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分科会活動報告#04 アセットオーナー・アセットマネジメント分科会〜機関投資家に個人に、インパクト投資の裾野を広げる

インパクト志向金融宣言分科会の活動報告、第4回はアセットオーナー・アセットマネジメント分科会(以下、AOAM分科会)をご紹介します。日本のインパクトファイナンス推進に欠かせない、アセットオーナーの参入促進を課題とする分科会です。科学と金融による未来創造イニシアティブ代表理事の小野塚惠美氏、SIIFエグゼクティブ・アドバイザー安間匡明が共同座長を務めています。

科学と金融による未来創造イニシアティブ
代表理事 小野塚惠美
SIIF エグゼクティブ・アドバイザー 安間匡明

「年金基金」「運用機関」「個人」の3者に働きかける

安間 インパクト志向金融宣言には、銀行・信託銀行・信金信組・生命保険会社・ベンチャーキャピタルと、さまざまな金融機関が署名していますが、まだ参加が得られていない、重要な機関投資家があります。それが、年金基金です。融資や債券の運用期間は5〜10年ですが、生命保険と年金基金は10年を超えます。しかも、日本には世界最大の公的年金基金GPIFがある。その運用資金の0.01%でもインパクト投資に流入すれば莫大な金額になります。さらに、GPIFがインパクト投資をすれば、ほかの年金基金の参入も促されるでしょう。私たちAOAM分科会の課題は、どうすればこうしたアセットオーナーにインパクト投資への関心を持ってもらえるかを模索することです。

ーー具体的な戦略はあるんでしょうか?

安間 分科会では3つのエンゲージメントを挙げています。1つは、年金基金に直接働きかけること。もう1つは、年金基金の投資判断を左右するゲートキーパーや、運用管理を委ねられている信託銀行への働きかけ。3つめは、年金加入者である個人への働きかけです。今は、こうした働きかけのための具体的な方法を検討している段階です。

インパクトは経済的リターンと両立できると伝える

ーーどんな課題が挙げられますか?

安間 公的年金基金は厚生労働省の所管で、リスクテイクには非常に厳しい面があると思われます。企業の年金基金の運用においても、運用手法に関しては大胆な変化は好まれない傾向があります。年金基金にインパクト投資をしてもらうには、最初は比較的リスクの小さい金融商品を、少しずつ年金のポートフォリオに組み込んでいただくしかないのではないか。経済的リターンとインパクトが連動する投資、インパクトが上がれば儲かることが明らかな金融商品から始めていただくのがいいだろうと考えています。

小野塚 多くのアセットオーナーは「インパクト投資は経済的リターンを追うものではない」という先入観をお持ちかもしれません。そうではなくて、経済的リターンとインパクトの両方を追求できるんだと訴えたいですね。また「インパクトは計測不能だ」という誤解もあるようですが、気候変動やテクノロジー分野には、比較的容易に貢献度を測れるものも少なくありません。ありがちな誤解を解いて「社会貢献と経済的リターンの一石二鳥が狙える、インパクト投資をやらない手はない」という気運を高めたい。そのために、AOAM分科会としてできることはあると思っています。

ーー個人に対する働きかけには、どんなことが考えられますか?

安間 年金基金は、もともと個人のお金です。従来型の確定給付年金では、加入者個人は投資先を選べませんが、確定拠出年金の選択肢にインパクト投資が組み込まれれば、選べるようになります。「自分のお金を環境や社会課題解決のために使ってほしい」と考える個人は少なくないはずです。ただ、個人の年金に高いリスクを背負わせるわけにはいかないので、例えば上場株のインパクト投資信託を選択肢に加えていただくような働きかけが考えられます。

小野塚 ゲートキーパーや運用管理者に働きかけるなら、ローリスク・ハイリターンのインパクト投資が受け入れられやすいでしょうね。いっぽうで、個人に対してはむしろ、インパクトの大きさを訴えたほうがいいのではないでしょうか。寄附やクラウドファンディングを通じて社会の役に立ちたいと思う人は多い。「今は、『インパクト投資』っていうかっこいい名前の方法があるんですよ」と伝えてあげたいですね。

安間 海外の企業年金基金は、加入者である従業員に運用先の希望を尋ねるアンケートを行っていますが、日本ではあまり聞きませんね。年金の運用者に対して「加入者とのエンゲージメントの機会を持ちませんか」とお薦めすることも考えられます。

アセットオーナーの疑問や課題を直接聞きに行く

小野塚 アセットオーナー、アセットマネージャーの方々は、インパクト投資に関心はあっても、まだ手探りの段階だということが多いのではないでしょうか。そんなときは、ぜひ私たちの分科会にお声掛けいただきたいですね。方向性は決まっていなくても、何かしらヒントを差し上げることはできると思います。このインパクト志向金融宣言はいろんな人たちに開かれた場ですし、いつでもお待ちしています。

安間 私たちのほうからも、アセットオーナーのところに出向いて、直接ご意見や課題を伺う機会を持ちたいと思っています。直近ではすでに一社、大手企業年金の運用チームにヒアリングする予定があります。具体的には「インパクト投資についてどんな印象をお持ちですか?」とか「インパクト投資に取り組むためには何が必要ですか?」といった基本的なことをお尋ねすることになるでしょう。アセットオーナーの現状について、私たち自身の理解を深めるところから出発したいと思っています。

ーー分科会内部の運営についてはいかがですか?

小野塚 インパクト志向金融宣言のいいところは、みんなが分科会の垣根を越えて前向きに連携したいと思っていることです。AOAM分科会単体でできることには限界があるので、他の分科会の成果にも期待しています。すでにIMM分科会からお声掛けいただいて、相互交流を始めています。IMMの最新情報をアセットオーナーやアセットマネージャーに提供することも考えられます。また、VC分科会ともコラボレーションを検討したいね、と話しているところです。ここには多様な金融機関の人が集まっていますから、それぞれのルートを通じてアセットオーナーに働きかけられることが強みですね。

安間 AOAM分科会にも、もっと多くの機関から参加してほしいですね。特にアセットオーナーをよくご存じのアセットマネジメント会社の方たちには、さらに参加を呼びかけていきたいと考えています。

「自分のお金が、社会を変える力になる」という認識を広げたい

安間 一般に、金融や投資は専門的で難しいものと捉えられがちではないでしょうか。閉ざされた業界で利潤追求にしのぎを削っているような、ネガティブな印象を持たれている気がします。けれども、お金には世の中をよりよく変える力がある。たとえ1人1人が持っているお金の額は小さくても、生命保険や年金のように、まとまれば大きなインパクトを創り出せます。「あなたのお金は、みんなの未来をつくるために生かせるんですよ」というポジティブなメッセージを発信し続けたいと思います。

小野塚 まったく同感です。インベストメント・チェーンって、ともすると、たくさんお金を持っている機関投資家から出発しているように語られがちですよね。けれども本当は、インベストメント・チェーンの出発点であり到達点であるのは、最終受益者である個人です。だから、個人がお金に託すパワーはとても大きい。「自分の声をお金に託せば社会を変えられる」という認識が浸透して、インパクト投資に参加する人が増えてくれれば嬉しいですね。

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