豊田市足助「重伝建地区選定10周年事業」第5回 実行委員会議 メモ
2021年8月20日、「重伝建地区選定10周年事業」の第5回目の実行委員会議が足助支所にて開催されました。
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5回目となる今回の会議では、まずファシリテーターの堀部篤樹支援員による前回会議のふりかえりを行いました。
次に、重伝建制度の概要について説明をしたうえで、実行委員会内の意見を整理するためのワークショップを行いました。
また、前回会議で決定したキャッチコピーを元に、ポスターを制作する企画について提案するお話しをしました。
最後に連絡事項として、重伝建地区選定10周年事業と連携した豊田市博物館の各種企画や、次回以降の会議の予定について、お知らせをしました。
皆さんには、あらかじめ配布した書面にコメントを書いてもらい、意見集約をはかることにしました。
【Review / 前回会議のふりかえり】
ファシリテーターの堀部支援員による、前回会議のふりかえり。
前回会議の企画「ローカルメディア縁側 in 足助の町並み」での情報発信や本(=成果報告書)の制作については、前回実行委員の皆さんがワークショップで話し合った内容をふまえ、現在、具体的な制作作業の進め方について検討中であることを報告しました。
また、前回会議の「コメント票」にて、今回の会議テーマと関連した事前質問として、「重伝建制度について、どの程度ご存じですか?(①よく知っている / ②少し知っている / ③わからない / ④あまり知らない / ⑤何も知らない の5段階)」という質問をしたところ、以下のような結果となったことを報告しました。
やはり足助に住んでいる方々は、重伝建制度に関する何らかの情報を多少ご存知の方が多いようですが、「よく知っている」とは言い切れるほどではないようです。
一方、「重伝建制度について、気になることがあれば教えてください」という質問では、「補助金制度を詳しく知りたい。重伝建(伝統的建造物)の家の補修について知りたい」という意見や、「住んでいる人たちへの丁寧な説明が必要」といった意見もありました。
このようなひとつひとつのコメントをふまえながら、やはり重伝建制度に関するお話は、基本的なところから、丁寧に説明をしていく必要があるということを、あらためて感じました。
【Outline explanation & Workshop of the "Jyu-den-ken" system / 重伝建制度の概要説明とワークショップ】
まず、事務局の安藤由真(豊田市 文化財課足助分室 主事)より、重伝建制度の概要について、基本的なところからお話しをしました。
そもそも、重要伝統的建造物群保存地区(通称「重伝建」)とは、全国各地に残る歴史的な集落や町並みを守っていくために、各市町村が保存地区を決定し、条例を整備したもののうち、国(文化庁)が全国的にも価値が高いと判断したものが重要伝統的建造物群保存地区に選定する制度です。
令和3年8月2日の段階における重要伝統的建造物群保存地区の数は、全国で126地区104市町村にのぼります。
豊田市足助の歴史的町並み(豊田市足助伝統的建造物群保存地区)は、平成23年6月20日に、愛知県初の重伝建地区に選定されました。
以下に、この足助において、最低限おさえておく必要のある、制度上のポイントを書いていきたいと思います。
▶︎足助には「景観地区」と「伝建地区」の2種類の制度があること
…まず、重伝建制度について語る前に、足助にはもう少し広いエリアで景観を守るもう1つの制度があるということを知っておかなくてはなりません。
それが、現在の「足助町」7町(平成17年度の市町村合併後の地域区分)を範囲とする、通称「景観地区」と呼ばれるエリアにかかる制度です。
【景観地区 7町(西町、新町、本町、田町、宮町、松栄町、親王町)】
この景観地区の制度は、足助の町並みが重伝建地区に選定される約3年前の平成20年度に取り入れられており、景観法に基づく「足助景観計画(豊田市景観計画 足助景観重点地区)」として、豊田市の条例で定められています。
市町村合併後も、引き続き足助の景観を守っていくうえで必要な制度として、導入されたものかと思います。
この景観地区7町のうち、足助の歴史的町並みを構成する4町が、通称「伝建地区」と呼ばれるエリアとして設定されており、上記、景観地区の制度に加えて、重伝建の制度もかかることとなっています。
【伝建地区 4町(西町、新町、本町、田町)】
この「景観地区」と「伝建地区」の2種類の制度を混同してしまったり、制度の存在自体を知らなかったというケースもよく見受けられますので、まずはこの2つの制度があるということ自体を把握しておくことが重要です。
