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ゼブラ企業に見る、持続可能なソーシャルベンチャーの成長を促す新たなエコシステムとは

~日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019特別企画パネルディスカッション~

執筆者:インパクト投資オフィサー
⽥淵 良敬

■シリーズ:ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から■

これまで社会が抱える課題を解決するための民間の取り組みは、ボランティアやNPOの活動が中心だったが、ビジネスの手法を用いたイノベーションを通じて、社会課題に取り組もうというソーシャルベンチャーが現れている。2019年11月29日から3日間、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019」において、一般財団法人社会変革推進財団が主催した特別企画「新たなエコシステムのカタチとは」と題したパネルディスカッションが行われた。同企画では、「企業×イノベーション」、「ファイナンス×イノベーション」、「行政×イノベーション」の3つのパネルが設けられ、最新事例を交えてソーシャルベンチャーがイノベーションを持続的に生み出すことができるエコシステムとはどのようなものか、どう育てていけばよいのかなどが議論された。特に「企業×イノベーション」では、ソーシャルベンチャーの新しいコンセプトとして注目されているゼブラ企業を取り上げた。

当日、各セッションには民間企業、官公庁、ソーシャルセクターなど様々な分野から100名以上の参加者があり、社会的インパクト投資への関心の高さをうかがわせた。

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左から:SIIF田淵、山中氏、甲田氏、Williams氏(オンラインによる参加)

「企業×イノベーション」では、急激な成長により歪みも生まれてきたユニコーン企業に対抗する存在として現れたゼブラ企業を取り上げ、ゼブラ企業や社会的企業はどういうものなのか、この2つの企業の具体的な事例が紹介され、これらの企業におけるインパクト投資の役割と今後の可能性について議論された。

◇パネリスト
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF) インパクト・オフィサー 田淵良敬(モデレーター)
一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム ディレクター、グロービス経営大学院教員 山中礼二
株式会社AsMama 代表取締役社長 甲田恵子
Zebras Unite(ゼブラズ ユナイト) Co-Founder Aniyia L. Williams(アニヤ・エル・ウィリアムズ)

登壇者による自己紹介が行われた後、ゼブラ企業や社会的企業とはどういうものなのかが語られた。社会的企業である株式会社AsMamaの甲田恵子氏は「日本では、まだ社会的企業は、営利を求めず、社会に貢献する会社という自己アピール的な表現に捉えられがちである。社会的企業と公言すれば、社会的インパクトを追求し、利益ファーストではない企業というイメージを持たれ、ベンチャーキャピタル(VC)からは投資対象になりにくいと考えられた。最近になって現れた社会的インパクト投資について注目をしているVCもいるが、自分たちの投資活動として位置付けられるか確信を持っていないVCも多く存在する。」と日本における社会的企業の現状について率直に語った。

Zebras Unite のAniyia L. Williams氏は「ユニコーン企業と呼ばれる、急成長し何十億ドルもの利益を上げる企業の存在があるが、そういった企業はどんな犠牲を払っても成長を優先しようとし、そこにある種の歪みが生じることがある。そのようなユニコーン企業へのアンチテーゼとして生まれたのがゼブラ企業だ。利益だけでなく、社会に役立つことも求める企業をゼブラ企業と名付けた。」とゼブラ企業というコンセプトが生まれた背景について語った。

続いて、ゼブラ企業やソーシャルベンチャーについて苦労話も含めた具体的な事例などが報告された。甲田氏は、「自分たちのミッションを犠牲にして、経済的なリターンを追い求めることはできないと考え、一時期、利益だけを追う投資家からは投資も融資も受けないと宣言したことがあった。それでも会社を成長させるためには、資金調達は必要なため、社会的なリターンの追求を認めるファンドなどから支援いただいた。ただ、VC側からは、利益ファーストにしないと宣言する以上、投資はできないと言われたこともあり、両方を追い求めるということは難しいと感じた。」と創業当初からの事例を語った。

Williams氏は「アメリカでも従来の手法で投資をしない人も現れているが、まだまだ利益ファーストで投資している人たちが多数を占めており、大きな利益を上げる少数の企業家に投資が集中している実情がある。そういった中で、レベニューシェアインベストメントという投資が注目を集めている。、株式価値が向上した際に保有株式を売却して利益を得るという従来の投資と異なり、投資先企業に売上があった時、その売上のうちあらかじめ決められた割合分を分配してもらうという方法だ。

コマーシャルVCと社会的投資の両方の経験がある、一般財団法人KIBOW山中礼二氏からは、「VCとして投資対象にならないが、インパクト投資家として投資したい対象企業があった。その際、通常のVCとは違ったアプローチをするべきかどうか悩んだ。話題になっているゼブラ企業がKIBOWの社会的投資先になるかどうかはわからないが、KIBOWとしては、時間はかかってもいいが、投資額が10倍になって返ってくるような投資をしたいと考えている。例えば、10年かけて企業価値が10倍の企業に成長するには、どういった経営が必要なのか。そういったことを考え続けられる企業に投資をしたい。」と社会的投資という視点での事例を示した。

最後に、ゼブラ企業や社会的企業に対してインパクト投資はどうあるべきなのか、その役割と今後の可能性について意見が交わされた。
Williams氏からは、「アメリカでは、既存のベンチャーキャピタル産業に違和感を持っている人たちが多くいて、それがゼブラムーブメントにつながっている。だが、そういった企業へ新しい手法の投資を行っていこうという投資家もいる反面、企業の成功率しか見ないような投資家も依然として多い。」とアメリカでの現状について語られた。それを受けて、甲田氏より「日本にも近しい状況があり、倫理観を大切にした投資が根付くためには、社会的インパクト投資家と、コマーシャルVCが共存する必要があるのではないか。お互いに良い関係が築ければ、社会的リターンも経済的リターンも共に追い求めて成長できるのではないか。」という意見が出された。

最近はエクイティクラウドファンディングのように多くの人から資金を調達する動きも現れている。今後は、投資家だけではなく、起業家も多様なタイプの起業家が現れ、両方の多様性が広まっていくことが考えられる。新たなエコシステムが広まると共に、社会的企業とゼブラ企業との定義をきちんとしていくことが重要になっていくだろうと締めくくられた。

 

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