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持続可能な未来を築くリーダーへの招待:インパクトキャリアを志向する若手メンバーでのキャリアトークセッション

2021年7月から2024年3月まで約2年8ヶ月ほどSIIFにインターンとして参画させていただきました安井大斗(やすいだいと)です。
 
在籍中は、アクセラレータープログラム「ハルキゲニアラボ」の運営やインパクト・エコノミー・ラボでの活動でお世話になりました。主にイベント企画・運営補助、ロビング活動アシスタントやSIIF発行物の原案作成(インパクトレポートやビジョンペーパーログ)などに従事し、インパクト投資コミュニティの全体感を体感するだけでなく、実務を通して大学では感じることのできないプロフェッショナルの「仕事の仕方」を学ばせていただきました。
 
一方で、自分自身にしかできない仕事を組織内では模索することとなり、最終的に私たち若者世代から見たインパクトを追及する組織やその周辺の議論を若手メンバーの口から出た本音から抽出することで、これからの未来を考えるきっかけにしたいと考え、本稿を企画・執筆しました。
 
また本稿に協力していただいたインパクトを追求する組織でお仕事をされているメンバーの皆さんから「これからの未来を若手メンバーを中心に考えていきたい」というお声をいただき、これからインパクトを追求する組織で働きたいという志を持つ学生や社会人に向けて「インパクトキャリア」をテーマにディスカッションを行いました。

「大企業で働くのは少し荷が重いけど、NPOのような非営利組織で働くのもなんだか不安。。」

「社会をよくする仕事がしたいけど、何をすればいいか分からない。。イメージがつかない。。」

といった思いをお持ちの学生や社会人の皆様へ、インパクトキャリア*を突き進む5名のU25若手世代が、それぞれの現場で感じたこと、考えたこと、悩みなどを議論し合い、インパクトキャリアを志向する若手の生の声をお届けすることで、皆さんのヒントになるようなことを発信します。

*インパクトキャリア:自身のキャリアにおいて経済的価値だけではなく社会的価値の軸を持つこと。

(筆者作成)

メンバー紹介

安井 SIIFインターンの安井大斗です。本日はよろしくお願いいたします!本日は、インパクトキャリアを志向する若手の集まりということで、緊張しますが皆さんお手やわらかにお願いします。


(写真:左からSIIF安井・STYZ木暮・PSI佐藤・Z&C阪本・Ridilover菅家)

安井:それでは、本日お集まりいただいた皆さんに自己紹介をお願いしたいのですが、まず佐藤さんから順に名前・所属お願いします!

佐藤プラスソーシャルインベストメント株式会社の佐藤真陽です。立命館ソーシャルインパクトファンドの運営スタッフをさせていただいています。立命館のソーシャルインパクトファンドでは、「グラスルーツ・イノベーション」をポリシーに、投資先と教育・研究をつなぎ、社会への価値創出をめざしています。私は立命館アジア太平洋大学に在学中ですが、有難いことに自身の探究テーマとも重なっていたこともあり、ソーシャルインパクトに関わる色々なお仕事のお手伝いをさせていただいております。

阪本:株式会社Zebras and Company(以下Z&C)の阪本菜です。2022年5月にアメリカのリベラルアーツカレッジを卒業後、新卒でZ&Cに入社しました。今年で就職して2年目です。Z&Cは、社会性と経済性を両立し、長期的な目線での成長を目指すゼブラ企業という概念を世の中に実装するために、ムーブメント作りや経営支援、投資、ゼブラという概念の理論化を行っている会社です。その中でも、私は社外への情報発信やデザイン、イベントの企画などの仕事をしています。2023年の8月にZ&Cとして書籍を出版したのでその出版記念イベントなども行いました。

木暮:株式会社STYZの木暮里咲です。新卒1年目で、STYZの中でも非営利団体向けの寄付プラットフォームSyncableで普段はNPOさんのファンドレイジングのサポートをしています。Syncableは、NPO・NGOなどの非営利団体がオンラインでの寄付を集めに活用いただけるサービスで、現在は3000団体以上の皆様にご利用いただいています。主にクラウドファンディングなどの単発寄付や継続寄付募集など団体の挑戦をサポートする伴走支援を行っています。本業以外では、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証「BCorp」の取得サポートなども実施してきました。

菅家株式会社Ridilover(以下、リディラバ)の菅家周平です。大学を卒業後、就職して1年目の年になります。リディラバという会社はインパクト投資や評価だけを行っている企業ではなく、「社会の無関心の打破」という理念のもと、社会問題の発見・社会化・資源投入に一気通貫で取り組んでいる会社です。リディラバがインパクト投資と関わり始めたのはここ1年半くらいで、現在はアセットオーナーであるかんぽ生命さんとその運用を行うコモンズ投信さんとともに、上場企業を対象としたインパクト投資に取り組んでいます。

安井:皆さんありがとうございます!それでは、私を含め5名のメンバーでディスカッションをしていきたいと思います!話しながらお互いに随時質問等入れていただいても大丈夫ですので楽しく話をしていきましょう!