そのうえで、「伝建地区」に関わる重伝建制度の説明としては、上のパンフレット『足助伝統的建造物群保存地区 〜歴史を活かしたまちづくり〜』で概要を説明をしています。
さらに、実際に重伝建の補助金制度をつかって建物をなおしたいという方に対しては、下の『足助伝建ガイドライン』にて、文化財建造物の修理の仕方や、補助金申請手続きのスケジュールなどの詳しい説明をしています。
町並みの特徴を残していくうえでの基本的な考え方として、ガイドラインでは主に以下の点を心がけるよう示しています。
これらは町並みの景観形成をするうえでのテクニックのようなもので、具体的な手法については、各建物固有の歴史や立地条件などによって、ケースバイケースです。
また、上記のとおり、主な対象は周囲から「見える部分」となっており、反対に言えば「見えない部分」についての規制はありません。
ただし、例外的に「伝統的建造物」に特定された建物については、見えない部分に建っていても一定の制約が生じます。
立地条件に関しては、足助の町並みは主に以下の3つのエリアで特徴が異なります。
ガイドラインでは、それぞれのエリアの範囲や建物の特徴の事例を示しています。重伝建地区内の建物をなおす際には、こうした資料も参考にしながら、設計や工事を進めていく必要があります。
▶︎まずは「足助町並み景観相談会」へはかること
…こうした「景観地区」及び「伝建地区」の制度を運用する仕組みとして、7町のエリア内で町並みや景観を変える行為をする際には、事前に「足助町並み景観相談会」(以下、「景観相談会」と表記)で協議を行うこととしています。
景観相談会は、「足助まちづくり推進協議会」(足助のまち全体の合意形成をはかる地域住民組織)のなかの部会の1つとして位置づけられている、重要な会議体です。
景観相談会で事前協議にかけられた議案は、市で定められた以下の「景観形成基準」をふまえながら、地域住民や有識者(建築系の大学教員、民間の建築士など)で構成する委員らによって、意見交換が行われます。
この景観相談会で承認が得られた議案のうち、特に「伝建地区」内の議案では、さらに市に申請を行い、「現状変更行為許可」を受ける必要があります。
許可の基準は、市で定められた以下の「修理・復旧基準」及び「修景・許可基準」をふまえながら、判断がなされます。
このように、「景観地区」と「伝建地区」のそれぞれに細かな基準が設けられており、事前協議や事前申請がなくては、原則工事の着手はできません。
こうしたルールを知らずに、手続きなく工事を進めてしまうことのないように、適宜地域回覧などで、エリア内の地域住民への制度の周知を行う取り組みなどもされています。
今回の会議においても、景観地区内に住む実行委員の方からは、「自分は伝建地区の外に住んでいるので関係ない話だと思っていたが、事前協議がいるとは知らなかった」という話も伺いました。
やはり、こうした制度上必要な手続きを、定期的に地域住民へお知らせする工夫が必要だとあらためて感じました。
▶︎重伝建制度上の補助金には、「修理」と「修景」の2種類があること
…重伝建制度のメリットとして、伝建地区内の古い建物をなおす時や、新しい建物や塀などをつくる時に、一定の基準を満たすと市から補助金をもらえる点があります。
なおす建物が、「伝統的建造物」か「伝統的建造物以外(一般的な建造物)」のどちらに該当するかで、以下のように補助率や補助限度額が変わってきます。
また、「伝統的建造物」の特定に同意した建物所有者には、税制上の各種優遇措置が設けられています。
その他、足助の町並み内の金融機関である豊田信用金庫の融資制度も用意されているなど、伝建地区内の歴史的町並みを守るための、さまざまな支援措置が設けられています。
▶︎補助金をつかった整備には、かなり入念な段取りが必要
…前述のとおり、伝建地区内で町並みや景観を変える行為をする際には、事前に景観相談会にはかる必要がありますが、
補助金をつかった整備を行いたい場合には、別途「豊田市伝統的建造物群保存地区保存審議会」(以下、「伝建審議会」と表記)で承認を得る必要があります。
市の条例に基づき設置された伝建審議会にて、地域住民と有識者(建築系の大学教員)で構成する委員らにより、補助金交付の妥当性が審議されます。
それと同時に、重伝建地区の選定を司る文化庁と豊田市の間でも、適宜協議が必要となってきますので、補助金をつかった整備を検討中の方は、1日でも早く、市に事前相談してもらえたらと思います。
上記の事業スケジュール表にあるとおり、事前調査をして設計内容をかためていき、補助金の申請手続きをするまでに、約1年かかります。
