連載 「今、会いたい投資家」シリーズ vol.5 池森ベンチャーサポート合同会社 ファンケル創業者、池森氏の哲学を受け継ぎ「社会課題に挑む起業家を支援」
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連載 「今、会いたい投資家」シリーズ vol.5 池森ベンチャーサポート合同会社 ファンケル創業者、池森氏の哲学を受け継ぎ「社会課題に挑む起業家を支援」

SIIF

無添加化粧品を定着させたファンケルの創業者、池森賢二氏が2018年に立ち上げた池森ベンチャーサポート合同会社。幅広く社会課題解決にチャレンジする起業家を支援しています。公式HPもなく、プレスリリース配信や公募もしていないので、知る人ぞ知る「隠れ家」的ファンド。その投資哲学について事業統括責任者の山岸朝典さんに聞きました。

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池森ベンチャーサポート合同会社 事業統括責任者 山岸朝典さん
SIIF インパクト・オフィサー 小柴優子

人生の最後に思いを継ぐ若手を支援したい

小柴 池森ベンチャーサポート合同会社はどういう経緯で設立されたのですか?

山岸 ファンケルを創業した池森賢二は従前からベンチャー支援をしたいという思いを持っていたのですが、本業もありこれまで十分に取り組むことができませんでした。株式をキリンホールディングスに売却し会長職を辞した今、人生の最後に社会課題に果敢に挑戦される若手経営者を応援したいという気持ちで立ち上げたファンドです。そういう点では池森のベンチャー支援への熱い想いが詰まったファンドですね。

池森がファンケルを創業した当時、化粧品に入っている防腐剤などで肌荒れを起こしてしまう人が多く社会問題化していました。池森はそうした社会的な負を取り除きたいという思いで会社を興しました。その時の池森の正義感と同じように、本気で社会課題を解決したいというパッションに溢れた起業家を支援していきたい、自分の理念を引き継いでいってもらいたいという池森の想いが詰まっていますね。

小柴 ファンドにはどういう特徴がありますか?

山岸 自分たちでデューデリジェンスして、最後まで付き合いたいと思える起業家、ベンチャー企業に投資しています。LPがいないのでファンド期限がないということが最大の特徴です。ファンド期限がないので投資は急いでおらず、本当に共感できる起業家、ベンチャー企業に出会ったときに投資していこうというスタイルで運営しています。また、フレキシブルに活動していきたいという思いから、合同会社という組織形態をとっています。昔ながらの匿名組合形式になります。

小柴 それはすごく珍しい立ち位置ですね。ファンドの投資哲学を教えてください。

山岸 池森は常に「世の中をもっとワクワクさせたい」と言っています。投資に当たって最も重視していることは、社会課題に対する捉え方や解像度、パッションや人間力に共鳴できるかどうかということにつきます。一方で、ビジネス的な視点もみているので、イメージとしては、エンジェル投資家とVCの中間ぐらいの位置づけになりますね。
まだまだ見えていない社会課題もたくさんあると思うので、投資領域については明確に言語化していません。池森の想いや言葉を大切にしつつ、様々な課題領域に我々もチャレンジしていきたいと思っています。

個人的に「お金を稼ぐことは決して悪いことではなく、稼いだお金をどう使うかが人の価値を決めていく」と思っています。ですので、池森のような経営者が世の中にたくさん出てきて欲しいという思いは常に持っています。

社会課題を解決するには時間が必要

山岸 同時に、サステナブルであるためには、ビジネスとしても成功しなければいけないと思っています。ビジネスとしてしっかりとマネタイズできるか、しっかりと成長できるかという点も重視しています。ただ、その期間を急がない。「5年でイグジットしないといけない」といった時間的な制約はありません。やみくもにIPOを急がなくとも、ビジネスがスケールすればIPOは後から付いてくると信じています。

小柴 そうはいっても、ファイナンシャルに成功するために何かしらのゴール設定は必要ですよね。

山岸 ゴール設定ではありませんが、投資先の多くには他のVCも数多く入っていますし、そのほとんどはIPOという目標を持っています。決してダラダラすることを許容しているわけではなく、社会課題を解決するためには時間がかかることを前提に考えているという事です。一般的なファンドの場合、スキーム上ある程度スピード感をもってスケールしないと投資できません。それは致し方ない事ですが、そのすき間を埋めて“橋渡し”をしていけるという点で我々の存在意義があると感じています。

小柴 投資ステージはどの時期で、どんな伴走支援をしていますか?

