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分科会活動報告#07 定義・参入分科会〜民間の連携で独自基準を設定。今後もブラッシュアップを予定

インパクト志向金融宣言において、署名機関のインパクトファイナンス投融資実績を把握し、発信するためには、共通の基準が必要です。定義・参入分科会は初年度、説明会を繰り返し開催し、現場の意見を吸い上げながら、独自の算入基準を設定しました。2023年1月に発行したプログレスレポートでは、この基準に基づいて、インパクトファイナンスの投融資残高を集計し、公表しています。

現在は次のレポート作成に向けて、基準の再検討に取り組んでいるところです。座長を務めるSIIF・小笠原由佳が、これまでの振り返りと今後の論点を報告します。

GIINの定義に準じつつ、独自にレイヤー別の算入基準を設定

インパクトファイナンスの定義そのものは、GIINによる既存の定義「経済的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資」に準拠しています。ただ、実際に数字を出すときの基準については、国や調査によって違いがあります。

国内にはGSG国内諮問委員会の年次調査がありますが、ここでも算入基準は年を追って進化しています。かつてはインパクトを求める意図さえあればインパクトファイナンスとしていましたが、現在では、「投資判断から実行後まで一貫してIMMを行っていること」、「その結果を投資家と共有すること」が求められています。

私たち定義・参入分科会は、GSGの基準を参照しつつも、一方ではより意欲的な取り組みを目指し、一方では実務者の意見も採り入れながら、検討を進めました。

インパクト志向金融宣言の署名機関は、組織の規模も、アセットクラスもさまざまです。なおかつ、すでにインパクトファイナンスの取り組みが進んでいる機関もあれば、始めたばかりの機関もあります。そこで、算入基準には取り組みレベルに応じたレイヤーを設けることにしました(下図)。

インパクトファイナンス算入基準のマトリックス

レベル分け自体に異論はありませんでしたが、どこで線を引くかは問題でした。焦点になったのは「ネガティブインパクト」の扱いです。例えば、社員数人の国内スタートアップに投資する場合、そこが児童労働や環境汚染のようなネガティブインパクトを生むことは、そもそも考えられません。他方で、上場企業を対象にする場合は、ネガティブインパクトに注意を払わなければ、インパクトファイナンスとは言えないでしょう。

そこで、「レベル1」はインパクト創出の「意図」・「戦略」とアウトカムまたはアウトプットの「測定」にとどめ、「レベル2」の条件に「特定されたポジティブなインパクトの創出および重大なネガティブインパクトの緩和に向けたマネジメントの実施」を加えました。

コレクティブな議論で基準を決め、自ら評価し公表

従来、こうした基準は国や公的な機関がトップダウンで設定するものでした。今回、組織やアセットクラスの垣根を超えて、民間同士でコレクティブに議論して決めたことは、誇るに値すると思っています。議論の過程では、「インパクトファイナンスの本質的な要件とは何か」「実務上の課題は何か」といったことを、率直に話し合うことができました。

2022年は初回でしたので、分科会で作成した算入基準ガイダンスに沿って、各署名機関の判断で残高を算出していただきました。自らの実績をレベル分けし、数字を発表したことそのものに大きな意味がありますが、今後さらに切磋琢磨していくための土台にもなることでしょう。

22年9月末の残高は、レベル1とレベル2の合計で3兆8500億2700万円に達しました。この数字の評価は一概には言えませんが、今後も増えていくトレンドにあることは、間違いないと思っています。

インパクト志向金融宣言とGSGの調査を同時進行。分科会も体制変更

今年もプログレスレポートの準備に取りかかる時期になりました。今年からは、SIIFが事務局を担当するGSGの調査も同時に行う予定です。現在、2つ併せた調査の方法や、算入の定義について再検討しているところです。なるべく調査対象機関のご負担を軽減しつつ、2つの調査の整合が取れる方法を考えたいと思っています。

インパクト志向金融宣言署名機関には説明会にご参加いただき、昨年のレポートに対する反省点や改善点についてご意見を伺う計画です。

なお、当分科会はじめ、全署名機関に関係する「IMM分科会」「海外連携分科会」は、今年から「企画チーム」に移行します。分野別の「地域金融分科会」「ソーシャル指標分科会」「VC分科会」「アセットオーナー・アセットマネジメント分科会」は、現行のまま活動を継続する予定です。

 

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