その後、補助金交付決定から工事をはじめ、工事中の変更対応もしつつ、工事を完了するまでに、さらに約1年かかります。
これらの段取りを考えると、実に工事完了の2年以上前から、市への事前相談をしてもらう必要があります。
一般的な住宅整備よりも比較的長い事業スケジュールが必要な理由として、補助金申請手続き以外にも、「伝統的建造物」の設計の進め方自体が特殊であることが挙げられます。
「伝統的建造物」をなおしたい場合、まず昔の建物の様子が知るための調査を行います。
資料(古写真、図面、棟札など)を探す、聞き取りをする、建物の痕跡から改造の有無を探るなど、建物を復原するための事前準備が必要です。
そのうえで、これまでに説明してきたような、町並み保存の基本的な考え方や、エリアごとの町並みや建物の特徴を考慮しながら、設計を進めます。
一般的な住宅のリフォームでも、建物の構造上どこまで改造できるかなどの調査を行う場合がありますが、「伝統的建造物」においては、その建物の歴史を探るという、別の観点の調査に時間をかけていきます。
工事着手前の各種事前手続きを済ませ、市からの「補助金交付決定通知」が出て、いよいよ工事を始めることができます。
「伝統的建造物」の工事を進めていくと、工事中に建物の昔の使われ方がわかる痕跡が新たに見つかったり、建物の部材が腐っていて再利用できないことがわかるなど、当初考えていた設計や工事の内容を変更する必要が出てくる場合があります。
その場合、当初に行った各種手続きの変更作業をして、補助金交付についても変更申請を行います。その後に、市から「補助金交付変更等決定通知」が出されてから、ようやく変更分の工事を進めることができます。
重伝建制度について、その全体像をつかんでもらうために、あえて伝建地区外の景観地区の話から、伝建地区内の補助金の申請手続きの話まで、幅広い一連の概要をひとまとまりにして説明しました。
実行委員の皆さんは、配られた資料にしっかりと目を配りながら、真剣にお話を聞いている様子でした。
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重伝建制度の概要についての説明を聞いたうえで、当日の参加者を2グループに分けて、実行委員会内の意見を整理するためのワークショップを行いました。
ワークショップの形式としては、あらかじめ4色のふせんを用意したうえで、まず、実行委員の皆さんそれぞれが思ったことを整理しやすくするために、以下の3つの分類で、思ったことを書き出してもらいます。
そのうえで、書き出した3種類の思ったことそれぞれに対して、「提案」をしていきます。
今回で5回目の会議ということもあってか、実行委員の皆さん同士の会話も弾み、思っていた以上に多くの意見を出してもらうことができました。
貼られたふせんの色を見ると、青色のふせん(満足、期待)と赤色のふせん(不安、心配)は、ほぼ同数で拮抗しています。今後の取組みで、少しでも赤色を青色に変えていけるようにしていかなくてはいけません。
以下に、ふせんに書かれた主なコメントの一部を抜粋します。
一方、緑色のふせん(疑問、質問)は、今回のワークショップでは最も少ない票数となっています。こうした具体的な問いかけに対して、より丁寧にサポートしてあげられる仕組みづくりが今後必要となりそうです。
以下に、ふせんに書かれた主なコメントの一部を抜粋します。
最後の黄色のふせん(提案)は、若干少ないことが気になりますが、提案については、なかなか簡単には出てこないものです。
今年度1年間の実行委員会の活動を通じて得られたことをふまえ、次年度以降の事業化も視野に入れつつ、引き続き検討を進めていければと思います。
以下に、ふせんに書かれた主なコメントの一部を抜粋します。
今後、このワークショップの内容をふまえながら、次回第6回会議では、実行委員の皆さんと一緒に、実際に足助の町並みを歩いてみたいと思います。
その過程を通じて、足助の町並み内のどこが10年前と比べて変化があったのかをみんなで確認しつつ、今後の足助の町並みの未来に向けてすべきことのヒントが見つけていければと思います。
※ワークショップでふせんに書かれた全コメント及び「コメント票」にて集約した意見は、次回以降の会議にて共有予定です。
【Poster production using Logo mark & Catch phrase / ロゴマークとキャッチコピーを使ったポスター制作】
前回会議で正式に決定した、ロゴマークと3つのキャッチコピー。
▼「足助重伝建地区選定10周年事業 ロゴマーク」
▼「足助重伝建地区選定10周年事業 キャッチコピー」
