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インパクト投資の過去・現在・未来~コレクティブアクションで変革のスイッチを入れる PEI Responsible Investment Forum: Tokyo2022参加レポート

SIIF常務理事 工藤七子

 2022年6月9日、シャングリ・ラ東京で行われた「PEI Responsible Investment Forum: Tokyo2022」のパネリストとして登壇する機会をいただきました。同じパネルの登壇者は、はたらくFUNDを運営する新生企業投資株式会社インパクト投資チーム ジェネラルパートナーの高塚清香さん、一般社団法人ソーシャル・インベスト・パートナーズ(SIP)代表理事兼CEOの鈴木栄さん。それぞれの立場で、日本のインパクト投資の未来について話し合いました。

https://www.peievents.com/en/event/pei-responsible-investment-forum-tokyo/


大事なのは投資家のインテンショナリティ

 インパクト投資とは、ご存じのように経済的リターンと社会的リターンが両立する投資です。その中心となる概念が「インテンショナリティ(投資家の意図)」だと思います。投資した会社にたまたまインパクトが出るのではなく、投資家がインパクトを意図して投資する。だからこそ、その課題が実現するかどうかを確かめることが重要となり、インパクトの測定が必要だということになります。投資先が出しているインパクトを事後的に集めて整理して計測すれば良いということではなく、投資家側が「どういう課題を解決したいか」という意図を持つことが出発点だと考えています。

 投資家が自ら解決したい課題を定め、そのレンズで投資先をサーチしていく。この順番がとても大事なのです。サステナビリティの開示基準がグローバルに進んでいる中で、ESG投資でもダブルマテリアリティの考え方が広がるなど、インパクト投資との境界線があいまいになっています。そこには、はっきりとした区切りがなくてもいいと、私個人は思っています。ただ、投資家として達成したいインパクトのゴールを持った上で投資するという点が重要であり、それが大きな違いです。

市場競争力のあるリターンを追求している

 インパクト投資は財務リターンと結びつかないという誤解はまだあると思います。インパクト投資という用語が誕生した2007年当時は、財団や開発機関が途上国などに投資するケースが多くあり、そのイメージがベースにあるのだと思いますが、現在は市場でインパクト投資を標榜しているもののほとんどが、市場競争力のあるリターンを追求しています。

 グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)の調査によると、投資家の88%*が「期待通りもしくはそれ以上のリターンを獲得」という報告もあります。ですから、今は金融メインストリームにある投資家の目線でも、満足できるインパクト投資が多く設計されています。ただ、すべての投資領域で経済的リターンと社会的リターンが正の相関を描けるとは証明できていません。だからこそ、リターン目線の異なる投資家によって、インパクトレベルを掛け合わせていく必要があるでしょう。


*出所: GIIN、「インパクト投資家による年次調査」2020年版


 インパクト投資の未来は未知数ですが、日本でインパクト投資を広める活動を始めた2013年頃と現在を比べると、隔世の感があります。2021年11月には21金融機関に「インパクト志向金融宣言」に署名していただき、インパクト投資のプラットフォームを立ち上げることができました(2022年6月現在32の金融機関)。これは感慨深い思いがあります。

インパクト投資の未来と課題

 ここから数年の未来で、話題になるであろう課題の1つが「インパクトウォッシュ」です。グローバルにはインパクトウォッシュを回避する動きが始まっています。日本でも、これから重要なアジェンダになってくるでしょうし、ここが頑張りどころだと思っています。見せかけだけのインパクトを防ぐためにも、きちんとインパクトを測定し、本当に課題を解決できているか評価することが大切です。ただ測るというだけではなく、クリエイティブなプロセスとして、可視化し、透明性を高めていくことが必要になってくるでしょう。

 もう1つはコレクティブアクションです。一投資家としてできることは本当に限られています。1つのファンドが投資できるのはせいぜい20~30社だとすると、起こせる変化には限界がある。様々なインパクト投資家やインパクト企業の集合としてどれだけ課題解決を進められるかが勝負だと思います。課題先進国の日本にはどういう課題があるのか。どのスイッチを押すと、悪循環が好循環に変化していくのか。システム自体を変えるレバレッジポイントをみつけ、業界全体で共有されることで重要なところにリソースが投下されるような仕組みが出来ると良いですね。課題の仮説とそれぞれの取組の学びが業界で共有されていくと、個別のファンドや投資家も動きやすくなるはずです。

 2021年のCOP26でGFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)が発足し、グローバルな金融機関が「2050年カーボンニュートラル」にコミットするようなアライアンスができたように、金融機関がコレクティブに社会課題に取り組むようなことができると、重要なところにしっかりお金が回る仕組みができていくと思います。これはまだ妄想の世界ですが、このコレクティブアクションのハブとなるようにSIIFも取り組んでいきたいと思っています。

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