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SIIFとシステムチェンジを目指す意義とは? Zebras and Company 田淵さんと語る「Systems Change Collective」事業

ゼブラ企業」への投資や経営支援を志して、2021年に設立された株式会社Zebras and Company。SIIFの支援先の1つです。共同創業者の1人で、代表取締役を務める田淵良敬さんは、かつてSIIFの一員でもありました。
 
 ここでは、内側と外側、両方の視点からSIIFをよく知る田淵さんと、SCC事業を担当するSIIFインパクト・オフィサー加藤有也、SIIF常務理事工藤七子が、「SIIFとシステムチェンジ」について語ります。図らずも、田淵さんの個人史とSIIF、そしてインパクト投資のヒストリーが重なり合う鼎談となりました。


SIIF草創期から存在した「システムチェンジ」につながる思考

工藤 田淵さんがSIIFに参画してくださったのは、設立初期の2018年でしたよね。

田淵 まだメンバーも少なくて、組織そのものをこれからつくっていこうという段階でした。インパクト投資やソーシャル・インパクト・ボンドに挑戦しつつ、エコシステムビルダーとしての役割も模索していた。「はたらくFUND」も、設立に向かって動き始めたところでした。そんな時期だったので、私自身も多様なプロジェクトに関わることができました。

加藤 その頃のSIIFについて、どんな印象をお持ちでしたか?

田淵 とてもオープンな雰囲気で、チームづくりが上手だったと記憶しています。私自身はフルタイムではなく、業務委託として部分的に参画していましたが、立場の違いを感じることはなかった。みんなが同じテーブルについて、対等に、自由に意見を言い合える環境でした。心理的安全性が確立された組織といえるんじゃないでしょうか。

例えば、情報管理に厳しい組織では、正規職員とそうでないメンバーとの間で情報格差が生じることがあります。そういう組織に業務委託で参加すると、自分の持つ「機能」を提供することはできても、議論に加わることは難しいんですよ。前提となる情報が違うと思えば、意見を述べることが憚られますから。

SIIFでは、そういう壁を感じたことはほとんどありませんでしたね。工藤さんは聞けば何でも答えてくれるし(笑)。みんなと同じ情報が前提にあると思えるので、主体的に考えることができる。SIIFの一員として、言うべきことはちゃんと言わなければ、なんて思うようになるんですね。定例の戦略ミーティングにも参加して、2時間、3時間と議論が尽きなかったことは、楽しい思い出です。

工藤 あの頃はまだ「システムチェンジ」という言葉こそ使っていなかったけれど、「課題を解決するには、対症療法ではダメだよね」という議論はしていましたよね。

田淵 そのことは、はじめからSIIFのDNAに刻み込まれていたと言っていいんじゃないですか。

2010年代、ともに日本におけるインパクト投資の幕開けに関わる

工藤 田淵さんは、SIIFに参画する前からインパクト投資に関わっておられたんですよね。

田淵 ソーシャル・インパクトを意識し始めたのは2009年ぐらいからですね。それで、ソーシャルビジネスを学ぼうとヨーロッパのビジネススクールに留学しました。学生主導の大規模なカンファレンスの運営チームにも参加して、担当したパネルのテーマが「ベンチャー・フィランソロピー」でした。

工藤 田淵さんがビジネススクールを卒業して帰国されたのが2011年。実は、私がアメリカの大学院を修了して日本財団に入り、ベンチャー・フィランソロピーのプロジェクトに取り組み始めたのと同じ年なんです。

田淵 東日本大震災が起きた年でもあって、いろんな人が同じような問題意識を持って行動し始めていたんですよね。ただ、その当時はまだ、私の視野に国内の動きは入ってこなくて、同じ土俵で対話できるのはビジネススクールの同窓生ぐらいしかいないものだと思っていました。就職先に選んだのはスイスに拠点を置く LGT Venture Philanthropy (LGT VP)です。

その後、工藤さんを紹介してもらう機会があり、縁があって2012年11月に日本初の本格的なベンチャー・フィランソロピー組織として立ち上げられた、一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)へ転職しました。SIPと日本財団は共同でファンド運営をしていたので、私は工藤さんとは共同事業者として一緒に働くことになりました。まだインパクト投資という言葉も定着していない、本当に黎明期だったと思いますね。

工藤 日本財団の中に社会的投資推進室を立ち上げたのが2014年です。この年に民間代表としてG8社会的インパクト投資タスクフォース(現在のGSG)にも加わりました。日本のインパクト投資の幕開けですね。

そして、私たちが日本財団から独立して、SIIFの前身である社会的投資推進財団を設立したのが2017年。田淵さんはその翌年から参画してくださったわけです。Zebras and Company の構想は、いつ頃から練り始めていたんですか?

