見出し画像

新型コロナ・ウィルスに取り組む「新しいフィランソロピー」1  ー米国財団の取り組み (後編)ー

このシリーズでは、米国におけるフィランソロピーの担い手たちが、未曽有のパンデミックにどのように対応したのか、見ていきます。

*この記事は新型コロナ・ウィルスに取り組む「新しいフィランソロピー」1 の続編です。

画像1

まとめ
□フォード財団は債券市場から資金調達して緊急支援を実施。民間財団では画期的であった。
□マッカーサー財団はコミュニティ基金を通じて、小規模NPO等を機動的に支援した。

+++

2020年は新型コロナウィルスの感染拡大が、世界に深刻な影響をもたらした1年でした。
感染者の大量発生により医療機関は疲弊し、人びとの移動制限やレストラン・商業施設の営業規制により経済は深刻な打撃を受けました。特に、保健医療施設が整備されてない低所得コミュニティへの影響は深刻で、さらに失業や収入減が追い打ちをかけ、改めて格差や差別の問題が浮き彫りになりました。

こうした状況のなか、矢継ぎ早に対応を打ち出しその存在感を示した欧米の「新しいフィランソロピー」の担い手たちにフォーカスし、それらの新型コロナウィルスに対する取り組みを、これから複数回にわたりご紹介します。第1回目は、米国の助成財団の事例です。


+++

前編で紹介した団体の活動が行う巨額の緊急支援の財源は、主にソーシャル・ボンドで賄われています。

例えば、フォード財団(米国のフォード・モーターのエドセル・フォードとヘンリー・フォードが1936年に設立した財団で、資産規模は全米第2位の121億ドル)は今回の緊急支援の資金調達のために、10億ドル(約1,050億円)相当のソーシャル・ボンドを発行しました。うち3億ドルは30年物で固定金利2.42%、7億ドルは50年物で固定金利2.82%です。

このボンドは、ムーディーズがAaa、スタンダード&プアがAAAの格付けをし、サステイナリティックスがICMA*のソーシャル・ボンド原則との適合性についての第三者意見を提供するなど、社債市場での資金調達が可能なものとなっています。これにより、フォード財団は従来の2倍以上に資金援助額を拡大することができるようになりました。これまで、民間財団が緊急支援を行うために債券市場から資金を調達した事例はほとんどなく、フォード財団の試みは民間財団の革新的な資金調達手法として注目されています。


+++

また、資金提供手法においても革新的な取り組みが見られました。

例えば、米国でインパクト投資をけん引した財団の一つで、「天才賞」とも呼ばれる奨学金制度マッカーサー・フェローを運営している、マッカーサー財団は、シカゴ・コミュニティ新型コロナウィルス対応基金に350万ドル(約3.7億円)を提供しました。

この基金は、新型コロナウィルス感染拡大を受けてシカゴ・コミュニティ・トラストユナイテッド・ウェイが新たに設立した基金で、短期間に6,000以上の個人・法人から総額3,500万ドル(約36.8億円)以上の寄付金を集め、全額をシカゴ市で活動するNPOやソーシャル・セクター団体の活動支援に支出しています。マッカーサー財団のような巨大な財団が小規模NPOに資金を提供する場合、直接、助成するよりも、こうしたコミュニティ・レベルの基金を通じて資金を提供する方が効率的なのです。また、民間財団が、自身の資金の提供だけではなく、それを呼び水として寄付を集め、より大きなインパクトとすることは、「新しいフィランソロピー」の一つの特徴と言えます。

米国で新型コロナウィルスの感染拡大が危機として認識されたのは2020年2月。それから1ヶ月後には、各地でこうした支援基金が立ち上がり、さらに、わずか3ヶ月後には上にあげたようなフォード財団などの主要財団がこうした資金ニーズに対応するためにソーシャル・ボンドを発行して資金を調達しています。このような機動的な意思決定と、柔軟な資金調達・提供戦略は、まさに米国の「新しいフィランソロピー」のダイナミズムを表しています。


+++

日本においても、このように、財団の活動が機動的かつ柔軟に行われるようになるには、財団の活動を規定する公益法人制度の自由度が、より一層高まることなどが期待されます。


新型コロナ・ウィルスに取り組む「新しいフィランソロピー」2
ーコロナ禍におけるインパクト投資(前編)ー 
に続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?