見出し画像

ジェンダー・ギャップ指数121位の日本で女性支援を考える【前編】



IMG-0278_横

理事長:坂東眞理子

■シリーズ:ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から■

2019年はSDGsへの関心が高まり、環境問題や格差社会、貧困などの社会課題にフォーカスが当たった年でした。インパクト投資の推進についても、G20大阪サミットにおける安倍総理のスピーチで言及されるなど、これまでになく注目を集め、トップランナーとしてSIIFの役割の重要性を確信した年でもありました。

特に印象深かったのは2019年11月、中国・深圳で見た光景です。40年前、経済特区に指定される以前の深圳は人口3000人程度の貧しい漁村でした。今は1300万人が住む大都市です。見事に整備された街路と高層ビル、中国に多くみられる古い街並みはどこにもありません。ビジネスマンが闊歩し、高齢者の姿を見ない人工的な街。コントロールされた社会では、政府が「ガソリン車をやめる」といえばすぐその方向に整備される。公道で自動運転の実験も始まっていました。

この中国の変化の速さと日本の遅さ。日本国内にいると、それなりに安定して治安もよく食べ物もおいしい。いろいろな意味で「適温社会」ですが、気が付いたら世界が大きく変わっているのに、日本はあまり変わっていない。どちらにもプラス面とマイナス面がありますが、深圳の街を見ながら日本とのスピード感の違いを肌で感じました。自分たちでは変わっている、変えているつもりでも、そのスピード感には差があるのです。

そんな実感をさらに強くしたのが2019年12月に発表された世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)による「ジェンダー・ギャップ指数」でした。日本は153カ国中121位という結果。前回の110位から、またドスンと下がってしまいました。きっと日本の男性の多くは「最近は女性の地位が向上した」、「日本も変わってきたな」と思っていらしたかと想像しますが、その日本の変化はほかの国に比べるとかなりスピードが遅いのです。

こうした状況の中でSIIFが具体的に行っている事業の一つがシングルマザーの支援です。
子ども貧困率は2015年に13.9%まで改善されたと言われていますが、いまだに約270万人の子どもが貧困状態にあります。日本における子どもの貧困問題はシングルマザーの経済的困窮に紐づいています。ジェンダー・ギャップ指数が特に低いのは政治と経済の分野。日本の働く女性の56%が非正社員であり、正社員と非正社員の格差がイコール女性の貧困につながっています。

なぜ女性はシングルマザーで家計を支えなくてはいけなくても非正社員なのか。今まで女性は出産・育児で退職するから再就職が難しくなると言われていました。だから私は、女子学生たちに「継続就業」を基本的な人生戦略だと伝えています。では、現在貧困にあえいでいるシングルマザーに対してどういう取り組みができるのか。一つはシングルで子育てする親を正社員に登用するように法律で強制するという方法が考えられます。障害者雇用率を大企業に課しているように、シングルペアレンツ雇用枠を設定するというのも一つのやり方かもしれません。

もう一つは、起業支援です。SIIFは2019年、静岡市、デジサーチ&アドバタイジング社と連携して「シングルマザー創業支援プログラム」を開始しました。私たちはつい既存の大企業で定年まで働くというライフスタイルを想定しがちですが、今までの枠組みの中ではなく、自分たちが働きやすい職場を自分たちの手で作ることができる。今の社会で女性の前に立ち塞がるバリアと戦うのもいいけど、自分の手でブルーオーシャンを目指そうということです。

ただ、ブルーオーシャンには雨も降れば風も吹きます。プログラムは世界初のアップサイドSIB(税収の増加を評価軸とした成果連動型の官民連携手法)を取り、民間の投資を呼びこみながらシングルマザーの起業を一から支援します。特にSIIFがなすべきは、資金提供だけでなく伴走型の支援です。起業スキルの支援はもちろん、モラルサポートやメンタリングなど、プロフェッショナルサポートで起業の成功率を高めていくことを考えています。ビジネスを遂行していくために必要なノンマネタリーサポートができることは財団の一番の強み。特に子供を持つ女性はつい安定を求めがちですから、起業のリスクを取れるマインドセットをサポートしていきたいと思っています。いくつかの国際調査をみると、中国やアメリカに比べ日本人は自己肯定感が低いことが指摘されます。日本の中でも男女を比べるとさらに女性の方が低い。だからこそ、「やればできる」というマインドセットはとても大事なことだと考えています。

それともう一つ、女性は社会的な意義や人との連帯といったことに価値を感じる人が多い傾向にあります。ユニコーンを目指す起業家にくらべると甘いといわれてしまうかもしれませんが、「人を幸せにする仕事をして自分も幸せになる」という考え方も一つのオプションとして大事にしていきたいのです。「幸せな職場」で「幸せな社会」を作るための活動。それを応援する財団であれば幸せだと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?