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連載「今、会いたい投資家」シリーズ  vol.7 SDGインパクトジャパン 意思のあるお金の流れを世界から日本へ呼び込む

さまざまな国際機関でグローバルに活躍するメンバーが集まり、2021年1月に設立されたSDGインパクトジャパン。日本やアジアの上場企業を対象に、欧州のサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)第9条に対応した日本初のファンドを設立し、注目されています。CEOを務める小木曽麻里さんに、SDGインパクトジャパンの全体像とその役割について聞きました。

上)SDGインパクトジャパンCEO 小木曽麻里さん
左下)SIIF インパクト・オフィサー 小柴優子
右下)SIIF インパクト・オフィサー 加藤有也


インパクトファンドに流れるお金の量を増やすという使命

小柴 SDGインパクトジャパン全体としては、どんな事業を行っていますか?

小木曽麻里さん(以下、小木曽) われわれの事業には3つ柱があります。1つはインパクトファンドの設立推進です。もう1つは海外のスタートアップの日本での事業拡大を手伝うこと、3つ目はサステナブルファイナンスに関するアドバイザリーで、明治安田生命保険相互会社などと契約しています。われわれのミッションは、海外と日本を結び付けることと、そしてインパクトファンドに流れるお金の量を増やすことだと捉えています。われわれがつなぎ役となり、海外の良いインパクトファンドを日本に紹介したいという想いから事業をスタートさせています。

小柴 実際のプロダクトとしてはどのようなものがありますか?

小木曽 ファンドのプロダクトは3つあります。1つはニュージーランドのIcehouse Venturesと共同で立ち上げた、サステナブル・テクノロジー・ファンドです。同社はNZ政府が出資していて、アクセラレーションなども行うベンチャーですが、インパクトファンドの経験がなかったので、うちと一緒にやることになりました。日本だけでなくアジアのLPからも資金を集めています。2つ目はシリコンバレーのAgFunderと組んだ、アグリ・フードテック分野に投資する「AgFunder SIJ Impact Fund」です。

3つ目は日本とアジアの上場株を扱った「Next Gen ESG Japan」というファンドです。最初の2つはベンチャーファンドですから性質がガラっと違います。これは欧州の新たな規制、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)第9条に対応したファンドで、2021年4月にローンチしました。ESGの課題を特定して個別にKPIを設定し、企業とファンドの両者でその目標に向かってトラッキングしていきます。課題としてはESGのうち、E(環境)の目標が一番大きいですね。CO2の排出量を削減して気温上昇を1.5度内に抑えることを目標にしています。それから全ての企業にジェンダー指標の改善を目標に入れていただき、男女のペイギャップ縮小とシニアリーダーの男女比率改善をお願いしています。現在、ESGレーティングがDレベルで、改善余地が大きい企業をターゲットにしたファンドで、投資先40社はすでに決定しています。ファンドマネージャーには欧州で実績のある人を招き、われわれはエンゲージメントとインパクト評価の部分を担当します。

小柴 ファンドはEUの規制に対応したものなのですか?

小木曽 このファンドはヨーロッパでも売りたいと考えています。いわゆる「SDGsウオッシュ」を回避するために、2021年からEUの非財務情報管理ルールが本格的に始まっていますが、そのカテゴリーに対応したものです。9条に当たるのはまだ3%程度ですが、需要が高まっています。

小柴 40社はどのようにエンゲージメントしたんですか?

小木曽 特に重点的な目標に関しては、ゴリゴリと話し合ってKPIを設定してもらい、今後3年以内の目標数値を合意した上で、年数回ミーティングを持ちながらトラックしていきます。私はジェンダーを担当していますが、企業側も「やらなくてはいけない」というプレッシャーはありながら、どう進めればいいかで悩んでいるところもあるようです。大企業であればこうした目標達成が進んでいますが、中堅企業だとまだサステナビリティの担当者がいないこともあるので、そういう企業とも一緒に進めています。

海外の資金がアグリ系日本のスタートアップに届きにくい現状

小柴 2つのベンチャーファンドにおけるSDGインパクトジャパンの役割は何ですか?

小木曽 インパクト計測と日本の投資家につなぐこと、日本のスタートアップをサポートすることですね。特に、アグリ・フードテックの分野は日本から出る資金も少ないし、海外から日本のスタートアップへのアプローチも難しい。だから、フードアグリ分野で脱炭素やフードロス、再生農業、デジタイゼーションに取り組んでいる日本のスタートアップにもっとアウトリーチできるようにしていきたいですね。来年はシンガポールでアクセラレータプログラムを行うので、日本のスタートアップにも出てほしいと思っています。そうすると、グローバルなLPにつながる機会も増えていきます。

加藤 シンガポール開催となると、ある程度英語対応は必要ということですよね。

小木曽 そうですね。こちらでもある程度サポートしたいと思っていますが、そこは乗り越えてほしいですね。私も英語でプレゼンするのは気が重いですが、英語のできる人材を1人入れていただければなんとかなるはずです。

web上で管理できるシステムでインパクトを可視化する

小柴 設立したのは「インパクトファンド」と呼んでいいのでしょうか?