今の仕事をするきっかけ

安井:皆さんはなぜ今の仕事につくことになったのですか??

佐藤:私は、元々会計を専門に勉強していたのですが、大学1年生の時に内閣府の国際交流事業への参加や留学に行ったことがきっかけとなりました。社会課題解決はすぐに解決できない問題があるということを肌で感じ、ソーシャルインパクトに関する研究に出会ったことからインパクトを志向した組織に関わり続けています。

阪本:私がゼブラ企業という概念に初めて出会ったのは、Z&Cが創業してすぐのローンチ記念イベントでした。ちょうどZ&CのXアカウントがフォロワー30人弱くらいの頃だったと思います。それを偶然見つけてイベントに申し込んだんです。「あ、これが私の見てみたい景色だ」と思って。採用募集などは特にしていなかったのですが、問い合わせフォームからいきなりご連絡して、インターンとして入れてもらいました。本当に偶然の出会いですね。

木暮:私は、たまたまの出会いでファンドレイジングという単語を知り、活動を続けていくうちに仕事に繋がっていました。ファンドレイジングとの出会いは、高校生の時に先生に連れられて行ったファンドレイジングに関するイベントで「なんだこれは!」という刺激を受けたところが始まりでした。社会課題解決の最前線で活動しているNPOに感謝と尊敬の気持ちがあり、その中でも活動を続けていくためには資金面での苦労が絶えず、それを手助けしているファンドレイザーという仕事に憧れを持ちました。そして自分自身がファンドレイザーとして多くの団体のサポートをすることで、社会課題解決の促進に携われたら嬉しいと思い、今の仕事がその答えでした。

菅家:私は元々、ベンチャーフィランソロピーという手法で、社会的事業に対する資金面・経営面での支援を行い、社会的なインパクトの最大化を目指す団体で2年ほどインターンをしていました。そこで協業先のソーシングに携わる中で、NPOや企業が創出しているインパクトは何かを数多く分析しました。その際に特に重要視していたのが、その団体や企業の取り組みは、社会問題への対処療法的なアプローチなのか、社会課題を根本から解決するアプローチなのか、という点です。それを通じて、社会課題を構造的に捉え分析するということに関心を持ちました。

若手メンバーの考える自分たちの業界認識

菅家:その経験をもとに「実は社会課題を構造的に捉えられているプレイヤーは少ないのではないか」ということを感じました。それが良いか悪いかという話ではないのですが、例えば社会起業家は、自分や身近な人が当事者であるなどの強い原体験をもとに目の前の課題解決に必死に取り組んでいる方が多い印象です。そこで構造的に社会課題を捉えながら、全体最適を考えた時にどこにアプローチしていくべきなのかを考えていくことができるプレイヤーがいることも重要なのではないかと感じました。一方で、構造的に捉えるということはある意味俯瞰的に捉えるということにもなります。その際にそれがきちんと手触り感のあるものなのか、社会問題の当事者や困りごとを抱えている人に寄り添ったものなのかと問われると、それもまた少し変わってくる気もします。そこで、現場目線と構造的目線を自分の中でも両方持ちながら、両側にいるプレイヤーを繋げられるような仕事をしたいと思った時に、リディラバの「構造化」というアプローチや当事者の声を社会に届けていくという理念がマッチしてるなと思いました。

(リディラバの構造化:「地域医療」の事例

阪本:そうですよね。SIIFさんのいうシステムチェンジみたいな思考は必要だと思います。社会課題のシステム全体を見た時に、どこに着目すれば、よりその課題の根本的な解決に近づくのかについても考えたいなと私も感じています。。もしかしたら菅家さんがZ&Cにいた可能性もあるのかもしれないですね。

SIIFのシステムチェンジ

佐藤:私もそう思います。現在SIIFさんはもちろん、リディラバやZ&Cの事業の中でも社会課題をToC*のような形で整理しているのを見て、インパクトを創出し可視化する、その前段階で注力する社会課題をしっかりと理解することが大切なのだなとお二人のお話を聞いていて思いました。また、この1〜2年で、インパクトを可視化しようとすることに興味を持つ組織が増え、インパクトレポートなどを公表することで新しい価値基準を共有する組織も増えたなと思っております。今までは、SDGsなどの広がりもあり社会課題の解決を意識してますということを公表することはありましたが、「こういう価値基準を持って評価してます」という自社の価値観というのは共有されにくかったと思うんです。今、それらが広がることで今までの資本主義の中だと注目されにくかった視点の広がりに繋がるのかなとは思っています。今まで評価されてこなかったことが注目されることで、自分の価値基準をそれぞれが共有し、お互いに理解するように寄り添うという流れができるのではないかと個人的には考えています。これがひいては、社会課題の解決につながるのかなと思います。

