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『2023年度インパクト投資に関する消費者意識調査』リリースにあたって

■はじめに

このたび社会変革推進財団(以下SIIF)では、2023年度の「インパクト投資に関する消費者調査」の結果を発表しました。
以前にもこのブログで分析結果を紹介しましたが、過去4回の消費者調査(2019~2022年度)では約4,000人規模の定量調査を実施し、インパクト投資に対する消費者の認知度や関心度について様々なデータと知見を蓄積することができました。

2023年度は、更にその背後にある心理動向、意識形成プロセスを探りたいとの考えから、定量調査の代わりにフォーカスグループ(いわゆるグループインタビュー)による定性調査を行うこととしました。
なおこのフォーカスグループ調査はSIIFインパクト・エコノミー・ラボの織田と佐々木が担当し、実施に当たっては今までの定量調査に引き続き株式会社マクロミルに調査業務を委託しました。

レポート本体も是非お目通しください。

日本語版:
https://www.siif.or.jp/wp-content/uploads/2024/02/2023_impact_chousahoukoku.pdf

英語版:
https://www.siif.or.jp/wp-content/uploads/2024/02/English_2023_Impact_Investing_Qualitative_Consumer_Survey.pdf

■フォーカスグループ対象者のセグメント

今までの定量調査の蓄積により、以下の世代がインパクト投資商品の顧客層として有望ではないかと推測されてきました:

・20代および30代
投資経験ある20代、30代(Z世代やミレニアル世代)はインパクト投資への認知度、関心度が高く、現状の金融資産額が少なくても将来の顧客として有望。

・60歳以上
60歳以上は全体としてはインパクト投資への認知度、関心度は低い。ただその世代は金融資産額も大きく、投資経験ある人に限れば、一定金額(50万円以上)をインパクト投資に回してもよいという人の割合が20代30代と同程度おり、むしろ50代よりも高い。

そのため、このフォーカスグループでは調査の効率性の観点から以下の4セッションを組むこととしました。
  グループ1 男性 20代、30代  (4名)
  グループ2 男性 60歳以上 (4名)
  グループ3 女性 20代、30代  (4名)
  グループ4 女性 60歳以上 (4名)

(もちろん、40代50代が重要ではないと言っているのではありません。ただ、インパクト投資の将来のリテール向けマーケティング施策を考えるうえで、まずは20代、30代、および60歳以上に対し、先行して焦点を当てるべきと判断しました。)

■事前のスクリーニング

フォーカスグループを実施する目的には、インパクト投資のリテール市場開拓のためのヒントを引き出すことも含まれます。ですので、もともと投資をやっていない人や、社会課題可決に関心の薄い消費者を闇雲にリクルートしても実のあるフォーカスグループにはなりません。
そこで、事前にインターネットによるスクリーニングアンケート調査を実施し、フォーカスグループ参加者を絞ることにしました。

抽出条件は
①現在投資を行っている人、かつ 
②(インパクト投資の説明を行ったうえで)インパクト投資に関心があると答えた人
です。

■フォーカスグループの実施と質問の流れ

4つのフォーカスグループを2023年9月23日(祝土)、24日(日)の2日に分けて実施し、その場の発言に応じて臨機応変に対処するものの、以下のような流れに沿ってフォーカスグループ参加者の意識を探っていきました。

投資に必要な情報をどこから得ているか? どんな社会課題に関心があるか?
            ↓

インパクト投資を知っているか? 実際にインパクト投資を行うことに関心はあるか?
            ↓

どのような分野へのインパクト投資に関心があるか?

■経済全般や投資に関する主要な情報源

普段使っている情報入手チャネルは世代間で差が出ています。男女とも20代30代ではネットが中心であり、シニア層もネットは見るが、TVや紙媒体といった伝統的メディアを併用しています。男性はTV等で知った情報をネットで深堀りするとのこと。

主だった発言を取り上げてみます。
『YouTubeのインフルエンサーなど、登録者数の多い人を参考にする』(20代女性)
『証券会社のメルマガ、コラム』(30代男性)
『TVを見て、気になることは検索して詳細をチェック』(60代男性)
『投資関連のTV番組(テレ東、MX)』(60代女性)

■関心のある社会課題

このパートは男女差が最も目立ちました。男性は気候変動問題など地球規模の社会課題に関心を持つと回答した反面、女性は子どもの貧困など、「困っている人の顔が見える」ような身近な社会課題に共感し、社会貢献意識が刺激される様子が見られます。また女性は、「社会課題」「環境問題」と大上段にアプローチされると、「難しい、分からない」と抵抗感が生じてしまう傾向がみられました。

