にとって使いやすいものにできる可能性も見えてきました。私たちの仕事は、文化というか、風土をつくっていく仕事なので、数年でがらりと変えることは難しいですが、10年20年かけて、社会的投資が確実に浸透していく未来を描きたいですね。

戸田 PSIの課題は、SIIFの課題に直結するものです。これからも、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。

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