山岸 投資ステージは特に限定していません。ファンドの性質上、アーリーステージのほうが相性はいいと思っていますが、現時点ではミドル、レイターにも投資してポートフォリオを組むことが投資回収タイミングの側面からも必要だと考えています。

伴走支援も投資先によってマチマチです。支援に時間をかけるところもあれば、ほとんど関与していないところもあります。必要なタイミングで出来る範囲の支援を行っているイメージです。例えば私であればバックオフィス周りを支援したり、一応公認会計士でもあるので監査役で入ったり、池森のネットワークで大企業とマッチングしたり、人を紹介したりしています。とある投資先では経理メンバーが辞めてしまい、3-4カ月ほど経理・会計を引き受けたこともありました。
ただ最大の支援はやはり池森のメンタリングでしょうね。多くの起業家から好評頂いていますし、ご要望が多いですね。池森だからこそ語れる事や伝わる言葉があると感じています。

自分たちと価値観がマッチする起業家に投資していく

小柴 投資対象となるのは社会課題解決を目指す企業ということですね。

山岸 そうですね。ビジネスで社会課題を解決する企業が対象ですが、それはSDGsに限っているわけではありません。教育分野でいえば、「教育格差をなくす」だけではなく、「個性を伸ばす」「尖ったクリエイティブ人材を輩出する」といったことにフォーカスする教育系ベンチャーにも投資しています。

小柴 最近の海外の富裕層周りではインパクト投資を、バリュー・アラインメント・インベスティメントという呼び方をします。自分の価値観にあっていれば投資するという考え方です。自分が信じているから投資するのであれば、リスクも取れるし、長い時間でも待てる。そういうファンドは貴重ですよね。

山岸 その感覚は近いかもしれませね。価値観が合っているかどうか、我々としてもそこはとても大切にしています。池森とも価値観に共鳴できるかという点はよく議論させてもらっています。我々はビジネスで社会課題を解決する領域を対象としているので寄付行為は行っていませんが、今までビジネスとして成立させることが難しかった領域でも、テクノロジーの進展によってビジネス化できる領域もあると思っているので、そうした領域にも積極的に投資していきたいですね。例えば、いじめを匿名で報告できるアプリを運営するストップイットジャパンにも投資しています。

小柴 今までビジネスにならなかった「いじめの通報」といった事業も、ITを活用することで自治体も低コストで導入できるのでビジネスとして成立するようになる――そういう領域を広げていくということですね。

投資対象はVCや信頼できる人からの紹介のみ

小柴 投資先のソーシングから出資決定はどのようにしていますか?

山岸 基本的には他のVCやSIIFの方々など、我々のコンセプトに賛同して下さっている幅広い方々から紹介していただく形でソーシングしています。HPもないですし、こちらからアプローチすることもほとんどしていないので、もしコンタクトされたい起業家の方がいらっしゃったら、なんとか知り合いなどを介して辿り付いてほしいと思います。
選考プロセスとしては他のVCとほとんど変わりはありません。経営者面談やデューデリを行ったうえで、最終的には池森との面談を行い、早ければ1カ月程度で決定します。これまでの約3年間で19社に投資していますが、最近は問い合わせ案件も多くなってきているので、できれば時間的余裕をもってコンタクトしていただけると助かります(笑)。

小柴 池森ベンチャーサポートのファンドはインパクト投資ファンドであると考えていますか?

山岸 インパクト投資かどうか、あまり意識したことはありません。社会課題の解決を投資領域としていますが、投資先のビジネスが成長することで、社会課題が改善していくと考えているので、社会性に関するKPIを設定したり測定したりしていません。ただ、コンセプトというか、根幹の考え方は近いと感じています。

小柴 会社が成長して行くにつれ、ミッションから逸脱する形で事業がピボットしてしまった場合はどうしますか?

山岸 その場合、端的に申し上げれば「追加投資できない」ということかと思います。ビジネスモデルが課題にフィットしないのであれば、ピボットせざるを得ないということはあるかもしれません。ただその場合でも元々のビジョンや社会性を大きく失っていなければ支援を続けていきたいと思っています。そこまでのミッションドリフトがない起業家を選んでいると信じています。

時に起業家から話をうかがってビジョンや社会課題に共感しても、ビジネスの視点から投資をお断りしなければいけないときは葛藤がありますね。個人的にも起業家のみなさんともっと深いディスカッションができるように視野を広げていくととともに、メンバーの拡充含めてしっかりとした体制を整備していきたいと思っています。

小柴 有難うございます!実は池森ベンチャーサポートさんの活動には以前から注目をしており、SIIFの別事業にて2回ほどインタビューをさせていただいていました。もっと池森ベンチャーサポートさんのことを知りたい方は是非こちらにアクセスしてください。

「新しいフィランソロピーを発展させるエコシステムに関する調査~富裕層の意志ある資産を社会に生かす~」p57-58
ロックフェラー・フィランソロピー・アドバイザーズ著「あなたのフィランソロピーのためのロードマップ日本版」p9 

それでは最後に、SIIFに期待していることがあれば教えてください。

山岸 社会インパクトについて学術的なところや世界の潮流を教えてほしいですね。社会性といっても私が見えている領域は極めて限定的で、目の前にいる起業家が感じている課題感や世界しか見えていないケースも多々あると思っています。もっと高い視座で、我々が捉えきれていない世界がみえるような、そんな新しいエコシステムのハブになって欲しいと思っています。私も引き続き自分たちなりの地図を解像度高く広げていきたいと思っています。


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2013年頃より調査研究に着手し、GSG国内諮問委員会設立や賛同メンバーの招集を皮切りに、インパクト投資における提言書や現状を記した報告書の発行。金融庁共催のインパクト投資における勉強会の開催などインパクト投資の推進のための活動をしています。