なおグループ4(シニア男性)でも、60代の2名が年金問題、高齢者福祉を自分事として不安視しているのに対し、70代の2名はさほど心配しておらず、「逃げ切った」感が垣間見えます。

『特に気候変動。今年(2023年)は暑かったのでなおさら実感する。』(30代男性)
『今後もうちょっと長生きするとしたら、その頃日本や世界の夏は45度とか、冬はマイナス何℃とかだったら生活しづらい。』(20代男性)
『一番関心があるのは酷暑、この環境。あとは年齢的に、今後の生活の福祉とか年金関係に一番興味がある。』(60代男性)

『環境についても考えないわけではないけれど、かといって何かやっているというわけでもない。』(20代女性)
『親の介護は結構不安なことが多い。高齢者問題もある。』(20代女性)
『今は特に人手不足の問題がある。教育、保育、介護の部分では、かなり切迫している問題だと思っている。』(30代女性)
『ニュースでよく聞く母子家庭の貧困。夏休みになると給食がなくなり、2学期に痩せてくる子が多いとか。そういうことがすごく気になっている。』(60代女性)
『温暖化は説明がないと分からない。寄付したものが何に役立つのか。例えば子ども食堂の運営に行きますと言われるとかじゃないと、漠然と支援と言われても分からない。』(60代女性)

■インパクト投資の認知度

今回のフォーカスグループ参加者は、事前のスクリーニング調査で、(認知しているかどうかに関係なく)実際にインパクト投資を行うことに関心を持つ人を選んでいます。
そのため、どのグループも1名か2名はインパクト投資という言葉を聞いたことがある人がいます。ただ、理解は曖昧な人が目立ちます。また、「(インパクトという)名称と意味が繋がりにくい」という指摘も寄せられました。

『スマートニュースのタブでお金とかファイナンスがあるが、そこで見た気がする。これから伸びるというか、投資する人が増えそうな気がした。』(30代男性)
『株式ジャーナルで見たことは見て素通りしていってしまった。内容まではよく分からなかったけど名前は知っていた。』(70代男性)
『就活していたときに金融業界をチラッと見ていて、その時に知ったのかもしれないけれど定かではない。』(20代女性)
『雑誌とかで見たことがあるかもしれないが、はっきり記憶にない。』(70代女性)
『私も聞いたことがあるかもしれないけど、よくは知らない。』(60代女性)

■「インパクト投資」という言葉に対する認識

今回のフォーカスグループでは、インパクト投資の認知度を尋ねた際、「インパクト投資」という言葉への違和感が過半の参加者から寄せられました。この傾向は、もともと言葉を知っていた人も知らなかった人も変わりはありません。

『インパクトという語感から感じるものと意味が違う。「すごく値上がりしそうな、インパクトある銘柄」という印象を受ける。』(30代男性)
『普通、衝撃みたいなイメージだけど、それ以外の社会的なリターンということが言葉からは全く想像がつかない。』(60代男性)
『インパクトと言う横文字が、あまりスッと入って来ないので、図解して詳しく説明してくれればもっと興味を持つのかなと思う』(20代女性)
『日本語に置き換えられるなら置き換えた方がいい。あるいは「インパクト投資」と日本語をセットでしばらく見せるとか。』(60代女性)

日本の言語環境では、「インパクト=衝撃」などと想起され、「社会課題解決」と結びついておらず、そのことが、認知度向上や関心度向上へのバリアーとなっているようにも考えられます。
フォーカスグループを実施したことで、過去の定量調査では把握しづらかった消費者の本音が浮かび上がってきたと言えます。

■インパクト投資を行うことへの関心度

元々、インパクト投資への関心度が多少なりともあるフォーカスグループ参加者をスクリーニングしているので、総じて『自分の投資したお金が有効活用されるなら良いと思う。社会貢献したという実感があれば嬉しい』との意見です。

ただ一方で、『利益が出なそう』、『社会貢献できる企業かどうか疑わしい』(=いわゆるインパクトウォッシュ)との懸念もあります。

『他の企業投資に比べると儲からなそうだし、自分には余裕はないので、他の銘柄よりリターンが低いならちょっとまだいいかなと思う。』(20代男性)
『リターンは度外視で寄付に近い。若い人に託す感覚。』(70代男性)
『自分のリターンも増えて社会課題の解決にちょっとでも役に立つなら、Win-Winだなと思った。』(20代女性)

■自分でインパクト投資したい投資分野

フォーカスグループ参加者にインパクト投資の様々な投資分野を見せ、「自分ならどの分野の企業に投資したいか」と尋ねたところ、(関心ある社会課題のときと同様に)男女で差が見られました。
男性は「環境保全」、「中小企業支援」、「再生可能エネルギー」など、ニュースや経済紙に多く登場する分野へのインパクト投資に前向きな姿勢を見せています。