田淵 SIIFにいた2018年頃から、関連情報を集めたり、いろんな人の話を聞いたりする中で「2、3年後には、日本でもインパクト投資ファンドが立ち上がるんじゃないか」という予測を持つようになりました。それなら、一番乗りのタイミングで起業できればいいな、と考えて、頭の中で構想を練り始めたんです。

その構想を具体的に人に見せられる形にまとめ始めたのが2020年あたりで、工藤さんにもいろいろ相談させてもらいましたよね。並行して資金調達を進め、2021年3月に Zebras and Company が誕生しました。

これと前後して、GLIN Impact Capital が創業したり、talikiファンドが始まったりと、同時多発的に複数のインパクトを志向するファンドが立ち上がりました。小規模ながら「業界」が形成された。予測が的中したな、と思いましたね。

工藤 まさにその頃を境に、インパクト投資のメインストリーム化が一気に進んでいったように思います。

システムチェンジを志す人々の「マザーシップ」的な存在に

田淵 インパクト投資の黎明期を支えたのは、既存の金融やビジネスの世界でキャリアを積んだ人たちだったと思います。東日本大震災などを契機に、自らの持つ知識や経験を社会に還元する方法を模索して、インパクト投資にたどり着いた。

でも、最近のプレーヤーは、まず社会課題に対する強い問題意識が先にあり、中心軸にある。リスクとリターンに加えてインパクトを追求する、というような考え方ではなくなっているように感じています。

彼らは、「インパクト投資」とか「システムチェンジ」といった用語は使わないけれど「地域に新しいエコシステムを構築し、そこにファイナンスを組み込みたい」というような話をするんですよ。

工藤 それは「システムチェンジ」につながる動きといえそうでしょうか?

田淵 そうですね。たとえばある地域の課題を解決しようというときに、個々の企業に資金を提供するだけでは、地域全体の課題解決は難しいですよね。事業者、金融機関、メディアなど、地域にかかわる様々なプレイヤーを巻き込み、動かしていかなければならない。そのためには、みんなが共有できるビジョンが必要になりますが、一体それを誰がつくるのか。そんな役割を担おうとする人が増えてきている気がします。

実は、Zebras and Companyも地域に限定してきたわけではないですが、振り返ると近しいことを行ってきたと感じています。我々 は投資家ではあるけれど、それだけではなくて、経営支援もするし、PRもするし、もっと踏み込んだ協業もします。さらに、アドボカシーに類する活動にも取り組んでいます。創業当時、まだ世に知られていなかった「ゼブラ企業」というコンセプトを掲げて共有できるビジョンをつくり、政府やメディアを巻き込んで、その先にいる一般の人々に届けていきました。政策をつくる人や世論形成に働きかける人と、現場で活動する人の間を行き来することで、システムに働きかけることができるのではないでしょうか。

工藤 それはつまり、投資家の役割を拡張する、ということでしょうか。

田淵 SIIFなら、投資家としてだけでなく、中立的な立場で、いろんな役割を担っていけるんじゃないですか。

工藤 ただ資金を提供するだけではなくて、例えばビジョンをつくり、共有する。さらに、そのビジョンを実現するために、お金以外の様々な機能を提供していく。それは、SIIFはもとより、これからのインパクト投資家のあるべき姿なのでしょうね。

加藤 その中で、SIIFが果たすべき役割はどんなことだと思われますか?

田淵 「マザーシップ」になることではないでしょうか。少なくとも、 Zebras and Company にとってSIIFはマザーシップのような存在です。具体的に言うと、「何でも相談できる相手」です。

例えば、何かの事業を進めるとき、資金調達なら投資家に相談し、戦略なら戦略コンサルタントに相談し、マーケティングならマーケッターに相談し、と機能によって相手を分けなければならないのが一般的ですよね。

でもSIIFなら、そのいずれかの機能にとらわれず、まだ機能が未分化の段階であっても、柔軟に相談に乗れるのではありませんか。Zebras and Company の始まりの頃もそうでした。だから、さらに多くのプレイヤーにとってのマザーシップになってほしい。

加藤 それこそがまさに、今回の「Systems Change Collective」事業で私たちが目指すべきことかもしれませんね。

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