▼「足助重伝建地区選定10周年事業 ロゴマーク・キャッチコピー ダウンロードサイト」
※足助重伝建地区選定10周年ホームページ内
前回会議の時点で、椙山女学園大学4年生の堀田明来さんより、今後制作予定のポスターデザインの提案に、ロゴマークとキャッチコピーを活かしていきたいという提案をしてもらっていました。
今回会議では、そのポスターのイメージ案がより詳しく示されました。
また、ポスター以外のPR方法として、Instagramのアカウントを開設し、オンライン上での情報発信も行うこととなりました。
椙山女学園大学では、堀部篤樹講師の指導のもと、足助の町並みをフィールドとした卒業制作の活動を、毎年継続的に行ってくれています。
過去の卒業生らもInstagramを使ったPR活動をしていたこともあり、今回も同様の取り組みをしてくれることとなりました。
今回、このポスターの制作とInstagramの情報発信をしていくにあたり、実行委員会の皆さんや、足助の地域住民の皆さんにも参加してもらいたいと考えています。
例えば、ポスターやInstagramの登場人物として写ってもらったり、制作中のアイデアに意見をもらうなどしながら、完成したポスターの設置にも協力をしてもらうなど。
以下に、「コメント票」にて集約した、ポスター制作に関する実行委員の意見を記します。
今回会議では、あまり詳しい説明の時間を割くことができませんでしたが、それでも実行委員の皆さんからは積極的な意見をもらうことができました。
この10周年事業をきっかけに、こうした住民参加型の取り組みを、新たなメンバーを巻き込みながら進めていけたら面白いのではないかと思います。
今後の進捗状況については、適宜実行委員会内で共有しつつ、活動を展開していければと思います。
【Collaboration with the Toyota City Museum Project / 豊田市博物館プロジェクトと連携した企画・イベントの開催】
その他、実行委員の皆さんへの情報提供として、今年度、豊田市の文化財課として足助をフィールドに開催を予定している「重伝建地区選定10周年事業関連企画・イベント」について、お知らせをさせていただきました。
現在、豊田市の文化財課は、令和6年度に竣工予定の「豊田市博物館」の全面オープンに向けて、ソフト面・ハード面ともに様々な準備を進めています。
「みんなでつくりつづける博物館」をコンセプトに掲げた施設運営を目指して、
現在は市民を巻き込んで、展示をつくったり、展示資料を集めたりするプロジェクトを段階的に実施中です。
今回の足助をフィールドとした上記①〜④の各種企画・イベントは、いずれもこの豊田市博物館のプロジェクトの一環として位置づけられます。
同じ豊田市の文化財課が取り組んでいる足助の「重伝建地区選定10周年事業」と相互に連携することで、これからの施設づくりやまちづくりに積極的に参加してもらえるプレーヤーの発掘などへの相乗効果を期待したいです。
今後、足助町内はじめ、豊田市全域での広報も展開していく予定のため、引き続き進捗を実行委員会でも共有していければと思います。
【Next Step / 次回の会議へ向けて】
今回の会議で学んだ重伝建制度の基本的な知識をふまえながら、次回の第6回会議は、会議室内の話し合いではなく、実行委員の皆さんと一緒に、足助の町並みを実際に歩いてみる回を設けてみようと思います。
実行委員の方のお仕事の都合上、日程を3グループに分けて開催することにはなりましたが、実行委員の皆さんと一緒に足助の町並みを歩くことで、皆さんそれぞれの思いや感覚がより詳しく知る機会となれば良いなと思います。
一方では、豊田市の広報紙『広報とよた』の8月号にて、足助の町並みと「重伝建地区選定10周年事業」が特集されました。
第1回会議のワークショップにおいても、足助の町並みの良さを情報発信することの必要性も話し合われました。
足助町内に住んでいる方々でさえも、足助の町並みのことや重伝建制度のことをあまり知らない位ですので、ましてや豊田市内全域で考えれば、ある意味知らなくて当然ともいえるのかもしれません。
まずは足助町内の地域住民から認知を広めつつ、徐々にその認知の輪を広げていき、多くの豊田市民が足助の町並みのことを知るきっかけをつくっていく必要があるんだと思います。
この運用の難しい重伝建制度を、今後も持続可能なものにしていくうえでも、実際にこの足助の町並みに住んでいる方々、ひいては豊田市民の皆さんに共感してもらえるような取り組みとして、この10周年事業が少しでも貢献できていたら幸いです。
▼髙木支援員作 YouTube動画
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