*セオリーオブチェンジ(ToC:Theory of Change):NPO法人などの社会課題の解決を目指す団体などが、事業がどう社会の変革に役立つのかについて、課題の構造・原因と、解決するための変化の理論・法則を図式化したもの

(日本財団:スタートアップ支援プロジェクト「用語集」より)

木暮:そうですね。私はまだ業界に長く関わっているわけではないので「変化」について比較できるものがないためはっきりとは分からないですが、私が関わりのあるB Corpを見ていて思うのは、かなり網羅的に評価されている仕組みだなと思ってます。企業が利益を追求しながらも会社として社会貢献、環境への配慮、従業員が働きやすい環境なのか、ガバナンス面などバランスよく取り組むことができているのかが評価されます。認証にあたって一定の基準を満たすために「どう頑張れば良いのか」を企業の皆さんが真剣に考えることで企業も変わっていくのだと思います。認証のための動きだけでなく、何を見直す必要があるのか、どのような状態が理想なのかを考えた上で企業としてもレベルアップでき、認証取得にも繋がるのだと思っています。また、B corp取得のための認証基準(世界共通)も現在見直しのフェーズに入っていて、2025年には世界共通で審査項目や分野、基準が新しくなる予定です。社会の環境に合わせて評価の基準も柔軟に変化していけると良いなと思います。

*B corporationの略、アメリカの非営利団体「B lab」による国際的な認証制度で、社会・環境に配慮した公益性の高い企業に与えられる。

(B lab HPを参考に)


B corpの評価:Patagoniaの事例

若手メンバーの考える業界課題について

阪本:なるほど。「ゼブラ企業とB corpって何が違うんですかね?」と比較していただくことが多くあります。ありたい未来としては、同じ方向をみていると思うんです。B corpは、ありたい姿に関して、それを具体的な基準を定めることで目指していこうというありかたです。一方、ゼブラ企業はあえて抽象的な世界観に止めているんです。なので、「この企業はゼブラ企業、この企業はゼブラ企業ではない」と一概に言えるような基準を設けるつもりはありません。「こういう企業はゼブラ企業だよね」という事例を見ながら、みんなで一緒にゼブラ企業という概念について考える中で、概念を深めていければと考えています。多くの企業はゼブラ企業という概念のグラデーションのどこかにいると思うんです。


Z&Cホームページより)

安井:そうですよね。そうやって新しい概念が生まれる時には、グラデーションはできるイメージがありますし、議論も活発になる気がします。

木暮:良いですね!例えばSDGsも「今SDGsって企業として取り組んでいないと遅れているから積極的にやるべき」という風潮ができていると思うんです。こういった流れは良い流れなのではないかなと思っています。

阪本:そうですね。インパクトキャリアという視点でいくと、社会人一年目からインパクトキャリアに踏み出す必要はもちろんないと思っています。私たちのような新卒からインパクトを中心に据えて経営を考えることを追い求める会社に入った人たちをインパクトネイティブと表現すると、そういった人材を広く育てられるような余裕はこの業界にはまだないのかなと思います。新卒のような、これから仕事を覚えていくことを必要とする人材がこの業界に求められているのかという議論も必要かもしれませんが。。
加えて、業界の今の段階だと周りで経営レイヤー以外ではたらいているのが、30歳前半でコンサルタントと事業会社をどちらも経験している人が一番活躍できている印象があります。
一方で、新卒で入った企業の経験がコアな遺伝子になり、思想になるという話も言ってもらっていて、それでいうと今後社会全体でゼブラ企業やインパクト的な思想は必要になると思うのでこの経験は大事だなと思うこともあります。