一方女性は社会課題に対して、マクロ的視点よりも寧ろ「身近、リアルに感じられるか」、「共感できるか」との視点でジャッジする傾向がみられます。そのため、投資分野も「質の高い教育・子育て」、「女性、外国人、障がい者、高齢者の活躍を推進」といったダイバーシティ&インクルージョンを推す傾向が見られました。「気候変動」を挙げる場合も、『森林火災でコアラが危機に瀕する映像を見ると切実度が増す』(20代女性)ことがきっかけになっています。

『やっぱり従業員を大切にしている企業とか、環境問題、労働問題にも取り組んでいる企業。』(20代男性)
『大きい問題だと気候変動。これによって、たくさんの人が世界中で被害を受けているわけだから。』(70代男性)
『貧しい子どもたちを支えたいなという思いがある。私自身も子ども時代は悲惨な思いをしたので、そういう子たちを助けたいという気持ちがある。』(20代女性)
『文化芸術の振興に寄与する企業への投資。私はずっと音楽をやっていたのだが、音楽だけで生活するのはすごく大変。』(60代女性)
『女性とか外国人、高齢者、障碍者をもっと活用した方がいいと思う。』(70代女性)

■インパクト投資に割く金融資産の割合、期待するリターン

現時点では消費者が購入できるインパクト投資商品が少なく、投資対象企業のイメージも薄い状態なため、具体的な投資額などは想像しづらい様子です。どのグループでも、投資可能金額の概ね1割程度という回答です

また、リターンは通常の投資より1~2%低くても許容可能とのこと。特に女性はインパクト投資に対して寄付的な性格を位置付ける傾向があり、リターンに対しては男性よりも鷹揚です。

『インフラとか社会性の大きいのは先行投資して、ある程度リターンが上がるのは10年20年スパン。毎年安定してリターンを得るのは期待していない。最終的に還ってくればいい。』(30代男性)
『投資であれば、株だとかと同じくらいのリターンを当然期待する。もしそうでなくてもいいと考えるなら、それはもう寄付ですよね。』(60代男性)
『そんなにリターンは求めていないので2~3%。』(20代女性)
『(リターンは今より) マイナス1%くらいでよい。』(60代女性)

■フォーカスグループから得られた洞察、示唆

言うまでもありませんが、フォーカスグループの参加者は4グループ合わせても16名であり、そこでの発言は日本の消費者全体を表しているものではありません。
それでも、その場の発言には参加者の本音、思いが現れており、今後、リテール分野でインパクト投資を普及させていくうえで示唆に富むものでした、

(1)商品属性面での示唆
・インパクト投資の社会貢献特性を訴求することが、幅広い世代向けに有効です。
・男性は女性に比べ、インパクト投資を(寄付でなく)投資と位置付ける傾向があります。
・そのため、男性をターゲットにする投資商品では、リターンと社会貢献性の双方を持たせる必要があるでしょう。
・また男性と女性では、選好する投資対象領域に大きな違いがあります。
・そのため、気候動や再生可能エネルギーのような地球規模的なインパクト投資商品と、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)のような身近な社会課題へのインパクト投資商品を分けて準備する必要があると考えられます。

(2)ターゲット顧客セグメンテーションでの示唆
・若年層でもシニア層でも、男性でも女性でも、「社会課題解決=利益は追求し難い=リターンは低そう」とのイメージがあります。
・上記から、先行的なターゲットとしては、金融資産額が高く、目先のリターンだけでなく、社会貢献を志向するセグメントが有望と考えられます。
・属性でいうと、60代以上の男女でポテンシャルが高いといえます。
・なお20代30代でも、所得や金融資産額の高めなセグメントでは、社会貢献の実感を得ようとする人が見受けられました。そのセグメントも重視するべきでしょう。

(3)その他の示唆
・消費者心理の中で、「インパクト」という語句が「社会課題解決」と結びついていない現状があります。
・そこで、「インパクト投資」に適切な日本語を添えることで(例:社会貢献投資)、認知度と関心度の向上が期待できるのではないでしょうか。

■おわりに

今回、インパクト投資に関する消費者意識の初めての定性調査を行い、消費者の生の声を聴いたことで、過去の定量調査ではなかなか窺い知ることが出来なかった消費者の心理を多少なりとも引き出すことが出来たと考えています。
今後SIIFとしてはインタビュー項目をリファインのうえ、定量調査と定性調査を交替で実施することで消費者意識の知見を蓄積し、インパクト投資の普及に寄与して参りたいと考えています。

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