小木曽 そうですね。これまでもずっとインパクトファンドに関わってきましたが、個人的に、インパクトファンドの定義とは、投資家レベルでもファンドレベルでもソーシャルなオブジェクティブがあり、それがKPIに落とし込まれていて、トラックされているものだと思っています。アーリーのベンチャーの場合は、インパクトファンドのガイドラインも、ほぼない状態ですが、ロジックモデルを立ててKPIをトラックしていくという形では同じだと思います。そういう意味ではインパクトファンドだと思います。

ベンチャーの場合、まだプロダクトが出来上がっていないので、そこまでち密にできないんですよね。だから、最初にオブジェクティブを立てて、セオリーオブチェンジを行い、売り上げが立ったところからKPIを取り始めようと考えています。これからはインパクトが管理しやすいようなwebベースのシステムを入れたいと考えています。

小柴 webベースのシステムとはどういうものですか?

小木曽 すでにグーグルにも採用されているようですが、teetyという会社のシステムで、うちがアジアで初めて契約することになっています。最初にその企業のポジティブインパクトとネガティブインパクトをヒヤリングして、何をKPIに取るかを決め、システムをつくり、webで実際の数字やその影響について管理します。常にいろいろな人がサイトで見られるようになるので、毎年報告書を出す必要もなくなる。さらに、その事業が気に入った人は、寄付できる仕組みも作れます。これなら会社にとってもプラスになるし、システムとして常にインパクトが管理できる。

結局、ベンチャー投資をしている会社でもインパクト評価のノウハウがほとんどないし、ベンチャー企業で細かくインパクトの数値を管理するのも難しい。だから、こういうwebシステムは急激に広がるのではないかと思っています。同社のシステムはグローバルで300カ所ぐらいに採用されていると思います。やっぱり自社のサイトに数値を載せることで、外に向かってアピールできるのがいいと思うんですよね。年1回の報告書ではなかなか周りに届かないですけど、サイト上であれば常に可視化できる。

小柴 今、こういう評価システムの開発が進んでいますね。

小木曽 特にESGの流れでCO2の測定システムなどはいろいろありますね。だから今後、いくつかに淘汰されていくとは思います。うちで提供しているサステナビリティ評価ツールRIMMの特徴は、自分で数値を入れて自分で管理できるところです。まだ一般的にESGの分野では一方的に評価されるツールのほうが多いですよね。しばらくはいろいろな管理ツールが増えるかもしれませんが、その分、可視化は進むと思います。

日本でトリオドス銀行のミニ版を目指したい

小柴 システムの利用が進むといいですね。SDGインパクトジャパンはさまざまな経歴の方が集まって設立されていますが、どういうミッションで集まられたのでしょうか。

小木曽 われわれは、サステナブルファイナンスに特化した会社を作りたいと考えて集まりました。よく「お金に色はない」と言われますが、私たちはその逆で、「お金に色はある」と考えています。そのお金が社会にどのような影響を及ぼすかを考えるべきだと。いわばトリオドス銀行のミニ版ですね。今のところはまだ自分たちで商品をつくるまでの力はありませんが、海外と日本をつないだり、ESGとインパクトをつないだり、メインストリームとソーシャルをつないだり、その間を深掘りすることでインパクトの世界を広げていきたいと考えています。だから既に出来上がったところより、その狭間をついていきたい。今回のファンドもそうです。インパクト投資というカテゴリーだけに収まるのではなく、すべての投資がインパクトを考えるように推進していきたい。すべての投資がインパクトを計測していくようになると、世の中が変わるのではないかと考えています。だから、できるだけインパクトのバーを上げないで、さまざまな商品のインパクトを深掘りしていきたいですね。

小柴 ベンチマークはトリオドスなんですね。

小木曽 それは私が思っているだけで、みんなそれぞれ違うかもしれません(笑)。ただ、トリオドス銀行は金融機関なのに、サステナブルファイナンスに特化している。そういう金融機関はアジアにはないんですよね。だから、その役割ができるといいねという話はよくしています。

加藤 日本の起業家が投資してもらいたい場合は、どうアプローチすればいいですか?

小木曽 webサイトから問い合わせいただくか、来年のアクセラレータプログラムに応募していただくといいですね。われわれもいいスタートアップを探しています。

<ファンド概要>
・ファンド名称:AgFunder SIJ Impact Fund
・ファンド運用者:AgFunder, SDG Impact Japan
・設立日:2022年4月
・ファンド規模:30〜50億円<投資方針・対象>
・投資哲学・理念:持続可能な農業及びフードシステムの構築を目指し、サプライチェーンの川上から川下までに関わる技術に投資していきます。具体的にはCO2の削減、再生農業やフードロス、デジタル化、といった分野において、成長とインパクトが見込まれるアーリーステージのスタートアップに投資していきます。・投資対象・テーマ・セクター:アグリフードテック
・投資対象ステージ:シードからシリーズA
・投資金額:未定(100-500千ドル)<投資・支援手法>
・投資手法: ※優先株式、転換社債など、ファイナンス手法
優先株を含む株式、転換社債など
・投資回収手法:M&A、IPOなど
・非財務支援:AgFunderメディアやネットワークを通じたマッチアップ支援、アクレラレータープログラムへの応募支援、状況に応じてSIJによる国内外の投資家等とのマッチアップ支援など

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