阪本:あとは、どういった立場で仕事をしたいのかにもよると思いますね。事業会社としてなのか、それとも、支援する側になるのか。

菅家:インパクト偏重に対しての批判なども最近は見受けられます 。それはインパクトという考え方やインパクトそのものに対する批判というよりも、「全てのインパクトが定量的に測定できるわけではなく、定量的に測定できるインパクトのみが評価されるべきではない」や「インパクト”投資”という手段だけではこぼれ落ちる社会課題がある」という主張だと個人的には捉えているのですが、インパクトは目的ではなく手段だと考えているので、このような議論がどんどん増えていって欲しいし、増やしていきたいと考えています。さらに言えば、何がインパクトとして評価されるのか、いつ、誰が評価するのかなどによって変わりうると思います。そもそも何が社会課題なのかということが、社会全体での対話によって繰り返し定義されていくものだと考えています。今社会課題だと考えられているものが、5年後にも社会課題だと考えられているのか分からない。インパクトはより多くの人を巻き込んだ対話によって理想の社会を創っていくコンセンサスを取るための手段になっていくと思います。

佐藤:私も菅家さんに近い感覚で「インパクトを評価し、インパクトがあるから良い」という訳でもないと思うんです。そもそも私たちは、インパクトは何のために評価するのかについて共通認識を持つことが必要だと思っています。特に、インパクト投資などでのインパクトの評価というのは、「社会課題解決は必要だよね」という価値観は、インパクト投資を行う人の共通の価値観であり、インパクトの活用は、その概念の中での一つの価値尺度だと考えています。

インパクトキャリアを志向する若手メンバーの将来像

安井:なるほど。それでは最後になりますが、皆さんの将来像について教えてください。

阪本:私は何か専門性を身に付けたいと思っています。まだ具体的なイメージはついていないのですが。3. 4年経験を積んだ後にまたゼブラ的な事業会社に行きたいと思っています。そうすれば即戦力として手を動かせる人材になれるのではないかなと思っています。

菅家:私はリディラバに入社した時から一貫していて、社会課題を構造的に捉えるということと、社会問題の現場で地に足がついたことをするというとことのどちらもできる場にいたいという思いと、その両側にいるプレイヤーを繋げられる存在になりたいという思いがあります。そのために必要な知識やスキルを場面に応じて柔軟に身につけていきたいです。

木暮:私もNPOさんの支援をしていて、やはり現場に身を置く必要性を感じています。今は、幅広く様々な団体の支援を通して、自分にできることを考えるためにお仕事をしているところもあります。NPOの中でも、社会課題として認識されていない領域から団体として活動されているところまで幅広くサポートできることが弊サービスの特徴だったりします。そういったことを続けていきたいなと思いながらも、個別組織の所属ではなくバックアップの立ち位置なので関わりが薄くなってしまうところもあります。さっきの菅家さんの構造的に見ることと、現場を見ることを両立したいなと思いながらも両立は難しいなと思うところもあります。なので、いずれかはNPOの現場で働き、その上でキャリアを見出していきたいと思っています。

佐藤:私は今年の4月から大学院に行くのでアカデミックの方へキャリアも考えています。それこそ皆さんのように共感できる事業会社への就職ももちろん今後検討はしますが、そもそも「インパクトとは」「社会問題とは」というそもそも論のところを何かしらの文脈で追求できる仕事につきたいと思っています。現在の日本では、ソーシャルインパクトについて様々な立場の方々が議論をしているのですが、誰がそのイニシアチブを持つかということが問題になっていると感じます。将来的には、このイニシアチブの中で先陣を切るような立場のところへ、キャリアを進めたいと思っています。また、私は社会課題解決の中で、組織を動かす方も、中間支援組織で寄り添う方も、様々な人たちの連携が必要不可欠だと思っています。そのため、人としてそれぞれの立場の方々と一緒に社会課題解決を目指し、「その活動は価値がある」ということを肯定できるようになりたいと考えています。

編集後記(SIIFインターン:安井大斗)

私は、本トークセッションを経て若手メンバーの志の高さを感じる一方で、日に日に成長するインパクトのダイナミズムに対してどこか焦りや不安もあるように感じました。

やはり我々世代はインパクトという言葉が提起され、市場を作り広げられてきた約10年前からさらにこのムーブメントを促進していくという自分たちの立場を客観的に理解しており、その中で自分たちの役割や自分たちにしかできないことは何かということを模索しているように思います。

それぞれがインパクトキャリアを模索する中で、次のステージを意識しつつも今を大切に身につけられるスキルを身につけたり、日々の仕事に食らいつき自分の能力を向上させていこうという思いを強く持っています。

この進み行くムーブメントのなかでこれまでの取り組みを踏襲しつつも、いい意味でそこに囚われない「次のインパクトを作っていく」という心意気のある若手人材と一緒にお仕事ができることを楽しみにしています。

一方で、本稿をお読みの皆様、特にインパクトキャリアを考える若手の皆さんには今現状で提起されている物事を疑い「本質的なインパクトとは何か」をぜひ考え続けて欲しいし、私たちも一緒に議論ができればと思います! 

【編集・執筆:安井大斗】

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