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日本初「システムチェンジ投資」をテーマに50人規模のイベントを開催しました。

SIIFインパクト・エコノミー・ラボは2024年2月16日、博報堂「UNIVERSITY of CREATIVITY」との共催で、日本初の「システムチェンジ投資」関連イベントを開催しました。題して「Impact Investing for Systems Change ~システム変革のためのインパクト投資の実現〜」。約50人のご参加をいただき、活発な議論が行われました。その模様を、イベントを企画・運営したSIIFインパクト・カタリスト、古市奏文がご報告します。

博報堂運営「UNIVERSITY of CREATIVITY」と共催、高校生の参加も

 インパクト・エコノミー・ラボは「システムチェンジの触媒」となることを目指し、システムチェンジ投資の事例収集や勉強会を行ってきました。今回のイベントは、これまでに私たちが蓄積してきた情報を世に問い、システムチェンジへの理解を広げていくための第一歩です。株式会社博報堂にご協力いただき、同社が運営する「UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)」を会場に、半日がかりのイベントを企画しました。
 
 「システムチェンジ」とは、社会課題を引き起こす構造の変革を目指すものです。その実現のためには、投資家だけでなく、政府や自治体、事業者、研究機関ほか、社会を構成するあらゆる立場の人々と連携していかなければなりません。今回のイベントはUoCとの共催により、様々な業界の企業人や資金提供者、支援者に加え、次代を担う高校生にもご参加いただくことができました。

参加者にも意見を交換してもらう、インタラクティブな構成

 「システムチェンジ」という概念は、まだあまり知られていません。イベントの各セッションは、インパクト投資の現状から説き起こし、なぜ「システムチェンジ」の追求が始まっているのか、システムチェンジとはどんなことで、そのためにどのような投資が考えられるのか、という順番で構成しました。
 
 参加者の理解を深めるため、セッションの進行方法にも工夫しました。登壇者とは別に、公式コメンテーターとしてNPO法人ミラツク代表の西村勇哉さんを迎え、各プレゼンテーションに対するまとめコメントをいただきます。その上で、参加者が3〜4人のグループに分かれてインタラクティブな意見交換を行いました。その結果を、また全体に持ち寄って質疑応答を行う。会話が弾み、休憩時間まで議論を続けていたグループもあったようです。

インパクト投資からシステムチェンジ投資への移行を解説

 セッション1では主に私から、システムチェンジに関するSIIFの取り組みと、インパクト投資の現状・動向などをお伝えしました。インパクト投資市場が成熟してくれば、その投資が実際に社会課題の解決につながっているのかが問われるようになります。こうした問題意識から発展してきたのがシステムチェンジ投資です。
 
 従来のインパクト投資は、投資先企業が事業として課題解決を目指すものです。投資家と企業は、いわば一対一の関係でした。これに対して、システムチェンジ投資は社会のシステムに切り込もうとするものです。そのために、システムに関わる様々なステークホルダーを対象に広がりを見せ、投資家の資金提供手法や貢献のあり方も多様化しています。

 このセッションでは、参考として、ステークホルダーとの新しい関係性によりビジネスを作り出している株式会社ON THE TRIP代表取締役社長の成瀬勇輝さんにご登壇いただきました。この会社は寺社や美術館のオーディオガイドを制作していますが、ユニークなのは、そのビジネスモデルです。オーディオガイドの対価をもらうのではなく、オーディオガイドによって拝観者や入館者が増えたら、その収益に応じて報酬を受け取る。事業者と顧客が同じ方向を向いて協働する仕組みです。こうした新しい関係の構築は、システムを変える方法の1つだと考えています。

英国の事例を中心に地域特化型のインパクト投資を紹介

 社会のシステムはあまりにも複雑で、全体を捉えようとしても、どこから手を付ければいいか分かりません。そこで、システムを特定の広さや領域に特化することで現実的に扱えるように限定されたインパクト投資も進んでいます。1つは「ヘルスケア」などのテーマに特化するもの、もう1つは地域を特定する「Place-based Impact Investing(PBII)」です。2つめのセッションでは、そのPBIIを具体的に進めるSIIF System Change Collective事業のプロジェクトリーダー、加藤有也と、地域連携において先行して事業づくりを行っている日本郵政の事業共創部担当部長の小林さやかさんをお招きして世界のPBII事例についてディスカッションしました。
 
 世界でも、特にPBIIが進んでいるのが英国です。非営利組織である Impact Investing Institute がPBIIを推進しており、投資家向けのガイドブックも用意しています。特徴は地域年金基金が先行して資金を提供する点で、中でも Greater Manchester Pension Fund は総資産の5%を地域に限定した投資に充てているそうです。また、ブリストルでは自治体が主導して18億円規模のファンドを組成し、地域課題の解決に役立てています。

システムチェンジ投資の火付け役を探るディスカッション

 最後のセッションのテーマは「システムチェンジに資金を呼び込むにはどうすればいいか」です。ここではSIIFインパクト・カタリストの川端元維がモデレーターを務め、一般財団法人リープ共創基金代表理事の加藤徹生さん、フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社の小柴優子さん、みてね基金の岨中健太さんとディスカッションしました。
 
 事例として取り上げたのは、アメリカの中間支援組織 ReFEDです。ReFED は「フードロス50%削減」を掲げて活動していますが、特筆すべき点は経済価値とソーシャルインパクトの両面から参照できるデータベースの構築にあります。こうした情報提供によって投資を呼び込む手法に注目しています。


 セッション終了後には懇親会も用意し、イベントは夜8時まで続きました。全体で7時間近い長丁場でしたが、途中で退場する参加者も少なく、事後アンケートも概して高評価をいただきました。自由回答では「システムチェンジに関心は持ったが、自社で取り組むにはまだハードルが高い」という感想が多かったように思います。
 
 私たちインパクト・エコノミー・ラボにとっては、多様な業界からご参加をいただき、ざっくばらんな議論ができたこと自体が、とても大きな収穫でした。今後も、こうしたイベントや個別の対話を通じて、コレクティブにシステムチェンジを目指すネットワークを築いていきたいと考えています。


イベント概要はこちら↓


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